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神様とその子供たち
005


センリの言う通り、ゼロはちゃんとイチ様の部屋にいた。ベッドの上でイチ様に抱かれて大人しくしているゼロを見ていて、僕はほっとしながら慌てて駆け寄り謝った。

「すみませんイチ様、ゼロが柵を越えて出ていってしまって…」

「かまわない」

イチ様は俺の目を見て頷くと、再びゼロとじゃれあい始める。寝巻き姿のイチ様の姿が新鮮で、見てしまっていいものかと視線を右往左往させていた。

「イチ様もゼロと会えて嬉しいんですよ。このまま置いていてくれてかまわない、とおっしゃっています」

僕にそう耳打ちしたセンリは、本当にイチ様の表情を読み取ることができるらしい。かまわない、というのはそういう意味だったのか。ふと思い付いたことがあり、僕はセンリに小声で話しかけた。

「あの…センリさん。思ったんですけど、ゼロがあれだけ人の言葉を理解できるなら、イチ様から言い聞かせてもらえれば、普段からもう少し良い子で待ってくれるんじゃないですか」

イチ様が病気、イコール相手をしてくれないということがわかるくらいなのだ。イチ様から四六時中一緒にはいられないことを話してもらえれれば理解してくれるかもしれない。

「一理ありますが、その理屈ならおチビはすでにその辺りはわかっていると思いますよ。多分、誰が言い聞かせても無駄じゃないですかね」

「? どうしてですか」

「チビが暴れれば暴れるほど、少しでも早く帰って一緒にいてあげたいと思うのが親心でしょう。チビはイチ様の考えを言われなくても見抜いてますから」

「なるほど……」

ということはゼロはそれを狙って暴れているということなのか。それだけイチ様が好きだということだろうが、それは僕が何をやっても無駄だということになる。



ゼロをイチ様に任せ、一人部屋に戻る。ゼロがいなくなるとこの部屋は広く感じる。子供部屋なのに広すぎるせいか殺風景にも見えた。積み木のおもちゃ、小さいゴムボールやぬいぐるみ、大きめのサークル、鍵の閉まるケージ、使った形跡のないピアノ、お昼寝専用のふかふかのベッド、真崎の家と同じような壁に写し出すタイプのテレビ(周りが暗くなくてもはっきり見える)などゼロを退屈させないように工夫されて色々と揃えてくれている。僕はその奥にある小さな部屋に用意された自分のベッドの上に座りながら、どうすればゼロがいうことを聞いてくれるか考え込んでいた。





次の日、イチ様に連れられてゼロがやってきた。いつも通り離れたくなくて暴れている。僕もイチ様も苦労してなんとか引き離してゼロを預かるも、姿が見えなくなった後もずっと吠え続けてイチ様を呼んでいる。そんなゼロを抱き締めて僕は無理やり目をあわせた。

「ゼロ、イチ様と離れたくない気持ちはわかるけど、お仕事だから仕方ないんだよ。それはわかるだろ」

「ぐるるる…」

「唸っちゃ駄目だって」

ぎゅっと抱き締めるも暴れ続けるゼロ。例え僕になついてくれなくても可愛いことに変わりはない。僕は吠えながらもがくゼロにも聞こえるように大声で宣言した。

「ゼロには、イチ様より僕を好きになってもらうから!」

抱き締めていた僕にゼロの顔は見えなかったが理解できていたなら確実にきょとんとしていたはずだ。僕は昨日寝る間も惜しんで悩んでいたが結局いい方法は見つからず、もう開き直って考えるしかなかった。

「ゼロがイチ様の事好きなのはわかるよ。イチ様は今の親だし唯一安心できる相手だもんね。でもイチ様は忙しい方だし、ずっとゼロのそばにいることはできないんだよ」

言葉が理解できるとわかっているのだからもう訴えかけるしかない。どさくさにまぎれてそのもこもこした身体を撫でながら、僕は話し続けた。

「その点、僕ならゼロのお世話係だから! ずーっと側にいられるし何があっても離れないよ。イチ様に負けないくらいゼロが好きだし、僕を好きになった方が毎日楽しくなると思わない?」

こんな熱烈な告白したことないので照れくさかったが、ゼロ相手なうえここには誰もいないので恥ずかしくはない。その時のゼロの反応はドライなものだったが、僕を好きになってもらえるチャンスはいくらでもある。イチ様よりも、というのは難しいかもしれないが代わりくらいには思ってもらえるように頑張ろうと思っていた。


その日から僕は毎日めげずに「大好き」「可愛い」としつこいくらいゼロに囁いていた。ゼロ的には迷惑だったかもしれないが、特に嫌な顔をされることもなかったので好きにさせてもらっている。相変わらずイチ様を呼んで吠えたり脱走しようとしていたが、少しずつ僕にだっこされながら大人しくしている時間も増えている気がする。ただの願望かもしれないが。


深夜2時すぎ、突然部屋の扉が叩く音が聞こえ僕は飛び起きた。何事かと思っていると、センリが犬用のキャリーケースを持って僕の部屋に現れた。

「えっ!? な、なに…」

「おやすみ中、申し訳ありません。緊急事態でして…イチ様が今からここを出られるのでおチビを預かってほしいんです」

「へ? へ?」

「僕もすぐに出なければならないので。いつ帰れるかはわかりませんが……イチ様がそれまでチビをよろしく頼む、とのことです」

ガサガサと暴れるゼロが入ったケースを置いて、センリは慌ただしく出ていってしまった。こちらも寝ぼけていたので何があったのか聞く間もなかった。

眠気に負けそうになる目をこすりながら、扉がしっかり閉まっているのを確認してからケースを開ける。ゼロがすぐ飛び出して扉に向かって吠え続ける。

「こらこら、今は寝る時間だよ。こっちにおいで。前一緒に寝たこと忘れちゃった?」

「キャン! キャン!」

「……元気だね」

予想外の時間にイチ様と引き離されたせいか普段より激しく暴れている。突然真夜中にゼロを託された僕は、覚醒しきれていない頭で呆然としていた。


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