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神様とその子供たち
005


そして引っ越し当日、荷物は真崎からもらった服しかない僕は身軽なまま一貴邸に向かった。真崎は恐らく仕事だったのだろうが僕のために半休をとって近くまでキャビーで送り届けてくれた。
とてつもなく大きな家が立ち並ぶ、見るからに庶民には似つかわしくない住宅地まで来た時、真崎がキャビーを止めた。

「ここからまっすぐ10分も歩けば、大きな門がある。表札はないが、他とは明らかに違う家だからすぐわかるだろう。いや、家だと気づかない可能性はあるが。迎えの者がいるはずだ」

「じゃあ真崎さんとは、ここでお別れですか?」

「ああ、そうだ」

「また会いに行ってもいいですよね」

「……いや、私達はもう会わない方がいいと思う」

「え?」

真崎のまさかの発言に僕は言葉を失う。ショックで何と返せばいいのかわからなくなった。

「君のためだ。私は警察組織を裏切って下級市民を助けている。もしも私のやっていることが公になり、君も私と少しでも関わっていた事が知られれば、きっとこの仕事を失うことになる。せっかくイチ様の側で働けるようになったんだから、よくない可能性は一つでも潰しておかなければ」

「でも、そんなの、僕はまだ真崎さんにお礼もしてないのに」

「礼なんかいらない。君が幸せに暮らしてくれればそれでいいんだ。例え元の時代に戻れなかったとしても、イチ様のところならきっと不自由なく暮らしていける」

「でも僕、頼れるのは真崎さんしかいないんです。二度と会えなくなるのは……」

実のところ、僕はギリギリまで真崎を完全に信用しきれてはいなかった。裏切られる可能性だって0パーセントではないと思っていた。でも彼は何の見返りもなく、僕を最後まで助けてくれた。いつの間にか、まるで彼を父親のように慕い頼りにしていた。今となっては彼を疑っていた自分が恥ずかしい。このまま何のお礼もせずさよならなんてできなかった。

「前にわたした番号のメモは捨てたな?」

真崎が持っていたメモ帳に何か書き、僕に見せる。そこには真崎の番号が書かれているが、前におしえてもらった番号とは違った。

「緊急用だ。どこにも書くなよ、今すぐ覚えろ」

僕は言われるがままそれを必死で頭に刻み込む。記憶するのは得意な方だが、かなり覚えにくい番号だった。

「連絡していいのは、緊急の時だけ。もしイチ様のところを辞めさせられて路頭に迷うようなことがあれば、かけてきなさい」

「真崎さん、僕……」

「私といた記録はすべて抹消した。七貴と会ってしまったのはまずかったが、私の顔も君の顔もちゃんとは覚えていないだろう。もし私と会うことがあっても、他人のふりをすること。いいな」

「……」

「これは君と私のためだ。必ず守れ」

真崎の目は真剣そのもので、有無を言わさぬ固い決意が見えた。おそらく僕がいくら駄々をこねても無駄なのだろう。

「……わかりました。真崎さん、今まで本当にありがとう」

感極まって真崎を抱き締めてしまい、我に返り離れようとしたとき彼が抱き締め返してくれた。思わず泣き出しそうになるのを唇を噛み締めて耐えた。彼のたくましい背中に手を回していると安心した。自分でも気づかないうちに彼を父親のように思っていたのかもしれない。

「君を助けられて良かった。元気で」




真崎と別れ、言われた通り歩いていくと大きな門構えが見えた。その門は家というより刑務所のような出で立ちで、高くそびえ立つ塀に囲まれ中の家も見えず、広さもわからない。塀というよりはまるで城壁だ。入れば二度と出られないのではないかと思うほどの、頑丈で立派な壁だった。

「すっっごいとこだなぁ…」

本当にここなのか、できたら間違いであって欲しいと思っていたら、門のてっぺんにこれ見よがしに設置された監視カメラが動く気配がしたと思ったら、門がゆっくりと開いた。



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あきゅろす。
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