[携帯モード] [URL送信]

神様とその子供たち
002


任命式当日。僕は真崎と連絡がとれた場合に備えて情報を集めておこうかと思ったが、それは僕を信じてくれる人狼に対しての裏切りになるかもしれないと思うと結局何も聞き出すことはできなかった。
前日からロウとは殆ど会えず、当日に備えてキリヤは仮眠をとったので朝から姿を見なかった。キリヤの代わりの護衛をつけられたらどうしようかと思っていたが、ロウは僕をなるべく他の人狼に近づけたくないと思っているらしく代わりは用意されなかった。鍵を厳重にかけて部屋から絶対に出るなと言われたが、そもそも僕のいる部屋はセーフティールームなのでこの建物の中で一番安全な場所ともいえる。

任命式は午前10時から、ここから少し離れた広場で執り行われることになっている。その時間からはこの屋敷に人狼は殆どいなくなるのはわかっているが、正確に何時頃まで不在にしていてもバレないのかはわからない。だが数時間でロウやキリヤが戻ってくることはないだろう。

テレビを見なから任命式の進行状況をチェックすると同時に、真崎の情報が入ってこないか随時確認する。僕が連絡する前に彼が捕まってしまっては元も子もない。

10時になり中継から式が始まったことがわかった。自分の携帯は持っていくべきか迷ったが、センリが以前それを使って買い物ができると言っていたので、今まで使ったことはないが一応現金が必要になったときのためにポケットにいれておいた。
慎重に鍵を開けて扉を開ける。誰もいない。当日は屋敷の人狼は殆ど全員出払うとロウが言っていた。残っているのは人間の使用人か警備の人くらいだ。部屋を出て、出口に向かって廊下を歩くも屋敷の中には人の気配がまったくなかった。恐らくここに残った者達も部屋にこもってテレビで中継される式の様子を見ているのだろう。そのおかげで僕は誰にも見咎められることなく、外に出ることができた。庭には監視カメラ代わりの警備ドローンが飛んでいたが、侵入者ではない僕には無反応だ。

正門には門番がいるので、庭にはえている木を足掛かりにして僕の身長よりやや高めの塀を乗り越えた。ここを見咎められれば完全に不審者だが、この三貴邸のまわりには何もないので人通りもない。

「簡単に抜け出せてしまった……」

何かの罠なのかと勘ぐりたくなるくらいここまでは順調だ。この屋敷の人手が少なくなる任命式の日を選んだのが良かったのだろう。

キリヤとここに来る途中に街があったのを見ていたので、そこに公衆電話があるはずだ。徒歩で1、2キロはあったはずなので、少し駆け足で街を目指す。ずっと一本道だったので迷うことはないだろうが、ちゃんとルートを記憶していた自分に感謝した。

街に近くなると人間とすれ違うようになった。僕は借り物の使用人用のスーツを着ていたが、全員どこかの制服を着ているので僕の服が目立つことはなかった。
店が立ち並びキャビーが道路を走っている。とうとう街についたらしい。目当ての公衆電話を探してとにかく歩き回っていると、ようやくそれは見つかった。前に使ったことがあるので電話のかけ方はわかる。上級市民なら二分間、無料でどこにでもかけられるのだ。

(頼む、出てくれ…!)

真崎の番号を押すと、無事に呼び出し音がなる。この番号は生きている。かなり長い時間鳴っていた気がするが、その電話は繋がった。

『……誰だ。名前を言え』

間違いない、真崎だ。声のトーンはかなり低いが本人だ。あまりに強い彼の口調に、声を震わせながら答えた。

「あ、阿東彼方です」

『な……』

過去から来たと言い張る僕はインパクトだけはあっただろうから忘れられてはいないと思っていたが、真崎は僕からの連絡に絶句していた。あんな報道が流れたら心配になるに決まっているのに、そこまで驚かなくても。

『俺の名前は口にするな!』

「え?」

『この電話は傍受されてる。俺の名前を出せばすぐに奴らに気づかれる。わかったか?』

「は、はい。でも傍受って誰に…?」

『政府だ。奴らはすべての通信を監視してる。下手なことを言わなければ気づかれないが、話す内容には注意しろ。お前、どこからかけてるんだ』

「……三群の公衆電話です」

『緊急時以外はかけるなと言っていたはずだが、何かあったのか?』

「テレビの報道を見たんです。それで心配になって……」

『そんなことで?』

「全然そんなことじゃないですよ。だって捕まったらどうなるか……。冤罪なんですよね? あの事件に関わってなんかないですよね?」

『当たり前だ』

真崎が悪い人間ではないことはわかっていたが、本人の口から聞けて安心した。だとすれば何とかして彼を助けなければ。

『君は、私の心配より自分のことを心配した方がいい』

「? どういう意味ですか」

『私に電話をかけてくるべきじゃなかった。この電話の事は時間はかかっても必ず露見する。私とコンタクトをとったことは、人狼にバレる。そうなれば君も共犯扱いだ』

「そんなこと……」

『人狼は怪しい人間は全員罰する。上級市民であろうとそれは同じだ。君は人間に優しい主人の側にいるからわからないのだろうが……』

真崎の声色には恐怖と焦りが見てとれた。僕が人狼のいい面ばかり見ていたから気づかなかったが、人間にとって人狼はそれほど恐ろしい存在なのだ。

『こうなったら仕方ない、君も私と一緒に行こう。人狼から逃げるしか君が生き残る道はない』


[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!