神様とその子供たち
003※
ロウに腕を押さえつけられ馬乗りになられて一瞬怯んだが、すぐに冷静になった。
「冗談ですよね?」
「何でそう思うんだよ」
「だって僕が嫌がることはもうしないって言ってくれてたじゃないですか」
あの時後悔して死ぬほど落ち込んでいたロウの姿を覚えている。だから今僕を押し倒しているのは単なるパフォーマンスだろう。
「そんなのまだイチと付き合っていた頃の話だろ。もう別れたんだから、アイツに気を使う必要ないし」
「別れさせたの間違いでは……」
「はっ、俺にそんな口のきき方すんのはお前ぐらいだよ」
ロウが僕の目尻にキスを落とす。キザな振る舞いがこんなに似合う男を他に知らない。ロウに口説かれていると自覚すればするほど頭がまわらなくなる。
「いや、でもですね、普通両思いだったとしても普通すぐセッ…セッ……性行為に及んだりしないと思うんですよ普通」
動揺しすぎて三回も『普通』を連呼してしまった。ロウはなんとも言いがたい表情をして僕を見下ろしていた。
「お子ちゃまだな」
「まだ未成年ですもん!」
15歳で未経験なのは絶対普通だと思う。本当は18歳だが。それをロウに馬鹿にされる謂れはない。
「イチとも?」
「前にもそう言ったじゃないですか!!」
「それは良かった」
ロウは満足げに僕に再び口づけをする。もう何度もしてきたことのようにあまりに自然だったので受け入れていたが、我に返って抵抗を始めるとロウは僕を包み込むように抱き締めた。
「安心しろ、お前が嫌がることはしない」
「じゃあ…離して下さい」
そう言うとロウはあっさり手の拘束を解いてくれる。ほっとしたのもつかの間、ロウは僕の身体を撫で始めた。
「ロウ様……っ」
「俺に触られるのは嫌?」
「嫌というわけでは……」
ロウに触られるのは気持ちがいい。それと同時にとても興奮する。今までこんな変な気持ちになったことはなかった。僕がされるがままになっているとロウは首筋に何度も口づけしてきた。
「キスするのは? 身体のどこにキスをするのなら許してくれる?」
「うっ……」
ロウによって服を脱がされ最早上半身は何も身にまとっていない。ロウは僕の下半身に手を伸ばしたかと思うと指を中に入れ、そのまま入り込もうとしていた。
「ロウ様、そこは…っ」
「大丈夫、何も痛いことはしない」
「無理です……! そんなの僕には…」
こういったことに関しては衆道文化で得た知識くらいしかない。たとえロウが好きだとしても、暗示がかかってる今ここで流されてしまっていいとは思えない。
「ロウ様、ロウ様やめて…!」
「来るな、シギ」
ずっとロウの名前を呼んでいた僕は突然彼の声色が変わってハッとする。シギ、とロウは言った。ふと前方を見るとベッドの前にシギが立っていてぎょっとする。一体いつの間に。まったく気がつかなかった。
「ロウ様、どうか冷静に」
「俺は冷静だ」
「彼は嫌がっているように見えます。後で後悔なさるのはロウ様では」
女性でここまでロウに強く言える人狼を初めて見た。女性は全員がロウに惚れ込んでいるものだとばかり思っていたがシギは違うらしい。僕には救いの女神だ。
「後悔はしない。よく考えて決めたことだ」
ロウは振り返ることなくそう答え、シギと僕は動揺した。
「時間はあります。ロウ様ならきっとカナタもすぐに好きになるはず。でも今そんなことをすれば、心を閉ざしてしまうかもしれません」
シギの意見に勢いよく頷く。ロウはそんな僕をまっすぐ見下ろしていた。
「カナタの嫌がることはしない。それだけは守る」
「しかしロウ様は……」
「すまない、どうか見逃して欲しい」
ロウは僕を見ていたが背後のシギに心から懇願していた。本気の目だった。
「後悔なさらないんですか」
「ああ」
その言葉にシギが一歩後ろに下がる。そしてそのまま小さく頭を下げた。
「邪魔をしてしまい、大変申し訳ございませんでした。わたくし、部屋を出ています」
「シギ様!?」
「ありがとう、シギ」
僕の制止の声などまったく聞こえなかったかのようにシギは扉を開けて出ていった。入ってきた姿は見せなかったのに出ていく姿はしっかり目に焼き付けさせられた。ここにはもう僕とロウしかいない。
「絶対に傷一つつけないと約束する。痛い思いもさせないと」
僕が嫌がることはしないと言ったロウの言葉の意味が自分の思っていたものとは違うようだと今さら気づく。逃げなければならないとわかっているのに僕はまったく動けなくなった。
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