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神様とその子供たち
003

夜の6時になりその日の食事が支給された。学校の給食よりもショボい食事が部屋に届けられ、いよいよ刑務所のようだと思っていたが口には出さないでおいた。

「前に住んでたところでは食堂で食べてたんだけど、部屋の方が落ち着いて食べられていいかも。誰かに盗られる心配もないし」

「盗られるんだ……」

「しかもこんなに肉もあるし。これ多分鶏肉だよなぁ」

食べる時間に制限でもあるのかというくらい、話しながらも急いで口の中に食べ物を放り込んでいく夕日。僕からすれば料理は冷めていて味も薄いし量も少ない。これまでがどんなに恵まれていたかを再認識した。美味しくはないが食べられないという程ではないし養分を取るために淡々と口に運んでいたが、夕日の細い手首を見ているともっと彼に食べさせてあげたいという気持ちになってくる。とっくに食べ終わっている夕日は食の細い僕を見て首をかしげていた。

「あの、僕あんまりお腹すいてないからよかったら食べない?」

「えっ、いいの!?」

「うん。食べかけでも良ければ……」

やはり成長期にはこの食事量ではまったく足りてないのか、僕の分をガツガツとかきこむ夕日。うまくいけば僕は数日中にはここから出られるはずだから、その間少しでも夕日に栄養を補給させたい。

「礼人ありがとう。お前いい奴……」

「いや、僕はあんまりお腹すいてないからいいんだ」

事実今は色んなことがありすぎて食欲はない。誰かが僕を見つけてくれるまで待つべきか、何とか脱走するべきか。とりあえず僕らを雇おうとしているという人狼と会うまで様子をみるべきだろうが、ロウやイチ様がどれだけ心配しているかと思うと一秒でも早く帰りたい。

冷房のないこの部屋はとても暑く、着ていた汗に濡れたシャツとズボンは脱いで夕日と同じ用意されていたグレーの服を着る。シャワーは部屋に備え付けられていて、決められた時間のみ使用が許されている。夕日がそのことにとても感動している様子だったので、今まではシャワーなどない部屋で生活していたようだ。

その夜は夕日と一緒に布団を並べて眠った。僕がなかなか寝付けないでいると、隣にいた夕日が僕の身体を揺すってきた。

「なぁ、礼人」

「……なに?」

「一緒に寝てもいい?」

「は!?」

夕日が突然ロウと同じことを言うので驚いて起き上がる。夕日は恥ずかしそうに顔を隠していた。

「俺、ずっと狭い部屋で家族と雑魚寝してたから、となりに誰かいないと落ち着かなくて……だめ?」

「……別にいいけど」

「ありがと!」

とはいえせいぜい距離を縮めてくるぐらいだろうと思っていたのに、夕日は僕の胸に顔を埋めてきたのでますます眠れなくなってしまった。

「あの…夕日さん……」

「何でさん付けなんだよ」

「いや、あの、家族といつもこんなゼロ距離で寝てたの?」

「俺の住んでた部屋狭くて、親と兄弟あわせて6人もいたから。アニキは俺より3年早く家を出てったから、途中から5人だったけど」

「お兄さんいるんだ。僕も兄が2人いるよ」

「俺と一緒だ。兄貴ってすげー下に偉そうにしてくるよな。年が近いと余計に」

「してくる」

二番目の兄はよく僕の遊び相手になってくれてはいたが、常に偉そうではあった。反対に一番上の兄は僕にとても優しく、忙しい両親よりもずっと側にいて世話をしてくれていた。

「あんな兄でも会えなくなったら寂しいもんなんだけどな……」

「お兄さん、今はどこにいるの?」

「わかんない。二群のどっかだとは思うけど。俺みたいに15になったその日にどっか連れてかれちゃったから」

「まさか一緒に住めなくなるだけじゃなくて、会うこともできなくなるの?」

「うん。二群のどこかにいるってことしかわかんないし」

日本という国は今10の群れにわけられているので、一つの群れの範囲がめちゃめちゃ広い。なかでも二群は特に広かった気がする。ちなみに一番狭いのが一群だ。キャビーがとても有能な高速移動手段なのであまり距離を感じないが、同じ群れの端から端への移動だけで本来とても時間がかかる。

「お兄さんが休みの日にこっちに戻ってきたりしちゃダメなんだ?」

「当たり前じゃん。俺達は行っていい場所が決められてるから、それを守らなかったら殺されちゃうよ」

「……なんかそれって」

囚人より酷い扱いじゃないだろうか。下級市民の生活には詳しくなかったが、もう奴隷のようなものだと認識した方がいい気がする。しかもこれで二群はまだマシな方だなんて、他の群れは一体どうなっているのか。

僕の言葉の続きを聞くことなく、夕日は眠ってしまった。僕の服の裾を握ったまま寝息をたてている。家族と離れて一人になったのが余程寂しいのだろうと思ったら、彼の姿が自分と重なった。僕とは状況が違うが、夕日もまた家族と会うことができないのだ。そんな制度はやめさせたいが、ロウに頼んだら叶えてくれるだろうか。いや、僕がそこに口を出すのはさすがのロウも嫌がるだろう。そもそも二群のことなら二群のリーダーに頼むのが手っ取り早いのではないか。二群の貴長には会ったことがある。ロウの孫であるクロウという名のゴーグルをつけた人狼がリーダーだ。

そんなことをずっと考えているうちに窓から光が差し込んできた。結局その夜は寝たり起きたりを繰り返して、まともに就寝できることはなかった。


次の日、朝から突然数時間後に人間を雇いたい人狼が面接に来るので準備しろと看守(と僕が勝手に呼んでいる)の人間に言われた。準備とは何をすればいいのかわからなかったが、とりあえず身綺麗にしておけばいいらしい。僕と夕日は交代でシャワーを浴びた。時間になると二人一緒に呼び出され別室に移動させられた。夜は人の気配があったが昼の今はやはり下級市民は外に出ているらしく静かでがらんとしていた。僕と夕日は常に二人の男に挟まれていて、隙を見て逃げ出すのは無理そうだった。一階にある薄暗い空き部屋に僕と夕日は入れられてそこで待つように言われた。一人の男が残り、もう一人は出ていってしまう。隣の夕日は何やらずっとそわそわしていた。

「夕日? どうした大丈夫?」

「俺、人狼様に会うの初めて……!」

「あ、それでか」

僕はずっと周りを人狼に囲まれていたので今さら何とも思わないが、夕日にとっては芸能人に会えるようなものなのだろう。緊張気味の夕日と並んでしばらく立っていると、扉が開いた。


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あきゅろす。
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