神様とその子供たち
002
僕はヘリが着陸する時の振動で目が覚めた。覚醒した僕を見てほっとするロウの顔が一番最初に目に入る。
「大丈夫か? センリから飛ぶのが苦手って聞いてたけどまさか気絶するとは」
「スミマセン、ちょっとびっくりしただけでもう平気です……ってうわ」
「悪い! 時間がないんだ」
ロウは着陸と同時に僕を抱き上げ地上に出る。何人ものロウの護衛が後ろからついてきていた。そのうちの一人がロウに声をかけた。
「トキノから連絡きました! 爆発場所はここからおよそ北西3キロ先です」
「3キロならこのまま走っていく」
「お待ち下さい、トキノによると負傷者はすでに病院に運ばれております。そちらへまず向かいましょう」
「わかった」
「ここは下級市民のエリアです。お願いですから、お一人では向かわれませんよう」
「なら俺についてこい」
ロウがあまりにも早く走り抜けるので正直ヘリに乗っている時と同じくらいの恐怖だった。低いビルなら簡単に飛び越えられそうなくらい高くジャンプするので、背中に羽でもはえているとかと思ったぐらいだ。
どんなアトラクションよりスリリングな体験をしてぐったりしていると、目的の病院にたどり着いたロウがようやく僕をおろしてくれた。護衛の人狼達も後からついてくる。入り口の近くにロウが先に行かせたトキノという人狼が立っていた。「案内します」とすぐさまロウの横についた。
「お待ちしておりました。確かにヒラキ様と奥様のマノリ様、ご子息のラセツ様がこちらにおられます」
「容態は」
「ヒト様が手術されています。ただ……」
「ただ?」
「ヒラキ様が……病院に運ばれたときはもう、息をしておられず…」
「……」
トキノと並んで歩いていたロウの足が止まる。僕の手を握っていた彼の力が強くなった。
「お前、俺をどこに連れていこうとしている」
「……」
ロウの問いかけにトキノは口を開くも言葉にならない。すべてを察したロウは一人で先へと進み、その先にある階段を降りて薄暗い廊下へと歩いていった。離れるなと言われていたの僕も彼を慌てて追いかけると、ロウが足を止めたのは霊安室の前だった。
扉を開けた彼は中で横たわる男に駆け寄った。
「ヒラキ!」
ロウは赤黒い血がついたまま横たわる、かろうじて男性だとわかるその遺体にすがり付き大声で泣いた。その絶叫に僕は彼の姿を呆然と見ていることしかできなかった。
遅れてスイがやってきて、ヒラキの遺体から離れようとしないロウを宥めてようやく連れ出す。エレベーターを使い応接室まで案内され、ロウはソファーに座らされる。僕がいれば精神が安定するとでも思われたのかロウの横に座るように指示された。
しばらくして見たことのある顔の男が入ってきた。以前名医として紹介されたロウの医者であるヒトだ。
「ロウ様、申し訳ございません。私が着いた時にはヒラキ様はすでに息を引き取られ、助けることが、できませんでした」
土下座するヒトにロウが「座ってくれ」という。泣きそうな顔になりながらもロウの前のソファーにおずおずと腰をおろす。
「お前ができないというのなら、誰にもヒラキは助けられなかった。マノリとラセツの容態は」
「安定しております。どうやらヒラキ様は爆発から家族を身を呈して守り、それでお二人は無事だったようです」
「そうか、ありがとうヒト」
「いえ…」
ヒトの目には涙が浮かぶ。ヒラキを救えなかった悔しさでたまらないという顔だった。
「ヒラキ達は家族でどこに向かっていたんだ」
「…一群です」
「俺に会いに来ようとしてたのか」
「それは、わかりかねますがその可能性はあります」
ロウが大きくため息をつく。スイがロウの側に跪いて肩に手を置いた。
「ロウ様」
「俺のせいだ」
「そんなわけないでしょう。馬鹿なことをおっしゃらないで下さい」
「俺に会いにこようとしなければヒラキは生きてたかもしれない。朝からずっと胸騒ぎがしてたのに、俺は止められなかった」
「ロウ様、悪いのはヒラキ様を殺した犯人です。間違えないで下さい」
「……」
泣いていたロウの顔つきが変わる。恐ろしい程に怒りに燃えていた。
「誰がヒラキを殺したのか、目星はついてるのか」
「不明です。しかし爆発物が使われたとなればテロリストの仕業としか思えません」
「殺せ」
怒りに震えたロウが地を這うような声で命じた。隣にいる僕もあまりのロウの変貌に息が止まっていた。
「ただでは殺すな。殺すのは、そいつがもう死なせてくれと懇願するまで拷問して苦しみを与えてからだ。どんな手を使っても、その人間を捕まえて報いを受けさせろ」
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