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神様とその子供たち
003


部屋で手錠に繋がれて一人待つ間、不安でどうにかなりそうだった。ただベッドの上で座っているだけなのに呼吸は荒くなり、鼓動も早いままだ。
見知らぬ場所で怪我をして野外で気を失ったところを、正体不明の男……名前は真崎理一郎というらしいが、彼に保護されて拘束されている。この状況を自分なりに納得できるように説明しようとしても上手くいかない。だが自分が困ったことになっているのは確かだ。子供がこんな目にあっていると知ったら、両親は怒り狂うだろう。だが最悪の場合、もう家族には会えないかもしれない。慎重に行動しなければ。

ここがどこかはわからないが、自宅の近くではないことは確かだ。見覚えのない場所だったし気温のこともある。それになにより、気になるのがあの変な乗り物だ。あんなものは見たことがない。あれは夢か何かだったのかと疑っているくらいだ。
助けを呼ぶためにダメ元で叫んだり脱出を試みてもいいかもしれないが、この手錠が壊せるとは思えないし周囲に人の気配もない。

永遠のようにも思える時間だったが、思っていたよりは早く真崎が戻ってきた。まったく動かなかった僕は彼が出ていった時と同じ体勢で彼を出迎えた。

「待たせて悪かった。大人しくしていてくれて安心したぞ」

「……手錠をはずしてください」

「わかってる。だがその前に、話しておきたいことがある」

「……?」

真崎は自らもベッドの上に座り、あぐらをかいた。そして紙を見ながら難しい顔をして話し出す。

「君が書いてくれた生年月日だが、もしこれを信じるのであれば、今は君が生まれてから300年以上たっている計算になる」

「は……?」

「それにこの住所、電話番号、学校名。どれも存在しない。これはまあ調べる前にわかっていたことだがな。君の家族の名前も念のため調べたが、該当者はいなかった」

「なに、ふざけたこと言ってるんですか。そんなわけないでしょう…!?」

「それはこっちの台詞だ。君こそふざけているなら、今すぐ本当の事を言いなさい」

「300年前だとか、馬鹿なこと言ってるのはそっちでしょう! いったい何が目的なんですか…っ」

一見まともに見える真崎というこの男は、本当は頭がおかしかったらしい。話の通じない相手と会話するのがこんなにも恐ろしいだなんて思わなかった。誰でもいいから誰かまともな大人と話したい。

「何かの冗談なら、お願いですから今すぐやめてください……もう限界です。家族に会いたい……」

涙ながらに懇願すると、真崎は立ち上がってどこかへ行ってしまう。恐る恐る顔をあげると、目の前に雑誌のようなものを置いた。

「今日の新聞だ。日付のところを見ろ。これは私の専用端末だが、ここにも日付がある」

彼の指差したところを見て絶句する。そこに書かれた8月という日付にも驚いたが、西暦は確かに真崎の言う通りだった。

「そんな……でも…」

「それだけじゃない」

真崎が端末と呼んだ薄いタブレットを手に取ると、突然目の前の白い壁紙に映像が映し出された。映写機もないのに、どうやってこの映像を出しているのだろう。

「何ですか、これ」

「テレビだ。見たことないのか? ほら、ここの日付も見ろ。どっちがおかしいことを言ってるのかわかるだろう」

彼が映像に出したのは番組表だったが、そこの右上に書かれた日付もすべて同じだった。

「でも、これもあれも偽物かも…」

「いい加減にしろ。私が嘘をついてるとして、どうしてそんな手間をかけてお前を騙さないといけないんだ。それにお前はキャビーを見ただろう。あれは300年前にはなかったはずだ」

「キャビー?」

「君を乗せてきた乗り物だ。確かあれが実用化されてから20年ぐらいしかたってない」

確かにあんなものは初めて見た。車のようなのに、タイヤもないし運転席もない。だからといって、まさか自分が違う時代にきたとは思えなかった。
黙りこんでしまった僕を見て、真崎が何かをそっと投げた。その小さな玉は空中で浮いて止まったかと思うと、眩しいくらいの光を放った。

「これのことは知っているか」

「……な、何ですかこれ」

必死に片手で目をかばいながら答える。眩しすぎて直視できないが、こんなものは見たことがない。

「携灯だ。携帯用外灯。通常外で使う。これもここ30年以内に発売されたはずだから、君は知らないはずだ」

真崎が浮いていた玉をつまむと、光は一瞬で消える。それをポケットにしまうと、腕を組んで威嚇するように僕を見た。

「私はここが君にとっての未来だといくらでも証明できるが、君はどうだ。嘘なら今すぐに白状した方が身のためだ」

「電話を貸してください」

「どこにかけるかわかったものじゃない。そんなことできるか」

「さっき書いた自分の家の番号にかけるんです! 心配なら、見ていたらいいじゃないですか」

僕が必死に食い下がると、真崎は素直に端末と呼ばれた薄いパネルを差し出す。番号が押せるようになっていて、これが文字通りの携帯電話なのだと知った。彼が見ている前で自宅の番号を押し発信すると……。

『おかけになった番号は、現在使われておりません──』

「そんな……!」

何度試しても、結果は同じ。聞こえてくるのは同じ機械的な言葉ばかりだった。

「当然だ。その桁数の番号は今使用されていない」

「……外に、外に出して下さい。家に帰ります」

「言っただろう。帰る家などないと」

何を言われても、何をされてももう自分の家がないなんて信じられない。大がかりなテレビのドッキリだと言われた方がまだ信じられる。

「どうしてあなたは僕をここに連れてきたんですか? お願いですからここから出して下さい。外に出て、あなたの言葉が本当かどうか確めます」

「外に出てどうする気だ」

「警察に行きます。何が狙いか知りませんが、こんなこと許せない」

「一番最初に君を見つけた彼が警察官だ。君を外に出すわけにはいかない」

「何故? これじゃ監禁じゃないですか」

いまだはずしてくれない手錠を引っ張り、真崎に抗議する。彼は腕を組みながらイラついた様子で、僕を見下ろしはっきりとこう言った。

「何故か、だって? 理由は簡単だ。警察にいけば、君は間違いなく殺される事になる」



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