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神様とその子供たち
006※


ロウにキスされて、何が起こったのか理解するのに時間がかかった。すぐに離れてくれるかと思ったが、僕が放心してるのをいいことに口づけを深くしてくる。こちらもいつまでも人形のよう呆けていられるわけもなく、顔を背け彼から逃げた。

「なっ、何してるんですか!?」

「何って…………何だろ」

「は!?」

「お前が俺の事を好きとか言うから……俺もカナタが好きだし、してもいいかなって」

「いや、よくないですよ! 少なくとも口と口は良くないです」

「何で?」

「何でって……ロウ様だってイチ様と口ではキスされないでしょう」

「昔はしてたけど、嫌そうな顔されるようになってからはやめた」

「でしょでしょ」

「でも俺達親子じゃないだろ」

「親子じゃないから尚更駄目です!」

どうやったら僕にキスなんかしてはいけないというまともな思考を持ってくれるのか。ロウがここまで話が通じない相手だとは。

「あ、ファーストキスだったとかそういう話?」

「違います! そもそもファーストキスじゃないですし」

「は? お前イチとどこまでいってんだよ」

「ど、どこだっていいじゃないですか……」

蚊のなくような声でしか返事ができない。突然ロウの声のトーンが落ちて寒気がした。怖い。気持ちはもう彼女の父親に初めて会った彼氏だ。

「親が交際を許可してないうちにやることやっていいと思ってるのか」

「そんな責められるような事は何も……」

一方的に怒られるなんて理不尽だと思ったが、ロウからしてみれば目にいれても痛くない息子が人間にたぶらかされてるように見えるのだろう。ここは謝っておいた方がいいかもしれない。

「ごめんなさい。あの、でもイチ様とはまだ何も、キスだってそんなにしてないですし、それ以上のことなんてまったく……」

だからそんなに怒らないで下さい、と言おうとした途端ロウに口づけされる。抵抗する間もなく舌を差し込まれ中を探られる。これは、ペットや家族にするようなキスではない。その気などまったくなかったのに、ロウと舌の動きの一つ一つに感じてしまっていた。

「ん……っ」

経験の乏しい僕でもわかるくらい彼はキスが上手かった。あっという間に全身の力が抜け、ロウがやっと唇を離してくれた時にはぐったりとしてしまっていた。

「お前はイチの話をするな」

「どう、して……?」

もしかして、ロウは僕とイチ様を別れさせるためにこんなことをしているのだろうか。後ろめたさから僕がイチ様から離れるだろうと考えているのか。

「あっ……!」

首筋を舐められ足を持ち上げられる。ロウの股間についた硬いものが僕の下半身に押し付けられ、ぼーっとしていた頭が危険を察知して覚醒した。

「何するんですか…!」

逃げようとした僕の身体を押さえ付け口づけをされる。僕の疑問に答えることなく、ロウはなおも下半身を押し付けてきた。

「お前を抱きたい」

「!?」

ロウの顔は真剣そのものだった。嫌々でも冗談でもない。断るのは許さない、と彼の目が命令していた。

「んんっ」

ロウに乳首をつままれて喘ぎに近い声をあげてしまった。こんな声素では絶対に出せないのに、ロウの手にかかれば全身溶かされそうになる。
もしかして、僕がいるせいで女性を抱けないから彼は性欲の行き場をなくしているのだろうか。毎晩毎晩女の子を抱いていた人が、突然禁欲生活を強いられてしまったらこうなってしまうかもしれない。そう考えると少し冷静になれた。

「やめてくださいロウ様……!」

「なんで?」

「なんでって、こ、こういう事は付き合ってる恋人同士がやる行為ですよ」

「俺がイチならやるのか?」

「そ、それは……。って論点をすり替えないで下さい! そもそも、ロウ様はどうして僕にこんなこと……っ」

「やりたいからやってるだけだ。大人しくしてろ、痛くはないから」

身体を押さえ付けられ服を脱がされる。ロウの方もいつの間にか半裸だ。彼とまっすぐ目があって、拒絶したいのに言葉が出てこなかった。ロウが僕に触れる手の動きに身体をよじって抵抗するも逃げ場がない。気持ちいいからといってこのまま流されてしまっていいのだろうか。いや、いいわけがない。

「痛っ!!」

「!?」

突然、ロウが頭を押さえてベッドの上に突っ伏した。何事かと起き上がってロウの様子を窺う。

「ど、どうしたんですか」

「…………叩かれた」

「えっ、誰に?」

ここには僕とロウ以外にはいないはずだ。僕は何もしていないのに、誰に叩かれるというのだろう。

「……多分、シギだ。俺の不意をつけるのはアイツしかいない……」

「シギって、ロウ様の護衛の?」

「よく知ってるな」

「ここにいるんですか? どこ!?」

周りを見回しても誰の姿もない。わりと広い部屋だがそんな簡単に隠れられそうな場所はないはずだ。というか今までのやり取りが誰かに見られていたとすれば恥ずかしすぎるのだが。

「探しても無駄だぞ。シギは姿を隠すのが得意なんだ。くそっ…………カナタ、ごめん」

「えっ」

ロウが罰が悪そうに僕に謝る。耳が垂れて先程までのギラギラした目の彼ではなくなっている。

「こんなことして、シギに怒られても仕方ない。カナタの嫌がることはしない。俺は……どうかしてた」

ロウは僕にシーツをかけると、頭を冷やすと言って部屋を出ていってしまう。とりあえず服を着直して、僕はそのまま呆然としていた。


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