神様とその子供たち
007
その後はロウと一緒に眠り、明け方までずっと一緒にいた。ロウはぐっすり眠っていたが僕をずっと離さなかった。彼の眠りは深く、翌朝スイが起こしにくるまで目が覚めることはなかった。
僕が目覚めたとき、昨日の自分の痴態を思い出してその場で叫びそうになった。まさか自分があんな積極的にロウを誘うだなんて。彼に喜んでもらいたい一心だったとはいえ、まるで別人みたいだった。僕はあんないやらしい人間ではないんです、とロウに言い訳したい気分だ。それもこれも彼が色々上手すぎるのが悪い。ありえないくらいに気持ち良かった。
「カナタ……」
一人悶えていた僕に気づいてかロウが寝言のように僕の名前を呟く。慌てて寝たふりをしたら、ロウも再び眠ったようだった。
ロウと関係を持ってしまったこと、馬鹿なことをしたとは思わないが少し考えなしだったかもしれない。彼の事が好きだからやったことに違いないが、心の中に正体不明のしこりがある。人間と人狼の許されない関係だからなのか、イチ様と別れたばかりなのにすぐロウと付き合うことを決めてしまったからなのか。暗示がとければ、その答えがわかるような気がする。
「イチ様……」
声に出してその人の名前を呼ぶも、恐怖心しかない。寝ているロウに抱きついて、すぐに彼を頭の中から追い出した。
「おはよう、カナタ」
スイに遅刻だと叩き起こされたロウは、僕のことも愛情たっぷりのキスで起こしてくれた。三貴の任命式の件で忙しいらしく、僕とまともに会話する時間もなくキスだけして部屋を出ていってしまう。ロウは一見いつも通りだったが、スイが「上機嫌ですね」と言っていたので喜んでいたのだと思う。
相変わらず僕の護衛を任されているキリヤはロウがいる時は無表情を崩さなかったが、僕と二人きりになった途端青ざめた顔で僕に詰め寄ってきた。
「カナタ、お前昨日ロウ様に抱かれたって本当か!?」
「は!? えっ、何で知って…!?」
「本当、なのか……」
この世の終わりのような顔をするキリヤにこっちも絶句する。まさかもう全員に知られているなんて事はないだろうな。
「どうしてキリヤ様がそのことを」
「シギに聞いた。俺たちロウ様に関する事は何でも共有するのが決まりだから」
「じゃあ他の方にも?!」
「トキノはな。カエンには帰りしだい言う」
「言わなくていいですよ。もう誰にも言わないでください」
「こんなこと他の奴らに言えるか。お前こそ、誰にもしゃべるなよ。とんでもないことになる」
それは容易に想像ついたのでしっかりと頷く。下手すれば僕は殺されてしまうかもしれないという自覚はあった。
「話によれば、ロウ様がかなり一方的だったみたいだが大丈夫か」
「大丈夫です。あの、合意だったので…」
「本当に? そう言えって言われてるとかじゃなくて?」
「本当です!」
男同士どころか女性との経験もなかったのにあんなに気持ち良くしてもらっていいのだろうかという気持ちしかない。普通もっと痛くてもおかしくなかったと思うのだが、やはりロウの思いやりが大きかった気がする。
「そうか、しつこく聞いて悪いな。ロウ様がお前に手を出したこと、俺にも原因があると思ったから」
「キリヤ様が?」
「昨日一群の方から電話があっただろ。その時、お前が泣いてたこと俺ロウ様に話したんだよ」
「ええ?」
「ロウ様は一言、『そうか』って言っただけだったけど、もしかすると暗示がとけたら、お前がイチ様のところに戻ってしまうと思ったのかもしれない」
「だからあんなことをしたって言うんですか? というか、どうしてそんなに何でもロウ様にしゃべっちゃうんですか」
「仕方ないだろ、カナタのこと任されてるんだから。お前に異常があれば報告する義務がある」
キリヤは護衛として優秀すぎる。もう少し怠けてくれてもいいのに。
「気にしないで下さい。僕は嫌な思いもしてませんし、キリヤ様のせいじゃないですから」
ロウの考えはわからないが、もし暗示がとけて僕が帰りたいと言ったらどうするのだろう。今のところ僕はロウから離れたくはないが、この気持ちも変わってしまうのだろうか。
「そうだ、今日の午後にはカエンがハチ様をつれて戻ってくるそうだ」
「……」
キリヤの言葉に以前の僕なら喜んだはずだった。でも今は少し怖い。
「本当に暗示をとくのか?」
「……はい」
迷ったが、とかなければ胸の中にいつまでもある引っかかりが失くならない気がする。胸を張って、ロウ様が好きだとも言えない…気がする。
「もう少し遅らせた方がいいんじゃないか」
「なぜですか」
「多分数日中にイチ様がこっちに来る。ハツキ様の三貴任命式があるからな。暗示をといてたら、イチ様に会わないわけにもいかなくなるだろ」
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