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神様とその子供たち
005


その夜、ロウ様は僕をすっぽり包み込んで眠った。ロウは笑顔が多かったが傷心であることは間違いない。すがるように抱き締められては、僕もそれを受け止めるように彼の背中に手を回すしかなかった。

「おやすみなさい。ロウ様が少しでも長く眠れますように」

睡眠で少しでも体力を回復して欲しい。僕にできることはそれくらいだ。そう思っていたのにロウは丸々とした目をこれでもかというくらい見開いていた。

「今ので目が冴えた……」

「何で?」

「カナタが悪いんだろ」

「悪いこと何も言ってないのに……」

ふてくされているとロウが笑顔で僕の頭を撫でる。「耳がない〜」とふざけて頭部を掴まれるのでこっちまで目が冴えそうだ。

「ああ、そうだ。ヒラキの家族なんだけどな、明日には一群に行っててもらおうかと思って。この件が片付くまでイチのところに預けるつもりだ」

「一貴邸に?」

「ああ、そこが一番安全だからな。二人とも泣いててそれどころじゃないんだけど、待ってやれる時間がない」

話を聞くだけでこちらが泣きそうになる。父親が自分達を守って死んでしまうなんて、そんなのつらすぎる。

「カナタ、どうしてお前がそんな顔をする?」

「何でもありません。もう寝ましょう」

すぐに自分の家族と重ね合わせてしまうのは悪い癖だ。僕は電気を消して強制的にロウを眠りにつかせた。


それからしばらくして、うめき声で目が覚めた。ロウが僕を抱き締めながらまた泣いていた。

「ごめん……ごめんな……」

どうして彼は謝るのだろうか。亡くなってしまったヒラキという人狼に対してなのか、誰に謝っているのかわからないがロウはとてもつらそうだ。僕はロウを抱き締めて頭を撫でた。

「カナタ……?」

「あ、起こしてしまってごめんなさい。大丈夫ですか」

「……」

僕の問いかけにロウは答えない。すでに泣き止んではいるだろうが、やはりまだ不安定だ。あれだけ頼もしかったはずのロウが子供のように思える。

「一人になりたくない」

「? ロウ様は一人じゃないですよ」

「……一人だよ。ずっと一人だった」

寝ぼけているのだろうか。ロウほど周りから愛されて必要とされてる人を僕は知らない。ロウが一人だというなら、一人じゃない人などこの世にいないだろう。

「でも、カナタといれば一人じゃない」

「そうなんですか?」

「ああ」

その理屈にはあまり納得できないのだが。もしかして彼は酔ってるのだろうか。

「カナタ、俺の側にいてくれ。お前がいないと、俺は多分駄目になると思う」

なぜロウが僕にここまで頼りにするのか。快眠のため、というだけではない気がしてきた。

まずいことになった。この時僕はそう思った。なぜなら、弱ってるロウの発言に、そうしてもいいかもしれないと考えてしまったからだ。
イチ様の事を好きだったのは覚えている。暗示にかかる前の僕だったら、きっとこんな思考にはならなかっただろう。イチ様より、ロウの方を優先したいと思い始めている。本当に自分が望んだことではないとわかっているのに、それでもいいかと考えてしまった事が問題なのだ。

「何で返事しないんだよ」

「いや、その、僕だけでは決められないというか、イチ様と相談しないと」

ギラリとロウの目が光る。僕は良くないことを言ってしまったらしい。

「お前はイチがそんなに好きなのか」

「はい……おそらく」

「おそらくって何だよ」

「それは、今イチ様に対しては恐怖しかないので、想像で言うしかなくって」

「俺だって、いっちゃんと同じくらいカナタに優しくしてるのに、どうして俺の事は好きにならないんだよ」

「……?」

優しくされたからって誰でも彼でも好きになったりしない。でも、ロウの事はもうかなり好きになってしまっている。

「ロウ様のこと、好きですよ」

「本当に?」

「はい、まあ、今は特に……」

ロウの好感度が急上昇しているは僕に良くしてくれるせいもあるだろうが、暗示のせいもある気がする。彼が笑ってくれるなら、ずっと一緒にいてもいいとすら思えた。ロウは僕を見て笑ったと思ったら、そのまま顔が近づいてきてそうするのが当然のようにキスをされた。


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