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神様とその子供たち
帰る場所


ゼロの鳴き声で眠れそうになかったので、僕はゼロを抱っこしながらベッドから出た。やることもないのでゼロの気が紛れればとテレビをつけると、ニュースが流れていた。こんな時間におかしいと怪訝に思いながらも見ていると、それは爆発事故の臨時ニュースだった。

「『今日深夜午前1時すぎ、四群北部の国営グランドホテルで火災が発生しました。爆発による火災とみられ、詳しい原因は調査中とのことですが、下級市民によるテロリストグループによる犯行の可能性も…』」

壁に映写された大きな画面に上空から撮影されたであろう現場の映像が映し出される。とても大きなホテルの一部が大きく破損して黒煙が上がっていた。

「『避難はまだ完了しておらず、宿泊客には連絡の取れない人狼もいるとのことで、今も懸命な消火活動が続いていますが、さらなる爆発、倒壊の危険があり救助は難航を……』」

普段は忙しく、テレビもゼロが興味ありそうな動物の番組ばかり見ているので世界情勢に詳しくはないが、こんな大きな事件は滅多にないだろう。テロリストの犯行かもしれないと報道されているし、この事件のせいでイチ様はこんな時間に飛び出していったのかもしれない。
映像での惨状を見る限り死人も出ているかもしれない。ゼロをあやしながら、僕はずっとこのニュースに釘付けだった。




朝になってもどこの局もずっとこの報道を続け、ここの人狼達の話題もそればかりだった。救助はまだ続いているが、すでに10人の死亡が確認されている。その全員が人間であり、最上階のスイートルームに宿泊していた人狼が窓から自力で脱出したという報道にはかなり驚いた。人狼の身体能力は一体どうなっているのか。そして昼前になり、画面にイチ様の姿が画面に映った時は持っていたゼロのおもちゃを落としそうになった。

「ゼロ! 見て見て、イチ様だよ」

「キャン!」

テレビ前を陣取って尻尾を振るゼロ。イチ様の後ろにはセンリの姿もある。僕はまえのめりになって画面のイチ様を見つめていた。

「『この事態に一貴イチ様を四貴ハツキ様が迎え、対策本部が設置されました。この爆発での人狼の被害はないものの、現時点で上級市民10人が死亡、行方不明者は58人になり、今も懸命な救出活動が……』」

徐々に被害の大きさがわかるにつれてだんだんと恐ろしくなってくる。爆弾による爆発であることはほぼ確定しており、犯人は下級市民のテログループと報道されていた。つまり人間が人間を殺してしまったことになる。人為的である以上、不足の事態でもない限りこの結果は計画通りということになる。恐ろしいことだ。

「イチ様達、大丈夫かな…」

つい、呟いてしまった僕の言葉に鼻を鳴らしてゼロまでも落ち込んでしまう。慌ててゼロをだっこして慰めた。

「ごめんゼロ、絶対大丈夫だから。心配しないで」

ゼロにはそう言いつつも僕の方も心配でたまらない。イチ様は人間の味方なのだから、彼が狙われることはまずないだろうが巻き込まれる可能性はある。きっとセンリを含めたたくさんの人がイチ様を守っているだろうから僕が心配することなどないかもしれない。けれど不安でたまらない。
それと同時にこんなにもイチ様を心配する自分にも驚く。彼は恩人ではあるが話した回数は数えるほどしかないし、それほど親しい間柄でもない。
彼を失えば働く場所がなくなる、人間の立場が弱くなるからなのだろうか。しかしそれだけではないと自分がよくわかっている。
ここに初めて訪れた時、不安でたまらない僕に「来てくれてありがとう」と優しく声をかけて迎えてくれたあの日から、僕にとってイチ様は特別な存在だった。



正午を過ぎて昼食を運ぶため、若い人狼のハレが来てくれた、ハレには少し嫌われているようなので普段はあまり話さないようにしているが、今日の僕は彼を呼び止めた。

「あの! ハレさん」

「…あ?」

「イチ様がいつ戻られるか知ってますか!」

僕に話しかけられると迷惑そうにするハレ。さっさとここから出ていきたそうにしているが僕の必死の形相に堪えてくれる。

「さあ。それは向こうの被害状況にもよるだろ」

「そんな……」

彼が帰ってくるまでこの不安と戦わなくてはならないのか。項垂れる僕にハレが吠え続ける屋根付きのケージに入れられたゼロを見て鼻をならす。

「まあその間、チビをしっかり見てることだな。しばらくはまともに寝られないだろうけど、しっかりやれよ」

「……」

ハレが出ていった後、僕は放心しながら彼の言葉の意味を考えていた。忘れていたが、イチ様が戻らないという事はその間ずっとゼロと一緒ということだ。この元気いっぱいイチ様を呼び続けているゼロと。

「いやでも事情が事情だし…、この前みたいにゼロもわかってくれる…よね?」

「ギャンギャン!!」

「えっ、ダメ?!」 

イチ様の体調不良の時は折れても今回は駄目らしい。駄々っ子のように暴れるゼロを見て可愛さと疲労がせめぎあっていた。


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