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神様とその子供たち
002


「ようこそ! 一貴邸へ!!」

扉を開けるとたくさんの人狼による盛大な拍手で出迎えられる。彼らはみな笑顔で、誰か大事な賓客と僕を間違ってしまったのではないかと思うほどだった。

「えっ、あの、え?」

「はじめまして、カナタさん。私達はあなたを歓迎します!」

人狼達に囲まれながら名前を呼ばれ、ようやく自分のことを言われているのだと確信する。呆然とする僕の周りで数十人の人狼達が拍手しながら口々に話していた。

「ようやくここにも人間が働くようになるなんて、感慨深いなぁ」

「しかもまだほんの15歳ですって」

「まあ、なんて可愛らしい。15で働くなんて、うちの子にも見習わせたいわぁ」

中には女性もいて、男性がみな若いのに比べて見た目の平均年齢は高いように見えた。しかし年はとっていても皆そろって目も眩むような美女で輝いている。そして大きさの違いはあるが皆耳と尻尾がしっかりついていた。

「カナタくん、これからよろしく」

「わからないことがあったらなんでも言ってちょうだいね」

一人一人握手を求めてくるので流されるがまま手を握られていく。あまりの歓迎っぷりに困惑しているとセンリが背後から声をかけてくれた。

「皆さん、後で一人ずつ紹介の時間を作りますので仕事に戻ってください」

センリはここで偉い立場なのか彼の一言で皆が静まる。俺は人狼の皆に何度も頭を下げながらセンリの後をついていき、彼らは姿が見えなくなるまで僕に手を振ってくれていた。


早足のセンリの後をかるがもの親子のようにせかせかとついていく。掃除が大変そうな大きな窓から見える景色は、とても住宅街の中にあるようには見えない。それだけここの敷地が広いのだ。

「驚きましたか。でもそんなにへりくだる必要はありませんよ。皆あなたと仕事仲間として仲良くやっていきたいだけなんですから」

早足で先を歩きながら俺に和やかに話しかけるセンリ。その歩幅の大きさにやっとの思いでついていきながら、僕は率直な気持ちを口にした。

「人狼の方たちって、とても友好的なんですね。驚きましたけど……嬉しかったです」

僕のいた時代で新入社員があんなに歓迎されることはないと思う。人間のくせに同情を買って入り込んできた邪魔者扱いされてもおかしくないと思っていた。

「ここで働くのは、皆イチ様を支持する人間派の人狼です。人間が働きに来て嫌がると思いますか?」

「あ、そうか……」

センリの説明でようやく理解する。ここに集まってるのは人狼の中でも珍しい人達なのだろう。他所でも人間がこんなに歓迎されるわけがない。

「彼らはみな人間が好きか、もしくはイチ様に好かれたくて人間好きのふりをしているかのどちらかですよ」

「こ、後者だったら怖いんですが……」

センリはこうしてちょくちょく引っ掛かる物言いをする。もしかして人間好きのふりをしている人狼というのは彼自身のことなのだろうか。

「人の考えなんて誰にもわからないんですから、あり得ない事ではありません。わきまえてもらえるように忠告してるんですよ」

センリが自分達を人、と表現したことに引っ掛かったが、“人”狼なのだから彼らもヒト科ではあるのだろう。笑顔とは裏腹に何か嫌なことがあったのだろうかと思うほどトゲのある言い方だ。

「さて、ここが貴方の仕事場です」

センリが開けてくれた扉の先を覗くと、まるで子供部屋のような空間が広がっていた。ふかふかのカーペットにたくさんのおもちゃ。僕の部屋の3倍は広かったが、とても仕事をするような場所とは思えない。

「あの、ここは一体…? あっ」

部屋の中を覗きこむと奥のソファーに人が座っている事に気がついた。そこにいたのは僕を雇ってくれたここの当主、イチ様だ。彼の姿に僕は自然と姿勢が伸びたが、その腕の中にあの白い子犬がいるのが見え、あまりの可愛さに思わず胸を押さえた。

「阿東彼方を連れてまいりました」

センリの言葉にイチ様が僕を見下ろす。スーツ姿がさまになっているが、油断すると子犬の毛がいっぱいついてきそうだ。彼は相変わらずにこりともしていなかったが、とても優しい目で僕を見ていた。


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あきゅろす。
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