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神様とその子供たち
016


センリの言っていた通りその夜はイチ様が戻る気配はなく、僕はゼロと二人でイチ様のベッドで眠った。けれど僕が深い眠りについてから、誰かがベッドの中に入ってくる気配がした。イチ様が帰ってきたのだろう。彼はごく自然に、そうすることが当然かのように僕の身体を抱き締めていて、その腕の中はとても安心できたので眠気に勝てなかった僕は抱き締められたまま眠り続けていた。


朝、僕はゼロに顔をなめられて目が覚めた。自分の身体の上に重さを感じ、まだ抱き締められたままだということに気づく。イチ様がまた僕が泣いているのではないかと心配になって、仕事を切り上げ戻ってきてくれたのだろうか。眠るイチ様の顔を拝見しようと顔をあげると、そこにいたのはイチ様ではなかった。

「うわああ!?」

驚きのあまりその男、ロウを突き飛ばしてしまう。なぜ彼がここにいるのか。まさか昨日僕を抱き締めていたのはロウだったのか? 僕が突き飛ばしたことで覚醒した彼は、不機嫌に顔をしかめた。

「くそっ…何だよ起こしやがって」

「ロウ様どうしてここに?! 昨晩は女性と過ごされたんじゃ……」

「安眠したかったし、謝ってあっちに残してきた」

「……」

だったら女と遊ばなければいいじゃん、という言葉は飲み込む。ロウのことは怖くないらしいゼロは、彼に頭を撫でられてご満悦な表情をしていた。

「あんまり大きな声出すなよ、いっちゃんまだ寝てるんだから」

「えっ!? イチ様!?」

身を乗り出して確かめるとロウを挟んで向こう側にイチ様が寝ていた。この騒ぎにも気づかずロウの服の裾を掴んだまま眠っている。ロウがイチ様の頭をそろりそろりと撫でると、イチ様が少し反応した。

「ごめん、起こしちゃった」

「父さん……」 

イチ様が父親の身体に顔を埋める。これは…もしかして甘えているのだろうか?!

「ははは、いっちゃんは寝ぼけると俺にべったりになるんだぞ。かわいいだろ」

「かわいいです!」

ロウに得意気に自慢され、正直羨ましい。だがイチ様がここにいるということは夜に僕を抱き締めてくれたのはやっぱりイチ様だったのだろうか。どのみにロウに割り込まれて引き裂かれてしまったのだが。

「あー、お前はいいよな。ずっといっちゃんと一緒に眠れてよぉ。俺なんか毎朝白髪交じりのおっさんに起こされてんだからな」

そのおっさんとはもしかしてスイのことだろうか。しかしそれもロウのせいであと少しでできなくなりそうなのだが。

「なら、ロウ様もこのままここに一緒に住んだらいいんじゃないですか。全国を飛び回るのをやめて、ここにいたら解決するのに」

そもそもロウ様が色んな群れを訪問しなければならない理由がわからない。みんなが喜ぶというだけで、たいした意味はないのではないか。だがロウはすぐ首を横に振った。

「それは無理」

「どうしてですか」

「俺が人間に常に狙われてるから、ずっとここにいたらいっちゃん達に迷惑がかかるだろ。俺を殺すのに一番有効な方法が爆破だから、巻き添えを食う可能性がある」

「あ……」

まさかそういう理由で移動し続けてるとは思わなかった。ロウも本当はずっとここにいたいのだろうか。

「それに、俺のことを待ってる美女が全国にわんさかいるからな!」

「あー……」

やっぱりこの男、ただの女好きなんじゃないだろうか。既婚者にまで手を出すヤバい男だということを忘れていた。

「ロウ様ってあんまり女性が好きそうに見えないのに、意外ですよね」

「えっ、両手に抱えきれない程の美女を侍らせてる俺になんてことを。女好きとしか言われたことねぇんだけど?」

「だってロウ様って普段まったく女の人の話しないじゃないですか。自分の子供の事ばっかりで」

元の時代にいた時、僕の周りの男も高校生にもなれば異性に興味が持ち始めていた。彼女がいなくてもアイドルなら誰が好きだの、まったく興味のない僕が珍しいくらいだった。女にモテる男ほど女の話をしていた気がする。なのにロウからは一切話を聞かない。僕には話していないだけなのかもしれないが。

「あーーなるほど。そうか、確かに言われてみればそうだな。ちょっと気を付けないとな」

「? 何を?」

「俺もうちょっと寝るから、30分たったら起こせよ」

「ええ!?」

そう言って右手に僕、左手にイチ様を抱き抱え目を閉じるロウ。僕はそれ以上何も言えず、おとなしく30分待つことにした。


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