神様とその子供たち
005※
正直、あそこから逃げ出すためなら最悪身を差し出す覚悟をしなければならないと思っていた。一応経験がないわけではないし、耐えられないことはないだろうと高を括っていたのだ。しかしいざシンラに押し倒されると、絶対に無理だという拒否反応しかなかった。
「あのあのシンラ様、ちょっと待ってください…! 待って…」
「俺、ヤる時うるせぇのは好みじゃないから黙っててくれ」
「で、でも」
シンラは僕が拝借して着た服をさっさと脱がしてしまい、抵抗らしい抵抗もできなかった。怖すぎてベッドから這い出そうとしたが、腕を捻りあげられ痛さのあまり力が抜けた。
「いっ……」
「暴れるなよ、怪我はさせたくない。面倒だからな」
「……」
下手に抵抗すると腕を折られたりするかもしれない。鍛えてなくても人狼にはそれくらい簡単に出来るだろう。そもそも、僕は夕日と違ってこうなることがわかってここに来たのだ。被害者面して相手を恨むのはおかしい。
僕の抵抗が弱まったのを見てシンラが深いキスをしてきた。性欲処理相手にキスなんてしてくると思わなかったので驚いた。絡んでくる舌にひんやりとした固いものがついていて、シンラが舌に何個もピアスをしているのに気がついた。怖い。
「初めてじゃないんだろ?」
「…そうですけど、でも、慣れてはないです」
「大丈夫、俺上手いから」
シンラはどこからか出してきたローションを手に取り、ゆっくりと後ろの穴に指を入れてくる。
「うっ…!」
無理やり挿入させるようなことはなく、探り探り指が侵入してきて痛くはなかった。嫌悪感はあるが、ロウに抱かれた時の事を思い出して半勃ちになってしまう。おまけに前も触ってくれるので気持ち良くすらなってしまった。
「いい顔するじゃん。多少経験ある方がやっぱいいな」
「や、いや…やめてくださ…」
「よしよし、痛くしねぇから安心しろ」
顔や首筋に何度もキスされて左手には乳首を触られる。摘ままれたり引っ張られたりしている間、ずっと後ろを入念に解してくる。嫌なのに、下半身が熱くなってくるのを感じて泣きそうになった。
「あんま使われてない可愛い穴だな。先っぽだけでも入るかな」
「や、嫌だ…!」
「大丈夫大丈夫……って、あれ」
シンラの先っぽが押し当てられて思わず息をのんだが、何故か彼の動きが止まり挿入されることはなかった。シンラは呆然自失の表情で小さく呟いた。
「勃たない」
「……?」
「嘘だ、そんなことありえねぇ」
確かにシンラの言うとおり、彼のモノは元気をなくしていた。九死に一生を得た僕はシンラが愕然としているうちに脱がされた服を再び身にまとった。
「待てよ……お前、もしかしてマーキングされてんのか?」
「えっ」
「でもマーキングなんか長くても3日が限度だろ…?! 何で…?」
マーキングと聞いてセンリに言われたことを思い出した。まさかロウにつけられたものの効果がまだ続いているのだろうか。
「お前、いつあの施設に入れられたんだ?」
「僕はあそこで一泊しかしてません。すぐここに来ることになったんです」
「マジかよ。いやでも、イチ様が人間に手なんか出すか…?」
「相手はイチ様じゃありません……」
「じゃ誰」
「……」
再び無言になってしまった僕にシンラがため息をつく。僕も本当の事を言いたいが、相手はロウだと話しても絶対に信じてもらえない。それだけは確かだ。
「お前が人狼のところで働いてたってのは本当かなと思ってたけど、まさか昨日今日の話だとはな。くそーヤル気満々だったのにどうしてくれんだ、この不完全燃焼」
「す、すみません」
「ユウヒの方を起こすかな」
「や、やめてください。ユウヒはまだどうするのか決めてないんです」
「冗談だよ。あんな細い奴相手に無理やりする気力はねぇわ、二日酔い気味だし。頭いてぇし」
どうやら人狼もちゃんも二日酔いをするらしい。シンラは「脱走すんなよ」とだけ言って再びベッドに突っ伏した。僕はとりあえず逃げるのを諦め、リビングのソファーで眠ることにした。
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