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神様とその子供たち
003


説明しろと言われた以上話さないわけにもいかないのでシンラが寝室に入っていった後、ユウヒに自分達がここに連れてこられた理由を説明した。僕の下手な説明では夕日にわかってもらうまで物凄く時間がかかったが、理解した後も夕日はずっと悩み続けていた。

「ごめん、礼人が言いたいことはわかったけど…いややっぱわかんねぇよ。俺、男だしさぁ……」

「だよね……。でもシンラ様は嫌なら帰してくれるって言ってるから。無理にここに居続ける必要はないんだよ」

「……礼人は残んの?」

「僕は、まあ、あの、こういうのは初めてじゃないので」

「マジで!? 何で!?」

「前も人狼の家で働かせてもらってて、それで」

経験豊富のような言い方になってしまったが、僕の経験はロウとした一回きりだ。僕は僕で残るにしても夜の勤めから逃れる方法を考えなくては。

「そ、そーなんだ。上級市民って、結構大変なんだな……」

「いや、みんながみんなやってるわけではないから」

夕日の僕を見る目が微妙に変わってしまった気がする。僕みたいな女に見えるわけでも綺麗な顔をしているわけでもない男が、そういう扱いを受けていたことも驚きなのだろう。

「そりゃあそこに戻るより、ここの暮らしがいいけど、でも、男にだ……抱かれるとか、そんなこと多分できない」

「うん、夕日は帰らせてもらった方がいいと思う」

「でも人狼様、怒らないかな?」

「無理なら帰すって言ってくれてたし、とにかく謝りさえすれば大丈夫だと思うよ」

「俺はそれでもいいけど、お前のためにはオススメしねぇな」

僕らの話を聞いていたらしいシンラがそう言いながらリビングに戻ってきた。硬直する僕らを無視して冷蔵庫からビール缶を取り出し一気に飲み干す。

「どうせあそこに戻っても、どのみちお前は男にヤられると思うぜ」

「ど、どういうことですか」

顔面蒼白になった夕日の代わりに僕が訊ねる。シンラはタバコを取り出して口にくわえながら答えた。

「お前みたいな女顔の奴、同じ部屋の男が放っておくかよ。お前が今まで無事だったのは家族部屋だったからだろ。独身男は他の男数人と共同生活するんだぜ。最悪同室の男達全員から狙われることだってある」

「でも、人間には男を代わりにしなくても同じ数の女性がいるじゃないですか。そうだよね、夕日」

「うん…父ちゃんと母ちゃんは、仕事場で仲良くなって結婚することになったって言ってたし、成人したら女の人とも交流できるって……」

「人間だったら誰でも女と結婚できるって? そんなわけねぇだろ。独身のまま死ぬやつなんていくらでもいる。運が良ければ女と結婚して家族部屋に入るまで無事でいられるが、運が悪ければ普通の顔してる奴ですら襲われる。あそこの職員の人間から聞いた話だから間違いねぇよ」

「……」

絶句する僕ら二人を見ながら呑気に煙を吐くシンラ。器用にタバコの煙でわっかを作っていた。泣きそうな顔をしている夕日にかわって僕が答えた。

「あの、戻るかどうか決めるのは少し時間をいただけませんか。夕日は今いっぺんに色々と言われてパニックになってると思うので」

「いーけどさ、1ヶ月以内には決めろよ。金が戻らなくなるから」

僕のお願いにシンラは意外とあっさり了承してくれた。食べ終わったら風呂に入れよ、とだけ言って彼は再び謎のゴーグルをつけてソファーに寝転がってしまった。

その後ずっと思い詰める夕日をとりあえず先に風呂にいれ、僕は後から入った。シンラと夕日を二人きりにさせるのはなんとなく心配だったので急いで浴室から出たが、シンラは眠っているのかゴーグルをつけたままの同じポーズでソファーに横になったままだった。

「夕日?」

夕日も夕日でカーペットの上で寝息をたてて眠っていた。よほど疲れていたのだろう。僕は手近にあったブランケットらしき布を夕日の身体にかけた。それから寝ているシンラに声をかける。

「……あの、シンラ様」

「なに?」

てっきり眠ってると思って控えめに声をかけたが、シンラはすぐに返事をかえしてきたので少し驚いた。

「起きてらしたんですね」

「テレビ見てただけだから」

「テレビ……?」

「知らねぇのかよ。ほら」

「?」

シンラは僕に自分がつけていた水中ゴーグルを外し、僕に無理やりつけさせる。するとそのメガネ越しにテレビの画面が見えて、何故か音声まで聞こえた。

「なにこれすごい!」

「見たことないのかよ。人間はだいたいこれ使ってるだろ」

「僕の知るテレビは壁をスクリーンにしてたんですが」

「そりゃ裕福な家に育ったんだな」

「……いえ、人狼の家で住み込みで働いてたんです」

「ああ、これ人狼には流行ってねぇもんな。耳の位置的に頭締め付けて使わなきゃなんねぇから。見たかったらいつでも言えよ」

そう言って笑うシンラの表情があんまり無邪気で、ガラと人相は悪いが話が通じない相手ではないように見えた。賭けではあったが僕はその瞬間、彼に助けを求めることに決めた。


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あきゅろす。
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