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神様とその子供たち
002


イチ様の姿が消え、ロウが横にいてくれると僕も比較的落ち着くことができた。僕のこの症状とハチが関係あるらしいが、その件についてセンリが説明してくれた。

「ハチ様は他人に暗示をかけることができるんです。恐らく今、カナタさんはイチ様を恐怖の対象とする暗示をかけられると思われます」

「えぇ……?」

暗示をかけられていると言われてもピンとこない。しかし確かにイチ様を見ると怖くてたまらなくなる理由が他に思い当たらない。

「そんな、でも、そんなこと簡単にできるんですか? ハチ様と一緒にいた時のことあまり覚えてないんですけど」

「軽い催眠状態だったからだと思います。ちなみに暗示ならロウ様もかけられますが、短時間で本人の意思とは真逆の暗示をかけられるのはハチ様だけです」

彼の能力も驚いたがロウも同じことができるというのにも驚いた。隣で話を聞いていたハレも僕と同じような反応をしていた。

「俺もハチ様がそんな技持ってるなんて知らなかったですよ。有名なんですか?」

「若い方は知らないと思います。この人狼中心の政府を作る時はハチ様の力にはかなりお世話になりましたが、あまりにも強力すぎて周りがハチ様から逃げるようになってしまったんです。だからロウ様がハチ様の同意の元、数ヶ月かけて彼の力に制限を設ける暗示をかけました。だからハチ様はこの力を家族や仲間の命を守る時、もしくはロウ様の許可を得た時だけしか使えないようになっていたんです。ロウ様の暗示はちゃんとかかっていましたし、僕の記憶が正しければそれ以来ハチ様は力を使っていません」

「じゃあどうして僕には……」

「恐らく、カナタさんがロウ様の側にいる事がロウ様の命を守ることに繋がると判断したんでしょう。すみません、僕もまさかハチ様がそこまでするとは想定していませんでした」

センリに謝られて恐縮してしまう。しかし彼は誰かの心を操ったりするような男には見えなかったが。

「そんなことをなさる方とは思えなかったんですけど、ほんとにハチ様がされたことなんでしょうか」

「相手に警戒されてるとやりにくいからな。明らかに操ってきそうなオーラなんか出してるわけないだろ」

ロウにもっともなことを言われ思い直す。少しずつ記憶が戻り始めてきたが、確かハチはイチ様に会うためこの部屋に来て僕と鉢合わせになってしまったはずだ。しかし今の話が本当なら元々僕に暗示をかけるためにここに来たことになる。嘘をついて警戒心を解かせようとしていたのなら、かなりの策士だ。

「暗示はハチに任せたらすぐにとける。もう少しの辛抱だ」

ロウが僕の頭をよしよしと撫でてくれる。その姿を見てセンリが意外そうな顔をした。

「ロウ様、この機に乗じてカナタさんを連れていこうとは思わないんですか」

「そんなことしたらいっちゃんが可哀想だろ! 見ただろあの泣きそうな顔。俺もそこまで鬼じゃないから」

「そうですよね、失礼なことを申しました」

別に僕はイチ様のことを嫌いになったわけではない。この件が終わったらイチ様に謝らなければ、イチ様がいないとそう冷静に思えるのだが目の前にすると恐ろしく思えてしまうのが不思議だ。


それからしばらくの後、ハチを連れてくるよう頼まれたスイが戻ってた。しかし彼は一人だった。

「申し訳ありません。ハチ様、すでに一群を出立されていました。現在捜索させていますが、行方不明です」

「なんだって?」

「電話にも出られず、八群に問い合わせたところ、しばらく山籠りすると仰っていたそうで……」

「バカ言うな、山になんか入られたら見つけられねぇぞ。何がなんでも捕まえてここに連れてこい!」

「はい」

スイは一礼すると再び部屋から出ていく。センリとロウの顔色が明らかに変わった。

「山籠りってハチ様が定期的にやる修行ですよね。数ヶ月は連絡がとれなくなるっていう」

「熊とか猪とかと闘って自給自足の生活だから、携帯なんかも持ってねぇ。あいつが自分から出てこない限り、発見は無理だ」

「何でこんなタイミングで修行なんか始めるんですか? 絶対わざとですよね。帰ってきたらちゃんと叱ってもらえるんですよね??」

「わかったからそんな怒るな」

「ロウ様に怒ってるんじゃありません。ハチ様の企みに気づかなかった自分に怒ってるんです」

「アイツ髭がもじゃもじゃで表情わかりづらいだろ。テンションも口調も常に一定だしな。センリのせいじゃない。ハチはカエンに追跡させろ。それとアタリからこの辺でハチの籠りそうな場所を聞き出して、連絡とれ次第こっちにまわすように言っとけ」

「わかりました。ロウ様はどうされますか」

「俺が探しに行きてぇとこだけど、こいつ俺がいないと駄目みたいだし部屋に連れてくわ。いっちゃんにもう少し時間がかかるって謝っといてくれ」

「承知いたしました」

何がなんだかわからないうちに話が進み僕はロウの手で小脇に抱えられる。そしてそのまま部屋を高速で出ていってしまい、ゼロを拾うこともできず皆と引き離されてしまった。


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あきゅろす。
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