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神様とその子供たち
005


僕がそわそわしながら待っていると、センリがキリヤに連れられてやってきた。センリは僕を見るなり腕を広げながらこちらに駆け寄ってくるので、僕は迷わず胸に飛び込んでしまった。

「カナタさん、お久しぶりですね」

色々とあったせいでセンリを随分と懐かしく感じる。彼は綺麗な長髪を後ろでまとめていて、以前と変わらず男前だった。

「元気でしたか?」

「はい。センリさんに会えて嬉しいです」 

僕がセンリと再会の抱擁をしているうちにキリヤがいつの間にかいなくなっていた。僕たちに気を使ってくれたのだろうか。

「センリさんも元気で……何かやつれてません?」

格好いいのは相変わらずだが、目にクマができている。センリは乾いた笑顔で応えた。

「これは…今うちでヒラキ様のご家族をお預かりしてるのですが、ご子息のラセツ様の世話役を任されてまして、それでちょっと」

亡くなってしまった三貴の家族が一群に身を寄せていることはロウから聞いて知っていた。父親を亡くした息子さんを側で見ているのだから、センリの体質上つらくなってしまうのも仕方ないかもしれない。

「いえ、あの、そういうことではないんです」

僕の思考を勝手に読んで否定してくるセンリ。彼は頭を抱えて項垂れた。

「ラセツ様があまりにも毎日泣いていらしていたので、ひたすら慰めていたら懐かれてしまって。毎日僕にべったりなんですよ。どこにでもついてこようとするからもう限界で。まだ子供ですから仕方ないんですが」

「そ、それは…」

元気を取り戻してくれたのなら良いことだが、疲弊してるセンリを見ると何と言えばいいのかわからなくなる。面倒見がいいわりに、他人には一定の距離をとりたい人なので一人になれないのはつらいのだろう。

「任命式にラセツ様は来ないので、その間離れられるのが救いです」

「三群の方なのに来ないんですか?」

「ハツキが三貴を正式に拝命するまで、どこで殺し合いが始まるかわかりません。心情的にもヒラキ様の埋葬も済んでいないので、参加はさせられないです」

まさかお葬式もまだだったとは。僕は疲れきっているセンリを誘導してソファーに座らせる。

「センリさんにも休息が必要ですよ。ここで少しでも休んでください」

「ありがとうございます」

センリは多分この前のことを気にして、忙しいのにいち早く僕に会いに来てくれたのだろう。僕なんかより自分の体調を気にしてほしい。

「そういえば、ここの案内をキリヤ様がしてくださったのでびっくりしました。彼はロウ様の護衛のはずなのに、どうしたんでしょう」

「キリヤ様には今だけ僕のボディガードになっていただいてるんです」

「は!?」

あり得ない、といわんばかりの反応をするセンリ。彼のオーバーリアクションにこっちがびっくりした。

「それは、ロウ様の指示で……?」

「はい、そう聞いていますが」
  
「……ロウ様は僕が思っていた以上に、カナタさんのことが大切みたいですね」

「?」

僕がよくわからない、という顔をしていたのでセンリが説明してくれた。

「ロウ様の護衛に選ばれるのはの軍の中でも優秀な者だけなんです。その中でも近衛兵の4人は特殊能力もあって選出されていますが、単純な強さでいうとキリヤ様が一番です。彼はロウ様とその子供達を除く人狼の中では、一番強いといっても過言ではありません。正直、カナタさんの護衛にしておくにはもったいなさすぎる方です」

「そ、そうなんですか…?」

全然知らなかった、という顔をしているとセンリは驚いていた。キリヤはそんなにすごい人狼だったのか。

「彼は与えられた任務にはどこまでも忠実で、冷徹無比、無感情な鉄壁の守護者と聞いています。カナタさん、キリヤ様と一緒にいて怖い思いをしてないですか?」

「いや、めちゃくちゃフレンドリーな方ですけど。一緒にゲームとかしてくれますし」

「ははっ、カナタさんってそんな冗談とか言うんですね」

「冗談じゃないですってば」

センリには僕が嘘をついてないのがわかるのでかなり驚いていた。世間のイメージするキリヤと本当の彼はまったく違うものらしい。

「キリヤ様と会話できるなんて羨ましいです。ある程度親しくならないと考えが読めないので声をかけたことあるんですけど、『勤務中ですので』と追い返されました」

「キリヤ様はとても真面目な方みたいなので……」

「他の近衛兵の方はまあまあ話してくださるのに、キリヤ様だけは相手にもしてくれず……。表情もないおかげで彼の考えはほとんどわかりません」

「他のって、センリさんシギ様とお話されたことあるんですか?」

「それが彼女とはないんですよ〜〜。遠目から見たことあるだけで。綺麗な方ですよねぇ」

「ですよね!」

その後シギがいかに美人かということで盛り上がってしまった。僕が話したことがあるというとセンリは絶句していた。

「なんてことだ……ロウ様のお気に入りというだけでここまで破格の扱いとは……大事にされてるようで安心しました」

「でもここではやることがあまりなくて!ゼロの世話係をさせてもらってた頃に戻りたいです。ゼロは元気ですか」

可愛いゼロのことを思い出すだけで会いたくてたまらなくなる。新しい世話係になついて僕のことを忘れてしまっていたらどうしよう。

「ええ、元気にしていますよ。最近はわがままをいうこともなくなって、かなり育てやすくなっているようです」

「ゼロに会いたい……」

無理だとわかっているのについそんなのことを口にしてしまう。センリは手を優しく引いて僕のことも彼の隣に座らせてくれた。

「おチビさんは今、数人の人間の使用人に交代でみてもらっています。彼らはうちで働く人狼が家で雇っている者達ばかりなので、新しく人間を雇ったりはしていません。チビさんは大人しくしていますが、あなたの時のように懐いていませんよ。あの子はいい子にしていれば、カナタさんが戻ってきてくれると考えているようです」

「本当に…?」

ゼロがまだ僕を忘れていないと知って泣きそうになる。僕がまたゼロと暮らせる日なんて来るのだろうか。

「カナタさん、あんなことを電話で言ってしまってすみません。カナタさんを傷つけてしまったこと、イチ様ともども心苦しく思っていました」

「……いえ、いいんです。もう」

「こんなことを言っても信じてもらえないかもしれませんが、イチ様の憔悴っぷりは見ていられない程でした」

「イチ様が?」

「はい。暗示をとかれたと聞いたので、カナタさんも同じようになってしまっているのではないかと不安で、イチ様より先に来てしまいました」

「センリさん…!」

優しい言葉に感極まり思わず彼に抱きついてしまう。泣くまいと思っていたのに今にも涙腺崩壊してしまいそうだ。

「……イチ様は、やっぱりもう僕とは付き合えないんでしょうか」

「決してカナタさんを嫌いになったわけではありません。でも、ロウ様があなたのことを好きだと言ってしまわれた以上は、身を引くしかないのです。ごめんなさい、僕たちにはどうしようも……」

「っ……」

センリの背中にしがみつく腕の力が強くなっていく。泣きそうになるのを必死で我慢しているとセンリが僕の顔に手を添えて上を向かせてきた。

「センリさん?」

「カナタさん、あなた……」

センリは僕をソファーに押し倒すとその上に覆い被さってくる。何事かときょとんとしていると、彼の顔が間近に迫ってきた。


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