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神様とその子供たち
キリヤとカナタ
キリヤ視点。本編終了後の話です。




その日の日中、キリヤは一貴邸に滞在するロウの護衛をしていた。現在、ロウのために用意された部屋のドアの前で待機している。中ではロウとカナタが談笑していた。
今日はロウにとってカナタと会える待ちに待った日で、カナタとの邂逅を邪魔しないようにといつも通り存在を消して邪魔にならないようにしていた。共に護衛しているシギは気配を完全に消していて、外にいるのか中にいるのかすらキリヤにはわからなかった。

中から声が聞こえなくなった、と思ってからしばらくの後、部屋のドアがそっと開いて中からカナタが顔を出した。

「キリヤ様……」

「どうしたカナタ。ロウ様に何か」

「何も……というかロウ様寝ちゃって」

キリヤの最愛の君主はカナタを抱き締めて眠るのが好きだ。息子のイチも思うところはあっても以前の不眠症で悩む父の姿を知っているだけに、添い寝を認めてしまっている。

「死ぬ程暇なので、キリヤ様話し相手になってくれませんか」

「それは……カナタも一緒に昼寝したらどうだ」

「そうしようかと思ったんですけど、全然眠くないんです。ロウ様を起こすのも忍びなくて」

護衛中の身でカナタと楽しく会話するのはどうなのかと思ったが、ロウに以前カナタの話し相手になってくれと頼まれたことを思い出した。あの命令はまだ解除されてはいなかったな、とカナタのお願いに頷いた。

部屋の外で話すのは落ち着かないとカナタが部屋へと招き入れてくれる。ロウがすやすやと眠るベッドから距離をとり、ドアに近い場所にカナタが椅子を持ってきた。

「ここでいいですか?」

「ああ……。ただやはり、ロウ様が目覚めてしまうんじゃないか」

不眠症で苦しむロウの姿をずっと見てきたキリヤは、ロウが眠っている姿を眺めるだけで幸せだった。一秒でも長く安眠して欲しいといつも願っていた。

「じゃあ、声を出さなくてもできるゲームでもしましょうよ」

「どんなゲームだ」

「それは……今から考えます」

カナタが小声でそう言った後、うーんと考え込む。何も思い付かないようなのでキリヤの方から提案をしてみた。

「腕相撲は?」

「そんな勝敗がわかりきってる遊びやりたくないです」

小声での話し合いの結果、カナタがおしえてくれた手押し相撲をすることになった。向かい合った二人で手のひらだけで押し合い、体勢を崩した方が負けというルールらしい。しかし普通にやると当然キリヤが勝つゲームなので、押すのはカナタの方だけ、手のひら以外の場所も押していいという独自ルールでやることになった。先に足が離れた方が負けとなる。

足を肩幅くらいに広げて向かい合い、腕を曲げて手を重ね合わせる。「よーい、スタート」というカナタの小さな声で、一方向手押し相撲がはじまった。

「んーーーっ」

カナタは全身全霊をかけて押してくるが、勿論身体は微動だにしない。カナタの力はキリヤにとっては軽い指圧マッサージでもされているようなものだった。
しかし顔を真っ赤にして一生懸命身体を押してくるカナタを見ていると、なんとなく申し訳なくなってくる。勝たせてあげた方がいいだろうか。いや、わざと負けるのはよくない。ただちょっと、身体をよろめかせるくらいならしてもいいのではないか。
そう思ったキリヤが少し重心を後ろにして、身体を反らした瞬間カナタがバランスを崩した。

「あっ」

「カナタ!」

倒れそうになるカナタを庇うため、先に自ら床に転がってその身体を抱き止める。倒れたキリヤの胸にカナタが顔を埋めていた。

「大丈夫か?」

「へ、平気です。すみません」

怪我のないカナタを見て心底ほっとする。大袈裟だと笑われるかもしれないが、キリヤはあの日、カナタが行方不明になった日から、彼が少しでも危ない目に遭うのが本当に嫌だった。

カナタが突然消えてしまったあの事件、カナタが無事に戻るまで一睡も出来ず、ようやく見つかったと思ったら彼は目に大怪我をしていた。右目の失明を聞かされた時は愕然として胸を潰されたような思いがした。
自分がロウから警護を任されていたのに、と落ち込むキリヤをロウも仲間も慰めてくれた。お前は何も悪くない。その言葉を聞くたびに、自分がカナタから離れないとロウに進言していればとひどく後悔した。

「でもこれ、今キリヤ様が下になってるから、一応僕の勝ちですよね? ね?」

嬉しそうに訊ねてくるカナタにキリヤは言葉に詰まる。「今のはダメ……?」と悲しそうな顔で言う彼を見ていると無性に愛おしく、思わず抱き締めたくなったが立場を考えて思い止まる。

「あ」

カナタが前を向いて何かに気づいたような声をあげる。起き上がったキリヤは、ベッドの上で三角座りをしながらこちらを見るロウと目が合った。

「楽しそうだなお前ら」

「もっ、申し訳ありませんロウ様……!」

その場で土下座するキリヤと、面倒な事になった、という顔をしているカナタ。護衛中にこっそりカナタとワイワイやっていたことがロウにバレて、生きた心地がしなかった。

「僕がキリヤ様に無理やりお願いしたんです」

「目覚めたら誰もいなかった俺の気持ち少しは考えた? 寝てる俺をほっぽって、キリヤとイチャイチャするなんて」

「イチャイチャはしてませんけど……ごめんなさい。反省してるので泣き真似やめてください。キリヤ様が気にするじゃないですか」

ぐすんぐすんと鼻と目をこすりながら落ち込むロウの背中をさするカナタ。キリヤは膝をついたまま、すぐには立ち上がることができなかった。

「あーあーやだやだ、カナタはやっぱり、いっちゃんみたいな無口な奴が好きなんだなぁ」

「キリヤ様全然無口じゃないですから! ね、キリヤ様?」

「……」

「何かしゃべって!!」

すっかり拗ねてしまったロウの機嫌を戻そうとカナタが奮闘している。そんな二人を見ながら、あの場で抱き締めるのを我慢して本当に良かった、と心の底から思っていた。




おしまい
2011/12/8


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あきゅろす。
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