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神様とその子供たち
逃亡


「どうかしたか?」

キリヤが僕の異変に気づき声をかけてくる。僕は必死に冷静を保ちながらテレビを指差した。

「この真崎さんという方、僕を保護してくれた人なんです」

「保護?」

「えっと、両親を事故で亡くして一人になった時に一時的に……」

「そうだったのか。つらかったな」

キリヤは僕の頭をなでてくれたが、僕はそれどころではなかった。

「この人がテロリストって本当なんでしょうか……」

「この前、ヒラキ様を殺した実行犯を捕まえただろう。そいつを拷問したら真崎理一郎の名前を出したらしい」

「彼がヒラキ様を殺すよう指示したってことですか!?」

「それはわからない。ただ、そいつがテロリストの仲間で向こうのスパイだった事は確かだ」

「その捕まった男が勝手なことを言ってるだけじゃないんですか」

「俺達の尋問を受けて嘘を突き通せるような人間はいない。それに一般人なら今頃とっくに捕まってる。逃亡を続けられるのはテロリストの仲間がいて、逃走ルートを確保してたからだろう」

「……」

真崎がテロリストだなんて信じられない。いや、彼が違法なことをして人間を助けていたのは知っている。それがテロ行為だというなら、彼がテロリストといえるのかもしれない。ただ、彼は人狼を殺したりなんてことはしないはずだ。

「彼が捕まったら、殺されてしまうんでしょうか」

「いや、殺さず捕獲するよう命令がでてるはずだ。情報が欲しいだろうからな。上級市民のしかも警察関係者にテロリストがいるなんて、前代未聞だ」

真崎が捕まったらきっと拷問される。彼には逃げて欲しいが、ロウが、人狼が本気を出したら多分すぐに見つかってしまうだろう。

「十群の方に逃げたという情報が入ってたから、追手がそっちに向かってる」

「追手って人狼ですか」

「いや、人間だ。でも人間の手に負えないなら人狼を出すだろうな。それだけ要注意人物だと思う」

ロウに頼んだら、真崎を見逃してもらえるだろうか。いや、亡くなった人狼がいるのにそんなこと絶対に頼めない。でもこのまま何もせずただ黙って見ているだけなんてできない。

「気になるのか」

「僕には優しかったので……でも、悪い人だったんなら仕方ありません」

僕が真崎と一緒にいたのをナナに見られている。もし彼が気づいたら話を訊かれるかもしれない。センリに訊ねられたら嘘を突き通せるだろうか。
僕は今でも真崎の電話番号を覚えている。彼と何とかして連絡をとって事情を聞きたい。でもそんな事、人狼の誰にも知られずにできるのだろうか。

その後、本を読むふりをして真崎と連絡をとる方法をずっと考えていた。センリにもらった携帯を使うのは多分ダメだ。履歴が残る。同様にこの屋敷の電話を使うのもリスクが高い。今の真崎に連絡したところで出てくれるかはわからないが、一度だけでも試してみたい。真崎は危険を冒して僕を助けてくれたのだ。彼がいなければ僕は今ここにはいない。

しばらく考えて、街には無料で使える公衆電話があることを思い出した。そこを使うことができれば真崎と話せるかもしれないが、そのためにはここを一人で抜け出さなくてはならない。キリヤが常に側にいるためそれはとても難しい。彼から離れる口実を作らなければ。


その日の夜、早めに戻ってきてくれたロウはベッドの上で横になる僕の頭を撫でながら訊ねてきた。

「カナタ、キリヤから聞いたが真崎理一郎という男を知っているのか」

さっそく彼の事を訊ねられ緊張が走った。ロウには恐らく、センリほどではなくとも感情を読み取る力がある。動揺を悟られるわけにはいかない。この質問をされることは予想していたので平常心で答えることができた。

「……はい。彼は親を亡くした僕を一時的に保護してくれました」

ロウの前で嘘はつけないので、用意していた嘘ではない答えを口にする。本当のことを話すと彼は悲しそうな顔をしていた。

「彼は、ロウ様の事を殺そうとしてるんですか?」

「首謀者ではなく、協力者の一人として名前があがった。本人を捕まえれば色々わかるだろう」

「もし彼が本当にテロリストなら、もう彼はなりふりかまってられないはずです。ロウ様を消すために何をしてくるか……。警察官の中に他にも協力者がいるかもしれません」

「確かにそうだな…。警察の人間を全員逮捕するか?」

「いやそれはさすがに駄目ですけど、僕が言いたいのは、ロウ様にはこれまで以上に身辺に気を付けて欲しいということです!」

「ああ、まあそうだな」

僕に言われるまでもなく周りから口酸っぱく言われているのだろう。わかってる、と言わんばかりの態度だった。

「特に任命式の日は他の人狼の方もたくさん集まってくるんですよね」

「警備の強化はちゃんとする」

「その日は、キリヤ様はロウ様の護衛につかれるんですか」

「え? いや、いつも通りお前についててもらうつもりだけど……」

「駄目です! キリヤ様はとても優秀な護衛だと聞きました。その日は絶対にロウ様の護衛として側においてください。僕はここにずっといるだけなんですから護衛はいりません」

「……わ、わかった。カナタがそう言うなら」

「良かったぁ」

ロウの護衛を強化できて安心したが、実は僕の一番の目的はキリヤから離れて一人になることだった。

任命式当日、僕はここを抜け出して真崎と連絡をとる。チャンスは一度きりだ。


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