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神様とその子供たち
真実


驚きのあまり僕は数秒固まった。真崎は膝をついて、僕に深々と頭を下げた。

「君に電話で頼みごとをしたのは、元々君をさらうつもりだったからだ。君は人狼の恐ろしさをわかっていないと思った。私との繋がりがあると奴らに知られれば、君は拷問される。それを君にわかってもらう時間もなかったから、騙して連れていくつもりだった」

「そ、それは……」

「誤算だったのは、君が思いの外早く五群に到着したことだ。しかも人狼の女性を連れて。私の仲間から連絡が来て、すぐ私の代わりに彼らに君を一時保護してもらった」

「あの、ハクア様はどうなったのでしょう」

ずっと彼女の行方が気になっていた。僕のせいで酷い目にあっていたらどうしようかと気がかりだった。

「彼女は無事だ。君を探しに来た人狼に無傷で保護された」

「そうですか……良かったです」

「五群にいたままでは人狼に見つかる可能性が高かったから、リスクを負って二群まで連れてきてもらった。私がここに着くまで二群の下級市民エリアにいてもらうつもりだったが、どこかのバカが君を人狼に売り飛ばしてしまった。それで迎えにいくのが遅れたんだ。すべて私の責任だ。その目のこと……本当にすまなかった」

真崎は僕の目の怪我をかなり負い目に感じているらしい。これは彼の責任ではないのに、こっちが申し訳なくなる。

「頭を上げてください。この怪我は僕がシンラ様を怒らせてしまったのが悪いんです」

「人狼は人間に対しての沸点が低い。ちょっとしたことですぐ怒る」

「ちょっとしたことでもなかったんですが……」

あれは人狼じゃなくても怒られていただろう。頭に血がのぼって、言っても仕方がないことを口にしてしまった。

「えっと、真崎さんの考えもわかりますし騙されたことはいいんです。僕を買った人狼も乱暴なことをするような方ではなかったので、何もなかったですし。でもあの、わかってほしいのは、僕が人狼に拷問されるなんてことはないってことです。むしろ僕を連れて逃げたりしたら、絶対に真崎さんは捕まってしまいます。僕のことは残して、早く逃げてください」

多分いま以上に真崎への追っ手が増えてしまう。それは確かだ。僕は連れていかない方がいい。

「それは……私ももう理解している。君がいなくなってから、人狼達の動きが変わった。人狼だけの捜索隊が作られて、密かに大規模な君の捜索が始まっている。それでようやくわかったんだ。君を見つけたいだけなら、テロリストとして指名手配すればいい。その方が効率的だし、すぐ君は見つかっただろう。それをしないのは、君の立場を考えているからだ。そして、そんな命令ができるのはイチ様じゃない。君主様だ」

「……」

「君と君主様は一体、どういう関係なんだ?」

どういう関係なのかと問われても、何と答えれればいいのかわからない。交際を申し込まれている、と言っても信じてもらえるだろうか。僕の頭がおかしくなったと思われるかもしれない。

「君主様は、僕に害をなすようなことをされる方ではありません。それだけは確かです」

これでわかってもらえるかどうかはわからなかったが、彼はしばらく悩んではいたがそれ以上は問い詰めてこなかった。

「どうすればいいか、わからないんだ」

「……何がですか?」

「私の仲間と私で、君の扱い方をどうするか意見が割れている。上からの命令には逆らえない。でも、私は君の味方だ。それだけは忘れないで欲しい」

「は、はい……」

疲れきった顔をしていた真崎をそれ以上問い詰めることができなかった。僕を残して逃げるというのを了承してくれたのが、やはり残して行けないと思っているのかわからない。
彼はしばらく頭を抱えた後、箱の中にある物を選別して自分のカバンへ詰め始めた。その中にパンやクッキーなどの食糧と思われるものもあり、僕は訊ねずにはいられなかった。

「あの、それって腐ってないんですか?」

この隠れ家にある箱や物は土が被っていて、普段から使われているようには見えない。いつからある食糧なのだろう。

「大丈夫。この箱は見かけは古いがストックボックスと呼ばれるもので、ここに入れておくと食べ物が腐らない」

「そうなんですか!? すごいですね…」

一体どういう仕組みなのだろう。見た目はただの気密性の高そうな箱だ。
すごい未来道具に僕が興味を持っている横で、真崎が銃のようなものを取り出しているのが見えて、思わず声を上げた。

「拳銃!?」

「ああ、いや違う。これは電気銃だ」

「電気銃……?」

「これを向けて引き金を引くと、相手が電気ショックを受けて気絶する。敵を殺さずに捕らえるための銃だ」

テーザー銃のようなものだろうか。まじまじと銃を見る僕に真崎は触るなよ、という合図をした。

「距離をとって撃てば気絶するだけで済むが、こめかみに直接あてて撃つと死ぬ。お前には触らせないが気を付けろ」

「わかりました。でもそれ、持っていくんですか」

「念のためだ。これでも人狼に太刀打ちできるかはわからん」

そう言いながらも真崎が人狼のシンラを素手で吹っ飛ばしたことを思い出した。あれはとても人間業とは思えなかった。

「あの、僕、マンションから飛び降りて無傷の人って初めて見たんですけど……こっちの時代の人ならできることなんですか?」

「ふっ」

僕の言葉に真崎が吹き出した。彼は「ごめん」と謝った後、僕の頭を撫でた。

「いや、あんなことできる人間はいない。びっくりさせて悪かったな。私は、なんというか……普通の人間じゃないんだ。元から特殊な遺伝子を持ってて、普段は普通の人間として暮らしているが、専用の薬を飲むと身体が強化されるようになってる。俺は、人狼に対抗するために人工的に作られた人間だ」

「作られたって……クローンみたいなってことですか…?」

「親はちゃんといる。父はもう亡くなってしまったけど」

突然の告白に驚いたが、ここは未来なのだからそういうこともあるのかもしれない。しかし今、人狼に対抗するために作られたって言わなかったか?

「真崎さんみたいな人間は他にもいるんですか」

「いや、私は滅多にない成功例だから……」

『理一郎、おしゃべりはもうやめなさい』

「!?」

突然どこかから女性の声が聞こえて慌てて左右前後を確認する。360度見回しても、僕ら以外には誰もいない。

「代表、突然しゃべらないでください……」

真崎が慌ててポケットから分厚いコースターのようなものを取り出した。それを箱の上に起き側面についたスイッチを押すとそこにはミニサイズの女性が現れた。

「!?」

『だって理一郎が私たちのことペラペラ話してしまうから、止めないといけないでしょう』

手のひらサイズの女性をよくよく見ると、よくできた3D映像だということがわかった。当たり前だ、こんな小さな人間がいるわけがない。時々彼女の身体が不自然に停止したりする。地下だから電波が悪いのだろうか。彼女は白髪交じりの初老の女性で、座り心地の良さそうな椅子に腰かけていた。

『はじめまして、私は真崎あすか。理一郎の母です』

「お母さんなんですか!?」

『ええ、ちょっと画質が乱れているみたいでごめんなさい。これはホログラム映像よ。本物の私は遠く離れた場所にいて、このホログラム装置についたカメラであなたのことを見ているわ』

彼女が台座にしている真っ黒の分厚いコースターをよくよく見ると、小さな小型レンズを見つけた。真崎の母親はここから僕を見ているのか。

『時間がないから手短に言いますね。あなたに、私達を助けてほしいのよ』

「?」

助けてもらっている立場の僕には、真崎母の言葉がすぐには飲み込めなかった。呆然としていると、真崎がすぐに間に入ってくれた。

「代表、それはこの子には……」

『理一郎、あなたの意見は聞いてない』

真崎は母親相手にずいぶん畏まっていて、なぜか代表と呼んでいる。彼女はそんな真崎に慣れているのか気にもとめず、僕に頭を下げながらこう言った。

『どうかあなたには人狼達の王、ロウを殺してほしいの』



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あきゅろす。
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