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神様とその子供たち
かえがたい存在


僕を腕枕をしながら横になったロウは、僕がキリヤとどんな話をしているのか、二人で何をしているのかを訊ねてきた。無口だと思っていたキリヤがよく話す男だと知って、彼に興味が出てきたのだろうか。

「キリヤ様は優しいですよ。僕のためにゲーム機を持ってきてくださったんですけど使い方がわからなくて、キリヤ様もわからないから二人して途方に暮れてたんですけど」

「ふーーん」

「ロウ様は無口だって言ってましたけど、キリヤ様は多分すごく真面目な方だと思うんです。だからあまりロウ様の前で話さないのではないかと」

「たしかに真面目な奴だな。俺に対してもなんか他人行儀だし」

ロウは昨日のことを少し気にしているのか、いつもみたいに僕を抱き締めたりはしてこない。僕としては嫌だと思わないのでどのようにしてもらってもかまわないのだが。

「キリヤ様は、僕がシギ様に会いたいと言ったら会わせてくださったんです」

「シギに会ったの? いいなぁ、俺なんか顔も見たことないのに」

「えっ、何でですか」

「女子だから会っちゃダメなんだって」

「……」

確かに、女好きのロウの近くに女子がいたら色々と駄目かもしれない。ロウに迫られたりしたらシギは仕事ができなくなってしまうだろう。

「世話になってるから一度礼を言いたいんだけど、また会うことがあったらお前から伝えといてくれ。いつもありがとうって」

「僕ももう会えないかもしれませんが、わかりました」

「お前は何でシギに会いたかったんだ? 女だから?」

「いえ、昨晩のことで少し……」

そう言うとロウの顔が少し険しくなる。気まずい空気が流れてどうしようかと焦っているとロウがそっと僕の頬に触れた。

「昨日のことは、ごめんな」

「いえ! 気にしてませんから」

気にしてない、というのは嘘だがそれでロウを嫌いになったりはできない。それよりもロウにずっと罪悪感を持たれている方が嫌だ。

「カナタを軽く見てるわけじゃない。俺は本気なんだ。それだけはわかってほしい……」

「本気?」

「お前のことを抱きたいって言ったことだ。誰でもいいから手を出したんじゃない。カナタが良かったんだ。それが一方的な気持ちだとしても、あの時は我慢できなかった」

ロウの告白にも思える言葉に頭の中が真っ白になる。僕の耳には告白のように聞こえたが、まさかそんなわけないよな?

「何で、僕なんかが良かったんですか?」

「カナタが好きだからだけど」

「いや、いやいやいや……それはおかしい」

「?」

「ロウ様は人狼なんですよ。それにあんなに人間を嫌ってるじゃないですか。なのに人間の僕が好きなんて……」

「カナタは俺にとっては人間じゃない。他の誰とも違う。かえがたい存在だ」

ロウが僕に対してあり得ないことを口にしている。まさかこの今の会話もシギに聞かれているのだろうか。だとしたら僕の方も不用意に返事はできない。

「あの、僕はそれを聞いてどうすればいいのでしょう」

「ずっと俺の側にいてくれたらいい」

「それは無理なんじゃ……」

「何でだよ」

「僕はイチ様とお付き合いしているので」

ロウに許可をもらっていないのでまだ付き合っているわけではないのか? 快眠グッズとしてロウの側にいるのならまだしも、抱きたいと言われて一緒に寝るのはイチ様への裏切り行為ではないのか。

「別れればいいだろ」

「は?! そ、そんな簡単に……」

「イチは俺が頼んだら、多分譲ってくれると思うぞ」

「えっ!?」

「例え死ぬほど嫌なことでも、俺がお願いすればいうこと何でもきいてくれる子だし」

「……」

確かにイチ様はロウのいうことなら何でもきく。彼のことは信じているが相手がロウなら絶対ないとは言いきれない。

「でも俺はカナタと交際していることをおおやけにはできない。そのことでつらい思いをさせてしまうかもしれないが、カナタを守るためだ。許してくれ」

いつの間にかロウと付き合うことになっているような。さっさとその気はないのでお断りします、と言えばいいのに僕にはなかなかそれができない。

「……」

多分きっと、僕はロウが好きなのだ。人嫌いのはずのロウが僕には優しくしてくれるのが嬉しいし、彼の笑顔をずっと隣で見ていたいとも思う。こんなに苦しんでいるロウを放っておけない。僕が助けになるなら何でもしてあげたい。でも。

「僕もロウ様が好きです」

「ほんとに?」

ぱあっとロウの顔が明るくなる。でも僕はその気持ちを素直に受け入れることができなかった。

「でも多分、これってイチ様のことが好きだって気持ちが一時的になくなってるせいだと思うんです。暗示がとければどうなるか……」

好きだった気持ちはなくしても、好きだったことは覚えている。あの時の僕はイチ様と一緒にいられるだけで幸せだった。なのに今はロウのことばかり考えてしまっているわけだが。

「暗示はハチにといてもらう。どうなるかはやってみないことにはわからないだろ。でも、とけても多分俺の事が好きなままなんじゃねぇかな、多分」

「何ですかそれ……」

あんまり自信たっぷりにロウが言うので笑ってしまう。しかし本当にそうなってしまいそうな気もする。言いたいことを言って満足したらしいロウは、僕と手を繋いだまま目を閉じた。


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あきゅろす。
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