神様とその子供たち
007
その後ロウが待てど暮らせど戻ってこないので、心配になって僕も部屋を出ると、そこには隅っこで丸くなるロウと、彼を心配そうに見守るキリヤら数人の護衛がいた。キリヤが僕に気付き近寄ってくる。
「カナタ」
「あの、ロウ様は」
「それが急に出てきてからあのままなんだ。何を聞いても返事もなさらないし、何があった?」
「えーーっと」
まさかあったことを正直に話すわけにもいかず、ひきつった笑みで誤魔化した。丸くなるロウに近づき、恐る恐る話しかける。
「あの、ロウ様大丈夫ですか」
「大丈夫じゃない」
「こんなとこじゃ寝られないでしょう。戻りましょう」
「……」
「別に怒ってないですから」
「……うん」
耳がぺたんと垂れてしまったロウは僕に手を引かれてようやく部屋に戻ってくれる。キリヤがハラハラした目でこちらを見るので、大丈夫とだけ口パクで伝える。無理やりロウをベッドに寝かせて手だけ握っておいた。
「いいんです、人狼の方は性欲をコントロールするのが大変だと聞きました。ロウ様も女性と過ごせなくて大変なんですよね。僕も叫ぶなり殴るなりして抵抗しなかったのも悪いんです」
「俺は別に性欲をコントロールできなくなったことなんかないけど」
「じゃあ何で僕にあんなことしたんですか!!」
せっかくのフォローをぶち壊すロウに思わずキレる。しかしロウは目を閉じて「ごめんな」と謝るだけで、それ以上何も答えようとしない。仕方がないので僕も怒るのはやめて眠ることにした。ロウがもう何もしてこないであろうことはわかっていた。
次の日、ロウは朝早くから出ていってしまった。もしかして昨日のことは夢だったのかなぁとぼんやり思ったりしたが、身体にキスマークを見つけてしまったので夢ではなかったとすぐに思い知った。
キリヤにはずっとこの部屋にいてほしいと言われたがこんな窓もない部屋では気が滅入る。娯楽もないので昨晩のロウのことばかり考えてしまう。ロウが僕をどう思ってるとかどうしたいのかとか悩みすぎるあまり一周回ってもうどうでもいいやと考えだした頃、あることに思い至った。
「あの、キリヤ様」
「なに?」
「シギ様にお会いしたいんですが、どうしたらいいですか」
「!?」
シギの名前が出た瞬間、キリヤが固まる。何かよくないことを言ってしまっただろうか。しかし昨晩助かったのは彼のおかげと言ってもいい。お礼も言いたいし、何より僕とロウの事を口止めをしたい。だがキリヤは難しい表情で考え込んでいた。
「何で?」
「それはちょっと恥ずかしいので言いづらいんですが、お礼がしたくて」
「お礼? 俺にじゃなくてシギに?」
「はい。いえ、キリヤ様にはいつも感謝しておりますが、それとは別件で」
何があったんだと知りたそうだったが、僕の口は堅そうだと思ったのかそれ以上追求してはこなかった。しかし会わせられるかというと、そう簡単にもいかないらしい。
「シギに会うのはちょっとなぁ。忙しい奴だし」
「お時間はとらせません。少しだけでいいんです。お願いします」
このまま紹介してもらえなければ偶然彼を見かけたとしてもお礼を言うこともできない。僕があんまり必死なのでキリヤの方が折れてくれた。
「わかった。少しだけだぞ」
「! ありがとうございます!」
「でも、まともに会話してもらえると思うなよ」
「? もしかして人間がお嫌いなんですか」
「人間がっていうか、無駄な会話はしない奴なんだよ。俺らとも業務連絡でしか口聞かないし、他の奴に話しかけられても基本無視だから」
「それでもいいです」
もしそうなら昨晩の僕とロウのことはまだ誰にも話してないかもしれない。それに彼がどんな人狼であろうと、昨日の事は感謝している。
「なら、いっこだけ俺の忠告を守れよ」
「何ですか?」
「アイツを好きになるな」
「えっ!?」
「シギに惚れるなって言ってんだ」
「惚れませんよ!? なんでそんなこと……えっ、もしかして、シギ様にはハクア様と同じような力があるんですか」
ハレの妹、ハクアは男性を一瞬で虜にしてしまう特技があった。シギもその類いの得意技を持っているのだろうか。いや、確かシギは姿を隠すことが得意だったはずだ。
「ハクア様……といえば、ミレナ様のご息女だな。男は全員接近禁止命令が出ている、危険度の高い特技を持ってる方だ。シギがあんな性質持ってたら、お前とは絶対会わせないっつうの」
「じゃあなぜ……」
「まあ会えばわかる。仕度しろ」
キリヤの言葉に用意されていた人間用の制服を着る。少しの間とはいえこの部屋を出られそうでほっとした。
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