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神様とその子供たち
002


掃除が終わってシンラが風呂に入っている間、部屋のインターフォンが鳴った。宅配の人間が来たらしい。僕が玄関の扉を開けると配達の人間はおらず、紙箱に入った食べ物だけが置かれていた。そういう方式なのだろうか。逃げ出すチャンスだったが、今はすぐに気づかれる可能性があるのでやめておいた。

「それなに? なにが入ってんの?」

夕日が僕が受け取ったものを見て興味津々で訊ねてくる。

「何だろ。たくさんあるから僕らの分も入ってるかもしれない」

「ほんと!?」

僕はともかく、シンラのことは太らせると言っていたのでたくさん食べさせてくれるだろう。掃除をして待っているとシンラが風呂から出てきた。

「わっ」

半裸で出てきたシンラの上半身は派手に入れ墨が入っていたので思わず声を出してしまった。タオルを頭に乗せてはいるものの水滴が床にポタポタと垂れている。

「それお前らの分もあるから勝手に食ってていいよ」

「えっ、ありがとうございます」

「お前らの食う量よくわかんねぇから多めに頼んだけど、そこの細い方は無理してでも多めに食え」

「は、はい」

袋には飲み物とフライドチキンが入っていた。まだ温かくて美味しそうだ。

「いただきます!!」

夕日はさっそく食べ始める。その食べっぷりは凄かったがシンラはそれを見て満足そうにニコニコしていた。この男、外見は物騒だがいい人狼なのだろうか。

「あの、質問があるのですが……」

「なに?」

「ここは二群のどの辺りなんでしょうか」

「二群南方エリアだ。お前らがいた場所からそんな遠くねぇよ」

南方なら一群に近いと思っていいだろうか。携帯さえあれば助けを求められたのに、捕まえられた時に取り上げられたのか、もしくは落としたか。今は手元にない。

「二人とも、今からここに住む上でのルールを言うからよく聞けよ」

シンラの言葉に食べる手を止めて姿勢を正す。何がこの人狼の怒りに触れるかわからない。僕はここの常識もないしこの男を怒らせて先程までいた収容所に戻されるのだけは避けたい。

「基本的にダメなのは予想できない勝手な行動だ。言われたこと以外、余計なことはするな。それさえ守ればいつ風呂に入ろうがトイレ使おうが好きにしろ。せっかく二人いるし騒がなければ私語だっていい。ここにある食べ物も好きなだけ食え」

「いいんですか!?」

「ああ、ユウヒとかいったか。特にお前はもっと食った方がいい。好きなものがあればリクエストしてくれりゃ配達させる」

「ありがとうございます!」

ユウヒがはしゃぎながら僕に「すげぇ優しいんだけど」と小声で言った。確かにいい人狼だが、油断はできない。

「あとは掃除をしてほしい。俺は散らかすの得意だけど片付ける才能ないから」

「買い出しは行かなくていいんですか」

「全部配達させてるからいらねぇ。てか外出は基本的に禁止。お前らを買ったのがバレると色々面倒だから、こっから出て問題起こされたら困る」

外に出ることができればすぐに助けを求められると思ったが。ここから出ることはやはり許してもらえないか。

「腕のコードの上にシールが貼ってあるだろ。それがあれば簡単な探知機ならお前らが下級市民だってバレないようにできる。だがセキュリティが高いところになると誤魔化せねぇから、万が一外に出ることがあっても建物には入るな。警告音が鳴ってすぐに捕まるぞ」

「この建物は大丈夫なんですか?」

「ここはセキュリティレベルが低いんだよ。住んでるの俺以外は人間だしな。まあ、だからここに住んでるんだけど。人狼が住むにしてはショボい部屋だって思ってただろ?」

「そんなことは……」

正直僕には人狼がどんなレベルの家に住んでいるのかわからない。今まで会ってきた人狼は全員すごい屋敷に住んでいたが。

「無職の人狼の生活はこんなもんだよ」

「シンラ様は……休職中なんですか?」

「ああ。昔は働いてたけど、働くのが性にあわなくて。生活保護で金貰って生きてる」

「生活保護!?」

これまでの人狼から考えるとあり得ない言葉が出てきて驚いてしまう。そんな人狼がいるとは思っていなかった。

「俺からすれば働かなくても最低限の金はもらえんのに働いてるやつが意味わかんねぇんだけど、まあみんな暇なんだろうな」

最低限の金、というがこんな立派なマンションに住めて人間を二人買うことができるのだからかなりの額をもらっているのではないだろうか。生活保護という制度が人狼だけに与えられた特権という可能性が高い。

「あと、冷蔵庫に入ってるのはアルコールだから飲まないように。人間には毒だから」

「毒…!」

毒と聞いて夕日が身体を強ばらせる。夕日はアルコールを知らないのだろうか。

「とりあえずこんなところかな。寝るのは交代で俺のベッド。一人はここのソファー使ってくれ」

「そんな、人狼様と同じベッドなんて……俺は床で十分ですので」

「……」

そういって頭を下げる夕日にシンラの目が点になる。彼はしばらく考え込んでから僕の方を見た。

「レイト、お前からユウヒに説明しといてくれ」

「えっ」

「どうしても嫌だっつうなら返品も考えないといけねぇし」

早速寝ろと言われて戸惑っているのは僕の方だったのに、何もわからない夕日にどう説明すればいいのか。だがもし夕日が嫌だと言ったら帰してもらえるのか。こちらの気持ちに配慮してくれるなんて、予想以上にいい人狼だ。もしかすると、この男なら事情を説明して助けを求めてもいいかもしれない。


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