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神様とその子供たち
003


ロウが怪我と聞いてまたテロリストに殺されかけたのかと焦ったが、キリヤの話によるとハクトとシオの殺しあいを止めようとして怪我をしたらしい。幸い怪我はアバラを何本か折っただけで、ロウの回復力をもってすればすぐに治ってしまうとのこと。

「それなら良かったですけど……ロウ様に怪我をさせてしまったお二人の気持ちを考えると胃が痛くなります」

「ああ、二人とも暴れられると困るから病院に来るなとスイ様に言われて、今は放心状態でこの屋敷にいるらしい」

「僕らも病院には行けないんですよね」

「もちろんだ。俺達の場合はお前の安全のためだけどな」

たいした怪我ではない、とはいうものの怪我をすることがそもそも珍しいのでロウのことが心配だ。銃で撃たれても平気そうにしていたロウのアバラを折るなんて、相当な衝撃だったに違いない。

「お前にはロウ様から待機命令が出てる。どうしても病院に行きたければ俺を倒して行くしかないな」

「そんな気はないですけど」

僕の頭くらいの上腕二頭筋がある男に立ち向かう勇気はない。今日中には戻ってくるとキリヤが言うので、大人しく待つことにした。昼間はキリヤに体幹トレーニングと筋トレをおしえてもらって過ごし、3時頃にはロウが帰ってきたという知らせを受けた。帰ってきたロウはまっすぐこの部屋へと戻ってきてくれた。

「ただいま〜」

ちょっと遊びに行って帰ってきたくらいのノリで部屋の扉を開けるロウ。背後にいたトキノは真剣な表情でキリヤと小声で話している。

「ロウ様、大丈夫ですか?」

「ごめんな、心配かけて。アバラ折れただけで内蔵に損傷なかったから余裕よ」

「痛くないんですか」

「若干痛むけど問題ねぇな。鎮痛剤も断っちゃった」

ロウの背後にはもう一人、スイもいた。スイがこの部屋に来ることはなかったので顔を見るのは久しぶりだ。挨拶しようとしたが、その前にロウに抱き締められる。

「ロ、ロウ様」

恥ずかしかったが怪我をしているので無理に引き剥がせない。早くみんなこの部屋から出ていってくれないかなと思っていると、トキノが頭を下げてロウに進言した。

「ロウ様、ハクトとシオの二人がどうしてもお会いしたいと申しておりますが」

「あ、そっか。そうだよな。二人ともどこにいんの?」

「呼びつけますので、ここでお待ちになって下さい」

「俺が行くけど……」

「お願いですから安静になさってください」

トキノらに懇願され渋々ベッドに横になるロウ。僕も隣にくるように言われたが拒否してずっとキリヤの近くに立っていた。
しばらくの後、すっかり憔悴した二人の人狼が部屋に入ってきた。

「申し訳ありません、ロウ様!!」

入ってすぐ崩れ落ちるように土下座したハクトとシオ。今にも死にそうな顔をしている二人を前にしてロウは元気に笑っていた。

「ははっ、そんな面すんなよ。俺が急に割り込んだのが悪いんだし。絶対止められると思ったんだけど。お前ら強いな〜」

「とんでもございません。もしロウ様に何かあったら……考えるだけで恐ろしいです」

「当たり前だ!! お前達一体何をしたかわかっているのか!」

スイの怒鳴り声に全員が凍りつく。ロウまでも少したじろいでいるくらいだ。僕がスイに怒られる立場だったら泣いてしまうかもしれない。

「ロウ様に怪我をさせるなんて……まっったく、くだらない権力争いで取り返しのつかないことをしてくれたな」

「申し訳ありません……!」

穏やかな年長者に怒られるのは心にくるものがある。僕はキリヤの影に隠れていて、ロウは毛布にくるまって様子をうかがっていたが、恐る恐るスイを止めに入った。

「スイ、あの、でも俺普通に無事だし、許してやってくれない? そもそも俺が悪いんだからそんな怒らなくてもいいじゃんか」

「よくない!」

「ひっ」

ロウがスイに怯えて説得を諦めた時、キリヤの大きな耳がアンテナのように動き始める。トキノと共にそわそわと落ち着かない様子でいるなと思っていたら、外から扉を叩く音が聞こえた。

「失礼します!!」

大声で入ってくる背の高い男。誰かと思いきや、僕も知っている人狼だった。

「ハツキ様!?」

スイの驚く声と共にハツキがずかずかと部屋の中に乗り込んでくる。キリヤが咄嗟に僕を抱えて持ち上げ距離をとった。

「ロウ様、お怪我の具合はいかがですか?」

ロウの手を取り跪くハツキ。また殺されかけてはかなわないと僕は必死でキリヤにすがりついて存在を消そうとしていた。

「めちゃくちゃ元気だけど……なんでハツキがここにいんの?」

「ロウ様が怪我をされたと知って、いてもたってもいられず来てしまいました」

「ああそう。ありがとね。うん」

「お見舞いの品は運びきれなかったので別室においてあります。あ、そうだ。とっておきの荷物があるんです」

「えー何ー」

そんなに興味もなさそうな口調でロウが訊ねる。ハツキは尻尾を振りながらとびきりの笑顔で話を続けた。

「ヒラキ様を殺した人間を特定して捕獲しておきました。まだ生かしているので、ロウ様の好きになさって下さい」


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あきゅろす。
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