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神様とその子供たち
002※


「本気で……言ってるのか? あんな酷い事をしてしまって、すぐまた同じことを繰り返せるものか」

「酷いことなんて僕は思ってません」

「身体に負担をかけた。しばらく起き上がれなかったのを忘れたわけじゃないだろう」

「……それが何だっていうんですか」

イチ様は、僕がどれだけイチ様のことを愛しているのかわかっていない。僕がイチ様は他に誰もいなかったから僕を好きになってくれたと思ってしまったように、僕の気持ちを信じきれていないのかもしれない。家族と離れて孤独だったから好きになったのだとでも考えているのだろうか。

「イチ様が好きだって、もう何度も言ってるのに。どうしてわかってくれないんですか。イチ様になら何度でも抱いてほしいです。他の人には、こんな気持ちになったりしません。ロウ様とのことがあるから、僕を信じきれないのもわかりますが……」

声量を必死に抑えながらイチ様に訴えかける。ロウ様に抱かれた日の事はイチ様を目の前にすると後悔してしまう。なぜ自らロウを求めてしまったのか。暗示をかけられていたとはいえ、良くないことだというのは十分にわかっていたのに。

「……」

ロウを拒絶するには、彼の僕への愛が大きすぎた。そしてあの時の僕もロウが好きだった。謝って許してもらえることではないのかもしれないが、もう二度はないことだ。

「カナタ」

名前を呼ぶと同時にイチ様に抱き締められる。イチ様の声は心地よく、名前を呼ばれるだけで満たされる。

「カナタの気持ちを疑ったことなんかない。父上ほど恋敵として厄介な相手はいないことを、私はよく知っている。どれだけ深く愛する相手がいたとしても、皆父上に愛されればそんなものは消し飛んでしまうだろう。でもカナタは、父上より私を選んでくれた。それなのにつまらない嫉妬をしてしまう私が愚かなんだ」

イチ様は僕の唇にキスをすると熱を持った目で僕を見た。

「ハルトって一度だけ、呼んでもいいか」

「何回でも呼んでください」

彼はゆっくりと僕の服を脱がすと、抱き締めながらベッドに運び僕を優しく寝かせる。自らも服を脱ぎ、肌を重ね合わせる。イチ様の裸を見るだけであの夜の事を思い出して顔が熱くなった。

「んっ…」

イチ様が僕にキスを落として口内に浸入してくる。いつも冷静な彼からは想像できない粗っぽく情熱的な口づけだ。同時に彼の指が中へと侵入して期待に身体が震える。ローションを使って中を広げる動きに翻弄されて吐息が漏れた。苦しいからなのか、嬉しいからなのかわからないが涙が滲んだ。もう光を失ってしまった目からも涙は出てきた。あまりに長くそうしているので、じらされているように感じてきた。

「……もう、いれてくださいイチ様……」

「まだ駄目だ。まだ」

「でも、早くしてほしい」

イチ様と一つになりたい。その気持ちばかりが先行して彼にねだった。しかし彼は性急に進めようとはせず、丁寧にゆっくりと中をほぐしていった。

「ああぅっ、うう……」

イチ様の性器の先端が入り口にあてられて、待ち望んだものがようやく得られると彼が入れやすいように足を広げた。彼は僕の後ろだけでなく前にも触れてきて、気持ちよくてたまらなくなった。弛緩している中にゆっくりと彼の性器が埋め込まれていき、以前とは違った快感に声をあげた。

「あああっ」

「ハルト……」

イチ様に名前を呼ばれて、胸が熱くなると同時にもっと早く呼んでもらえば良かったと思った。イチ様のものすべてを飲み込むことはできなかったが、彼はそれ以上無理に入ってこようとはしなかった。

「ハルト、愛してる。お前を傷つけたくない」

イチ様のモノが中でゆっくりと動いて、そのまま身体を抱き上げられイチ様に馬乗りになったような状態になる。さらに深く性器の先端で押し上げられて思わず吐息のような声が漏れ出た。

「気持ちよくてたまらない……このままじゃまたやりすぎてしまう。ハルトが動いてくれないか」

「そ、そんなこと…」

「できない?」

イチ様に訊ねられて首を振る。ゆっくりと腰を動かすと、中で熱いものがいいところに何度も擦られる。ゆっくり下から貫かれて、重力によってずぶずぶと中が埋まっていくのがわかった。

「あっ……あっ……」

あまりに気持ち良すぎて喘いでばかりいた。自分で腰を動かして気持ちいいところにあてるなんて、こんなのまるで自慰だ。恥ずかしさのあまり、イチ様にもっと激しく動いて好き勝手にしてほしいとすら思った。

「んっ…は、う……イチさま、んんっ」

「ハルト、かわいい。気持ちいいか?」

「は、はい……イチ様も、ですか…っ?」

「もちろん、私は今がこの上なく幸せだ」

「……っ」

だんだんと彼が深く深く入り込んでくる。圧迫される感覚ですら、快感になっていく。イチ様が僕の性器を指で可愛がるように戯れに触れる。僕が射精すると同時に、イチ様も僕の中で達した。イチ様にキスを何度もしてもらって、僕は幸せでいつまでもこうしていたかった。


二回目の行為がが滞りなく進んだこと、朝穏やかに抱き合って眠る僕たちに気づいたセンリは心の底から安堵しているようだった。目が覚めたイチ様に呼び方はハルトでも構わないと言ったのだが、特別な時にだけ呼ぶと言われてしまった。

その日は、前日出ていったロウが再びやってきた。彼は出会い頭に僕の頭を撫でていて、すぐにこちらの変化に気づいた。

「ハルト、メガネが格好よくなってる」

「ありがとう。これはイチ様にやってもらったんだ」

今は二人きりなのでため口だ。ロウからもらったメガネはメタリックにされていた。メガネを使わないようにするのはイチ様に反対されたので、代わりに彼にメガネを装飾してもらったのだ。これでこのメガネはイチ様とロウからの贈り物になった。

「へぇ、いっちゃんにこんなセンスがあったとは」

ロウはイチ様の真意に気づいているのかいないのか、感心したようにデコレーションされたメガネを見ていた。しばらく雑談しているうちにここで働く人狼達がどんどん集まってきた。皆ロウと話したくてたまらないのだ。

ロウには引き止められたが、ロウのことは彼らに譲って僕はゼロとマサキのところへ向かった。マサキは庭の花壇を座って眺めていた。

「マサキさん、ゼロは?」

「ここにいるよ」

彼が上着のチャックを開けるとびょこっとゼロが顔を出した。あまりの可愛さに用件も忘れて悶絶した。ゼロはみるみるうちにマサキに懐いてしまって、僕が嫉妬を覚えるほどだった。

「いま、ロウ様が来られたんです。顔をあわせないように、部屋に戻った方がいいかもしれません」

ロウが人間をよく思っていないからという理由でマサキはなるべくロウに会わさないようにしていた。しかしそれはあくまで口実で、ロウと会うことによって記憶が戻ってしまうのではないかと僕は不安だったのだ。

「わかった。ゼロと部屋にいく。カナタもきてくれる?」

「もちろん」

マサキの手を握り並んで部屋へと向かう。記憶を失って混乱するマサキを安心させる目的で移動の時は手を握っていたのだが、今では片目しか見えない僕をマサキが安全に誘導するために手を握ってくれている。

「カナター!」

途中、屋内に入る前に聞きなれた声が僕の名前を読んだ。前方を見るとナナが大きく手を振って駆け寄ってくる。後ろにはイチ様とセンリの姿もあった。

「堂々と浮気…?」

繋いだ手を凝視されて、罰が悪くなりマサキから手を離す。イチ様を嫉妬させてしまっていたらどうしようと思ったが、無表情のままだったのでマサキは嫉妬の対象ではなないか、もしくはいつも通り感情が表に出ていないか。

「違いますって。彼はマサキさん。僕と一緒にゼロの世話をしてもらっています」

「ああ! コイツが例のテロリス……」

「ナナ様!」

僕とセンリが同時に叫ぶ。センリが彼の口を塞ぎ小声で嗜めた。

「彼が記憶をなくしたの知ってるでしょう?! 余計なこと言わないで下さい」

「マサキさんは人間を助けていただけでテロリストじゃありませんから!」

僕の小声の抗議に「悪かったよ」と特に反省の見えない調子で謝る。当の本人のマサキは不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。

「はじめまして、トノウエ、マサキともうします」

僕がおしえた挨拶を深々と頭を下げながら口にする。ゼロはナナが近くにいるせいなのか服の中に入ったままだった。ナナはマサキの顔をまじまじと観察してから一人言のように呟いた。

「今まであんまりちゃんと見たことなかったけど、マサキって……」

「?」

「結構俺のタイプじゃん」

「!?!?」

絶句する僕とセンリの目の前でナナがマサキの手をとる。驚いて手を引っ込めようとするマサキにぐいぐいと迫った。

「俺の事は気軽にナナって呼んでくれよな〜。もしここが嫌になったら、いつでも俺のところに来てくれていいし。な、マサキ」

「ナナ様!? 馬鹿なこと言わないでください! 彼が誰かわかってますよね!?」

センリがナナにすがり付いて非難するも、ナナ本人は気にもとめずマサキの腰を抱き寄せながら口説き始めた。幸運だったのはマサキには彼の言葉の意味が殆どわからなかったことだ。

「ナナ、子供がいる。少しは慎め」

傍観していたはずのイチ様が一言告げると、ナナがようやくマサキから口を閉じて離れた。子供って誰のことだろうと一瞬考えて、ゼロのことだと気づいた。

「ごめんって、兄貴。そんな怒るなよ」

「ナナ、父上がここに来ている。お前の目当てはそっちだろう」

「あっ、そうだった。俺、親父んとこ行ってくるわ! じゃあまたな!」

そういってあっという間に走っていってしまうナナの姿を見送りながら、もうマサキには会わせないようにしようと誓った。センリがイチ様に「出禁にしましょうよ」と訴えていた。

「おかしな弟ですまない。大丈夫か?」

「はい、だいじょうぶです」

マサキが答えると同時にゼロが飛び出し、イチ様のところへ駆け寄る。イチ様はゼロを抱き上げ頬擦りした。その隣にいたセンリが笑顔で僕に近づいてきた。

「カナタさん、いいもの見せてあげます」

「え? 何ですか」

センリから一枚の写真を渡されて、見るとそこには婚礼衣装を身にまとい幸せそうに笑うセンリとロウが写っていた。

「これって…」

「ロウ様に一緒に撮っていただいたんです」

「……確か、この衣装はトガミ様と着るはずだったものでは?」

「あんな奴と着るわけないでしょ」

「……ですね」

では何故ロウと? と思ったがセンリが幸せそうなので何も聞かないでおく。「差し上げますよ」と言われたので記念にもらっておくことにした。センリはマサキにまで渡していた。

「私ももらったが、いい写真だな。父上も嬉しそうだ」

イチ様の感想にセンリの顔がぱあっと明るくなる。息子からのお墨付きが嬉しくてたまらないらしい。センリは束になった写真を眺めながら「ロウ様といえば…」と口を開いた。

「思ったんですけど、ロウ様、カナタさんのことは諦めるって誓ってましたけど、ハルトさんを諦めるとは一言も言ってないですよね。これってまったく諦めてないってことなんじゃないですかね」

「……」

「……父とちょっと話してくる」

イチ様がゼロを僕に預け、ナナが消えた方向へと歩いていく。僕も行った方がいいかとセンリに訊ねると本人達に任せておいたほうがいいと言われてしまった。そして「それよりこれ見てください」と彼は先ほどのものとは微妙に写り方の違うロウとの写真を見せてくれた。


おしまい
2021/9/30


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