神様とその子供たち
004
僕が隣にいようともロウの生活は変わらない。ロウへの面会を求める者の中で人間に差別や偏見の少ない人狼が先に呼ばれることになった。
その第一号となった男がセンリに連れられてやってきた。彼はセンリほどではないが髪が長く、大きなゴーグルをつけていた。スポーツ用ゴーグルのようなもので後頭部で固定されている。彼はロウの前で跪き頭を深く下げた。
「ロウ様、私のために時間を作ってくださりありがとうございます」
「クロウこそわざわざ来てくれてありがとうな。こーんなおまけ付きで悪い」
ロウは隣にいる僕を抱き寄せそんなことを言う。クロウと呼ばれた男はゴーグルをはずし優しそうな笑顔を見せる。外見年齢はイチ様と同じくらいだろうか。とても穏やかそうな人だ。
「カナタ、こいつは二貴のクロウだ。二群のリーダーだがとてもよくできた男で、人間にも優しいから安心してくれ」
「阿東彼方と申します。よろしくお願い致します」
クロウという名前に聞き覚えがあると思ったら、二群のトップの人狼だった。イチ様に続いて偉い人ということになる。
「クロウ・ニイだ。よろしく」
僕が深々お辞儀すると手を差し出してくれる。もしかしてこれは握手を求められているのだろうか。恐る恐る手を出すと優しくしっかり握り返してくれた。ニイというのは確かロウの次女で最初のニ群の代表だった女の人の名前だ。しかし彼女には子供がいなかったのではなかっただろうか。
「ロウ様、体調はいかがですか」
「カナタのおかげで夜寝れてるからな。絶好調だぜ」
「それは何よりです」
「クロウは俺が人間を側に置くのは反対しないのか? 他の奴らはもううるさくてうるさくて」
「そこの子に悪い企みでもあれば別ですが、そんな子供ならセンリがとっくに追い出してるでしょう。安全であるなら、ロウ様の健康維持がすべての私に反対などしようはずもありません」
なんてものわかりのいい人なんだ。クロウの聖母の笑みにこちらまでつられて笑顔になってしまう。
「ロウ様の元気な姿も見られたので、私はこの辺りで失礼させていただきます」
「えっ!? もう帰るの?」
「どうやら後がつかえているようなので」
「とはいえ最短時間だぞ。せっかく来たんだからもっとゆっくりしていけばいいのに」
「私としても名残惜しいのですが……ロウ様にもう帰ってほしいと思われる前に出ていきたいのです」
「そんなこと俺が思うわけないだろー!」
ロウがぎゅっとクロウを抱き締める。抱き締められた方は嬉しそうに抱き締め返すと、ロウの手を握った。
「愛しています、ロウ様。私の心はいつでもあなたに」
「俺もだクロウ。お前の幸せをいつも願っている」
「ありがとうございます」
ここでようやく、彼がロウととてもよく似ているのに気がついた。もしかして曾孫とかだったりするのだろうか。最速で部屋から出ていってしまったクロウを、ロウは名残惜しんでいた。
「行っちゃった……いっつも忙しそうなんだよな。俺のクロプー」
「クロプー??」
「可愛すぎてつけた俺がつけたあだ名だよ!!」
「もしかして彼はロウ様の孫とか曾孫だったりしますか」
「お前……なかなか鋭いな。名探偵か?」
「いえいえ、それ程では」
「クロウは俺の娘ニイの息子だ。とはいっても養子なんだが。そんなこと関係ないくらい可愛いからいいんだ〜〜」
「今気づいたんですけど、ロウ様ってつれない相手ほど可愛がってません?」
「!!??」
心外だと言わんばかりに僕を睨み付けてくる。野生の眼光が怖い。
「そんなことは……! ない…!」
「今の間は」
「うるさい。センリが次の客を連れてくるまで時間があるから、ちょっと休む」
そう言ってロウは僕をひょいと抱いてベッドに横になる。これまではロウに抱き締められるたびどうにか逃げられないかと隙をうかがっていた僕だが、今はロウの側にいると落ち着くので素直に従っていた。
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