神様とその子供たち
008
センリとしばらく過ごしたのち、彼は用意された客室に戻っていった。センリには明日も会いたかったが、明日からは忙しくなるらしい。
その日の夜は、遅くなるので先に寝ているようにとロウからの伝言がキリヤによって伝えられた。女性と過ごす事がすぐにわかって、さっさと寝てしまおうと思ったがまったく眠れそうにない。僕は電気をつけたままロウを待つことにした。
夜中12時過ぎたあたりで、ようやくロウが帰ってきた。ロウは恐る恐る扉を開けて僕の様子を窺っている。
「カナタ…キリヤがお前が寝ようとしないって…」
「おかえりなさい、ロウ様」
「ただいま……怒ってる?」
「怒ってないですよ。だからこっち来てください」
いそいそとベッドの中に入ってくるロウ。彼の大きな耳が垂れているので僕に対して後ろめたく思っているらしい。
「えっと、昼間のは……昼間のはだな…」
「その事はいいです。ロウ様にも事情があるんでしょう」
僕の言葉にロウの表情は少しだけ明るくなる。僕の手に自分の手を重ねて、僕のことをまっすぐ見つめた。
「俺が一番好きなのはカナタだ。それだけは信じてほしい」
「……」
ロウのその言葉に複雑な気持ちだった。僕は頷くだけで精一杯で、何も返すことができない。彼の言葉を信じる信じないという話ではなく、僕は自分が一番好きなのは彼だと自信をもって言うことができないからだろう。
「昼間、センリが俺に会いに来てこれ以上何もしゃべるなと釘を刺された。というか、カナタにしたことをめっちゃ怒られた…」
「あ……」
「誰かにあんな罵倒されたの初めてだった……スイも助けてくれなかった……」
「えっと、それはごめんなさい」
僕が謝ることではないのかもしれないが、しょげるロウを見ていると同情してしまう。ロウはシーツにくるまりながら僕にじっとりとした視線を向けてきた。
「お前、本当は俺に何か言いたいことがあるんじゃないのか」
「えっ、どうして?」
「だから俺が帰ってくるの待ってたんだろう」
「違います。一人だと眠れなくて」
「何でだよ」
「……お化けが出るから」
「は?」
なに言ってんだコイツ、という目でロウに見られる。真面目に言ってる僕としては心外だった。
「電気を消して目を閉じてると、物音がするんですよ。絶対、何かいますここ。一人で寝るのは無理です」
「……」
ハチ様の暗示の効果がここまであるとは思わなかった。しかしそれとは別にしてこの部屋は地下で窓もないから月明かりもないし、改めて考えるとここは暗すぎて怖い。
「カナタ!!」
「!?」
ロウに抱きつかれて硬直する僕。すりすりと頬擦りされて「うえええ」と訳のわからない叫び声をあげてしまった。
「大丈夫! 俺がお化けから絶対にお前を守ってやる! 安心して俺の腕の中で眠っていてくれていいからな」
「うええええ」
幽霊だとか非科学的なものは信じない人間だったのに、ハチのせいで一人で眠るのにここまで支障が出るとは思わなかった。結局、いつも通りロウに抱き締められながら、なんなら僕の方からコアラのようにガッチリとロウに抱きつきながら眠った。
次の日、多忙なロウは寝坊した僕が目覚めたときすでにいなかった。キリヤによると続々と人狼がこの屋敷に集まってきているらしく、僕は一切部屋から出ないように言い渡された。いつも通り部屋でキリヤと過ごしながらテレビを見ていたが、どのチャンネルも三貴と四貴の任命式のことばかりやっていた。
「三貴と四貴が同時に変わるのは恐らく初めてのことだろうからな。そりゃあ話題にもなる」
「このテレビって人狼専用チャンネルとかなんですか?」
「いや、そんなチャンネルはない」
人間も見てるのにこの内容なのか。テレビ局も完全に人狼に迎合しているらしい。
「……っ!」
ぼーっと画面を見ていた僕は突然出てきたニュース速報で見知った名前を見つけ釘付けになる。画面上のテロップには赤字でこう書かれていた。
反政府組織の一員として、警察学校教官の真崎理一郎を全国指名手配。一群より現在も逃亡中。
「う、嘘……」
真崎理一郎。
彼はここにきて最初に僕を助けてくれた人間だった。
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