神様とその子供たち
006
「んっ…!?」
突然センリに首筋を舐められそのまま口づけされる。なんの脈絡もない彼の行動に呆然としていた僕だが、我に返り慌ててセンリを押し退けようとした。だが体格差がありすぎてビクともしない。
「ちょ、ちょっとセンリさん何を!?」
「……おかしい」
「何が!?」
今のところおかしいのセンリの行動だ。僕の服の下に手をいれて身体を触っているのはなぜなのか。
「ここまでしてもカナタさんに発情しないなんて…」
「それが普通では!?」
僕なんかでそんな気を起こすのがそもそもの間違いなのだ。というか発情してないならさっさと離れてほしい。
「いえ、いつもなら理性を保つために自分を律する必要があったんですが、今はまったく……。えーー、まさかとは思いますがカナタさん、ロウ様に抱かれたりしてないですよね」
「えっっ」
突然一番触れられたくないところに切り込まれ、内蔵が飛び出そうになるくらい驚いた。僕の動揺を見ただけですべてを察したセンリは、僕と同じくらい絶句した。
「まさか……嘘でしょう? ロウ様はあなたを抱いた上に中に出したっていうんですか!?」
「もうやめて!!」
センリが僕の心の声を読んでくるのに耐えられず顔を手で覆う。なんでこんなに何でもかんでもバレてしまうのか。
「それはロウ様があなたにマーキングしてるからです」
「マーキング…?」
「一部の人狼だけが使える技で、自分の妻を不貞を働く輩から守るために精を中に出して雄を惹き付けるフェロモンを抑えるんです。もちろん時間がたてば効力は消えていきますが、何度も繰り返しマーキングすることで近くの他の男が発情するのを抑制することができます」
「それを僕にやったんですか? ロウ様が?」
「はい。もしあなたがロウ様以外の男に襲われたというのではないのなら」
「それはないです!」
勢いよく首を横に振り否定する。センリの笑顔が凍りつくような冷たい表情に変わった。
「で、ならどうしてロウ様はそんな馬鹿な真似をしたんですか」
「ち、違うんです。ロウ様はやめようとしてたんですけど、僕がいいって言ってしまったから…ロウ様は悪くなくて。ああ、ごめんなさい」
センリにしてみれば失恋して落ち込んでるはずの僕がロウと仲良くやっていたのだから怒るのも無理はない。土下座でもしようかと思ったが、彼の怒りの矛先は別だった。
「悪くないわけないでしょーが!! ロウ様が何百歳あなたより年上だと思ってんですか! どんな理由があろうと100%ロウ様が悪いに決まってます!!」
今だかつてセンリがここまで怒ったことがあるだろうかという憤慨ぶりだった。後ろの尻尾がぴんと立っていて握った拳が震えている。
「あの方は本っ当に自分の立場ってものがわかってるのか…!? いい大人がまだ子供のカナタさんを丸め込んで……あっ、近衛兵達は、あの四人は一体何してたんですか。誰か一人は張り付いてるはず」
「シギ様が止めに入ってくださったんですが、ロウ様に説得されて」
「はあ? そんな役立たずはクビにしてしまえ!」
「えっ、それは駄目です!」
シギが僕のせいでクビになるのだけは嫌だ。慌てる僕にセンリは「そうなるかもしれませんよ」と冷たく言い捨てた。
「スイ様もすごく怒ってました。シギ様が謹慎になったのって絶対今回のことが原因です」
「スイ様にまでバレてるんですか!? 他には誰が知ってるんです」
「スイ様以外は近衛兵の四人だけだと思います。ロウ様が話してなければ」
「あーーもうあの人は…! カナタさん、絶対誰にも話してはいけませんよ。きかれても否定するように! イチ様には特に」
「イチ様に?」
なぜ彼に隠す必要があるのか。そりゃあもちろん自分からわざわざ話したりはしないし、言われなくてもできたら隠しておきたいが、彼はそれを聞いたところで問題にはしないだろう。他の人狼にバレる方が大変なことになるはずだ。
「イチ様は、あなたとロウ様が身体の関係を持つとは思ってなかったはずです」
「どうして?」
確かにこんなにすぐにいたしてしまうとは思っていなかっただろうが、遅かれ早かれいつかはそうなったはずだ。僕とロウが恋人同士になることを認めた彼なら、想定内のことだ。
「それは……カナタさんは未成年ですし、元々ロウ様は女性が好きな方なので。好きと言ってもそういう事をしたい対象ではないのかと」
センリの言葉に少し引っ掛かる。嘘はついていないのだろうが、何かを隠しているような気がした。
「とにかく、この事はイチ様には内密に」
「わかりました。でもロウ様が話してしまったら?」
「すぐに口止めしてきます」
センリが部屋を出ていこうとするので、僕はその背中を慌てて呼び止めた。
「センリさん!」
「はい」
「……会えなくてごめんなさいと、イチ様に伝えていただけますか」
「わかりました」
センリが部屋からいなくなって、イチ様の事が嫌でも頭から離れなくなった。もう忘れないといけないはずなのに、必死で別の事を考えるしか方法が思い付かなかった。
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