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神様とその子供たち
002


次の日、ロウが出ていってしまった後キリヤが神妙な面持ちで僕に話があると言ってきた。なんだろうと思いながら椅子に座りキリヤと向き合う。腕組みをした彼は筋肉が強調されてついまじまじと見てしまった。

「まず最初にシギから、謝っておいてほしいと言われた」

「え?」

「黙っていると約束したのに、俺に話したことだ」

「??」

「ロウ様がお前のことを好きだと言ったらしいな」

「あっ」

やはり昨夜のことシギは聞いていたのか。しどろもどろになる僕にキリヤは優しく声をかけてくれた。

「責めているわけじゃない。俺はカナタの警護を任されているから、シギも伝えた方がいいと思ったんだろう。多少……いやかなり驚いたが、シギが言うなら本当のことなんだろうな」

「あの……ロウ様は本気で仰ったことなんでしょうか。僕もまだ信じられなくて」

「ロウ様が冗談や嘘で人間を好きだと言うなんて、絶対にあり得ない。本来、人間をゴミ以下の存在としか思っていない方だ。カナタと普通に話しているだけでも信じられないのに、奥方を亡くされてから誰ともお付き合いなさらなかったロウ様が、人間を好きになるなんて……」

「聞けば聞くほどあり得ない話のような気がするんですけど」

「確かにあり得ないな」

キリヤと話し合った結果、ロウが僕を好きになるなんてあり得ないよねという結論になってしまった。キリヤも理由を見つけようとしてくれているが何も見つけられないままでいる。

「カナタは……まあ若いし肌も綺麗だし、性格も悪いわけじゃないし……好かれるのがおかしいってわけではないんだけども……うーん」

「フォローありがとうございます」

「とにかく、何でカナタなんだとかはこの際置いておく。そこを理解しようとすると話が始まらねぇ」

「そうですね」

イチ様といいロウといい何で僕を好きになってくれるのか。自分でも知らないうちに人狼が好む匂いでも出しているのかな。

「仮にロウ様とお付き合いをしたとしても、それを公表してもらっては困るんだ。今まで人間を迫害することを率先してやってきたロウ様が急に人間を恋人にしたと知られたら、全国の人狼は大混乱だ」

「いえ……公表する云々の前にお付き合いさせていただく予定はないのですが」

「は?」

「僕はイチ様と付き合っているので…ってご存知ですよね?」

「そうだけど、ロウ様から告白されたら別れるだろ普通」

「ええ? 普通ですかそれは」

「まあ人狼なら多分誰も断れないし断らないだろうな」

そんな簡単に別れるだなんてイチ様に言えるわけがない。イチ様は本当にロウに譲ってくれと頼まれたら僕と別れてしまうのだろうか。イチ様の事を考えすぎると暗示のせいで謎の震えが止まらなくなるのですぐに思考停止してしまう。

「カナタだってロウ様のことは好きだろ。態度見てたらわかるよ」

「えっ!? そんな風に見えますか?」

人から見てもわかるくらいなら、ロウにも伝わっていたのかもしれない。完全にイチ様からロウに心変わりしてしまったのか。暗示が原因とはいえ自分がそんなに移り気だったなんて知らなかった。

「でもそれって浮気ですよね。イチ様になんて申し開きすれば……」

「なんかよくわからんねぇけど今は暗示かけられてんだろ。でもまあ、お前の場合もうこのままでいた方がいいんじゃねぇの」

「どうしてですか」

「ロウ様の望みが叶わないなんてありえないことだからな。イチ様を選んでもどのみち別れることになるだろうよ。なら、ロウ様を好きでいた方が気持ちも楽なんじゃないのかと思って」

確かに暗示をといてイチ様を選んでも、イチ様の方からロウの方に行くべきだと言われてしまう可能性もなくはない。言われなかったとしても、父親に対する罪悪感を抱えて生きるのはつらそうだ。それに、ロウはそれで簡単に諦めてくれるのだろうか。当然息子は自分に譲ってくれるものだと思っているようだったし、考えただけで頭が痛くなる。

「それでも、僕は暗示はといてほしいです。じゃないとロウ様を好きだって心の底から思えないままですし、何をするにも自分の意思じゃないかもしれないって不安になりますから」

今の僕は僕なのだろうかと自信がなくなることもある。他にハチにどんな暗示をかけられているのかわからない。もしかして、ロウを好きになるように暗示をかけられているのかもしれないのだから。

「そうか。カナタがそうしたいならその方がいいだろう。俺は今まで通りお前を守るだけだ。お前がロウ様の大切な人間だと知られれば、命を狙われる可能性だってあるからな」

「そ、そうですよね。ありがとうございます」

キリヤだって人間が好きというわけではないだろうに、僕の事を疎ましく思わず守ると言ってくれて嬉しかった。まだ浅い付き合いだが彼がいれば心の底から安心できる。うんうんと頷いていたキリヤだが、突然頭についている耳に手をあてたかと思うと険しい顔で口を開いた。

「怪我って、どういうことだよ。……お前はいったい何してたんだ」

どうやらキリヤは耳につけた無線で会話しているらしい。緊急事態なのかかなり逼迫した口調だ。一通り話がすんだ後、キリヤは険しい表情のまま僕の方を見た。

「カナタ、落ち着いて聞いてくれ。今しがたロウ様が怪我をして病院に運ばれたそうだ」



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