神様とその子供たち
世界でいちばん
おれの名前はゼロ。もうちょっとで3歳。お父さんと一緒にすごく大きなお城にたくさんの大人と住んでいる。今日もおれ専用のお部屋で、おれはいつもお世話をしてくれるカナタと遊んでいた。
「ゼロ〜今日もかわいいな?? 何でそんなにかわいいんだろな?」
おれをだっこしながら、ずっと同じことばかりたずねてくるカナタ。カナタがいうには、おれは世界でいちばんかわいいらしい。
カナタはおれのことをまだ子供だと思っている。だけど、おれは結構かしこいので全部わかっている。しゃべれないから周りからはわかってないと思われてるけど、ホントはちゃんとわかっている。
「可愛い〜! 耳〜耳〜」
耳がいったい何なのか。ふしぎに思っていると、「耳がかわいいね」とにまにましながら何回も何回も同じ言葉をくり返し始める。かと思えば、今度は「ぷにぷに」と口で言いながらおれの肉球をぷにぷにしてくる。
「ゼロは何でそんなにかわいいのかなぁ。カワイイ星から来たカワイイ王子かな?」
「?」
カナタは時々、意味のわからないことを口走る。ほかの大人が一緒にいる時と、おれと2人でいる時、ちょっと違う。
何度も言われなくても、おれは、おれがとってもカワイイということをもうちゃんとわかっている。
「ゼロ、どしたの? どしたの?」
別にどうもしてないのに、おれはよくこの質問をされる。おれもみんなみたいにうまく話せたら、ちゃんとどうもしないと答えられるのに。口から出るのは意味のない声だけだ。
カナタがおれをなでなでしたそうな顔をしているので、あおむけに転がってなでていいよアピールをする。カナタはおれのお腹をテンション高くひとしきりなで回した後、そこにゆっくり顔をうずめた。
「んん゛〜〜」
カナタはたまに変な声を出す。おれのお腹に、たっぷり10秒は顔を埋めこんで、ゆっくり顔を上げた。
「あーーー、やっぱこれだな……」
カナタが突然高い声を出すのをやめて、しみじみそうつぶやく。もう終わり? と首をかたむけながらおすわりのポーズを取ると、にこにこしたカナタが「もふもふ」と言いながらおれのほっぺたをもふもふする。
カナタはおれのことが、はじめて会った時から大好きだった。だからお父さんがおれにくれたお嫁さんだと思っていたのに、なぜかお父さんの方がカナタと結婚してしまった。お嫁さんがいきなりお父さんのお嫁さんになって、おれは混乱した。
でもたぶん、おれがちゃんとお話できて、カナタに結婚してって言えてたら、きっとおれと結婚してくれたと思う。
「アウ」
「あ゛〜〜カワイイ〜〜……」
ダメだ、今日はカワイイしかしゃべれない日だ。カナタはたまに、おれのように同じ言葉しかしゃべれなくなる。
お父さんはおれよりお話がちゃんとできて、おれより大きくて、おれより頭がいい。……カナタも、おれよりお父さんが好きなのかな。
お父さんとカナタの結婚にショックをうけていたおれにお父さんはごめんねって謝ってくれたけど、本当は全然ごめんって思ってないこと、おれはわかっている。それでもお父さんをキライになれないので、お父さんはずるい。
「ゼロ、もうすぐマサキさんが来るよ」
マサキ、という名前にしっぽがゆらゆら動く。マサキはおれのお父さん2号。おれといちばん一緒に遊んでくれる。
「嬉しそうだね、ゼロ。マサキさん僕より体力あるし、ずっと遊んでもらえるもんね。ゼロ、ゼロはもうマサキさんの方が僕より好きになっちゃったのかなぁ」
カナタはどうやらマサキを気にしているらしい。「僕のゼロなのに……」と言いながら寂しそうな顔をしていた。
どっちも好きだから、どっちが好きかときかれてもこたえられない。だからこの時は、おれがちゃんとしゃべれなくて良かったなと思った。
鼻をつん、とカナタの頬にあてると、カナタはきょう何度目かわからないふにゃふにゃした顔になった。
「僕の方が好きってこと!?」
そうは言ってない。でもカナタが嬉しそうなので、まあ、そういうことにしておく。
カナタはきょろきょろとまわりを見回したあと、おれの耳にこそっと耳打ちした。
「僕も世界でいちばん、ゼロが大好きだよ」
「!」
うれしくてうれしくて、しっぽがぶんぶん動く。大好きは何百回もいわれてるけど、いちばんなのがいちばんうれしい。
「イチ様とロウ様にはナイショね」
お父さんと、お父さんのお父さんにはナイショ。わかった、という意味を込めて「ワフッ」と返事をすると、カナタはおれのほっぺにキスしてくれた。
おしまい
2023/1/22
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