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神様とその子供たち
004


僕が案内されたのは部屋はなんと地下にあった。隠し扉から階段を使って薄暗い地下へとおりていく。部屋に装飾品などはなかったが、大きなベッドをおいても十分な広さがあり、キッチン、バストイレなども完備された何不自由ない部屋に見えた。

「ここはセーフティールームだ。シェルターみたいなもんだな。ロウ様もここに泊まることになってる」

「キリヤ様はどこで眠るんですか」

「俺は扉の外で見張る」

「えっ」

「俺に睡眠なんかいらないんだよ。ロウ様が言ってただろ」

「それはそうなのかもしれませんけど」

かといってずっとドアの前で見張ってるなんてつらくないのだろうか。いや、彼らはそういう仕事なのだから我慢できるんだろうが、僕なら無理だ。

「お前とロウ様が一緒にいる間はトキノ、シギと交代して見張ることもできるから、心配するな」

「ありがとうございます」

深々とお礼をする僕に「ロウ様のためだ」と答えるキリヤ。彼の大きな身体を見ているとキリヤが守ってくれるなら大丈夫だろうという気になってくる。

その後キリヤはロウが来るまでの間、三貴候補者のハクトとシオのことについて説明してくれた。ロウの命令だからなのか、キリヤはずっと僕と話してくれている。疲れる、という感覚がないせいなのかもしれないが、キリヤはおしゃべりが好きなのかな、と錯覚してしまいそうになるほどノンストップで会話してくれていた気がする。
彼によるとハクトはずっと三貴ヒラキの護衛で、ここの警備責任者でもあった。全盛期ならいざ知らず、現在のヒラキはやや身体の衰えが見られ寿命がカウントされていると言われていたらしい。
人狼の男は基本成長がベストのところでいったん止まる。そこから何十年、何百年先かはわからないがいったん老化が始まると寿命のカウント始まったと言われ、個人差はあるもののだいたい二十年から五十年の間で亡くなってしまうらしい。
ヒラキが弱ってきたという噂が流れてから、ヒラキに決闘を申し込む輩もいたがそれをすべてハクトが叩き潰していたそうだ。ハクトの強さは全盛期のヒラキと同等とも言われ、ヒラキの息子であるラセツに格闘技をおしえる師範でもあった。そんな人がヒラキが亡くなった途端その座を奪いに来るなど人間の心情としては考えにくいが、人狼としてはまっとうな思考らしい。
一方、シオ・サエカは三群東エリアの頭領で典型的な戦闘狂タイプだ。三群南エリア頭領のヒサクを不意打ちで襲撃し早速ライバルを減らしたらしい。二度結婚して奥さんと子供がいる。普段は特に問題を起こすこともないそうだが一旦スイッチが入ると手がつけられない。観光に力を入れ納税額が桁違いなので、頭領としての資質は認められているそうだ。しかし極度の人間嫌いとしても有名で、彼が三貴になればヒラキの時代の三群とはかなり違うものになるだろうというのがキリヤの見解だった。

キリヤと話しているのは楽しかったが、突然彼が話を中断して立ち上がった。

「どうしました?」

「ロウ様が帰ってきた」

「え? わかるんですか」

「上が騒がしくなったからな」

「迎えに行きます?」

「いや、俺はここにいなきゃならない」

といいつつも尻尾がくるくるしていて落ち着かないのが見てとれる。しばらくして、ロウがこの部屋へとやってきた。

「カナタ!」

帰ってきて早々ロウに抱き締められる。僕も抱き締め返すとロウに頬擦りされてしまい顔がひきつる。

「カナタ〜〜〜。よし、ちゃんと無事だな〜〜」

「うへあああ」

「ありがとうキリヤ。お前に任せて良かった」

「いえ」

キリヤは頭を下げて一歩下がる。そのままあっさり部屋を出ていってしまったがロウに頬擦りされていたので僕は声をかけることができなかった。
一通り好きにして満足したのか、ようやく離れたロウが笑顔で訊ねてくる。

「問題はなかったか?」

「ありませんよ。ロウ様は大丈夫でしたか?」

「気分は最悪だが健康そのものだよ」

僕らが無駄に抱擁している間、ロウの護衛の一人がキッチンに立ち用意した食材で夕飯を作ってくれた。イチ様の家で出してもらっている食事並みに美味しかった。食べている間、ロウは穏やかな表情で僕を見ていた。

「ロウ様、ハクト様という方に会いましたか」

「ああ、そいつが食材くれたんだ」

「えっ、そうなんですか? じゃあお礼言わないと……」 

「俺にくれたやつだから、お前が食べたって知ったら怒ると思うぞ。カナタもハクトに会ったのか」

「はい。ハクト様は三貴になりたがっているとキリヤ様から聞きました。あとシオ様のことも」

「キリヤがぁ?」

「はい。他にも色々とおしえてくれましたよ。優しくて明るい方ですね」

「キリヤっていっちゃん並みに無口な奴じゃないの?」

「? いえ、むしろすごく話してくれる方でしたけど」

「えーーっ」

どうやらロウの前でキリヤは殆ど話さないらしい。仕事中だから当然なのかもしれないが、ロウはオフのキリヤには会ったことがないのだろうか。

「俺とは話さないのに何でカナタとは話すんだよ」

「ロウ様が話し相手になれって言ったからでは……?」

「そう言わないと一言もしゃべらないかと思って」

休日はあるが基本休まないと言っていたので、もしかするとキリヤはあまり誰かと話す機会に恵まれていないのかもしれない。あんなに僕と話してくれたのもそのせいだろうか。


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