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神様とその子供たち
015


すっかりご機嫌になったゼロと一緒にナナではなくイチ様の部屋に行く。入るなり早々ゼロは勝手にイチ様のベッドに乗り上げ我が物顔で横になっていた。シーツが汚れてしまうと止めようとしたが、イチ様は気にしないでいいと言ってくれた。

「イチ様、お仕事は終わられたんですか」

「ああ。ハチが来ていると聞いたが」

「先ほどまで一緒にいました」

僕の言葉にイチ様にしてはわかりやすく動揺する。ハチのことで心配になって来てくれたんだろうか。

「大丈夫だったか?」

「はい。最初は僕のことは認めないって騒いでいらっしゃったんですが、ロウ様の鶴の一声でもう……」

「そうか」

イチ様がほっとしたように僕の手を握る。ベッドに二人きりで座っているというシチュエーションだけでドキドキだ。

「カナタ、私のせいで振り回してすまない」

「いえ、そんな」

優しく声をかけられただけで嬉しい。心の内ではしゃいでいると、イチ様の唇が僕のに触れた。あまりにも自然すぎて何が起こったのか一瞬わからなかった。

「私はカナタが好きだ」

「……!」

突然の告白とキスに息をするのも忘れる。僕もですと言いたくても恥ずかしくてなかなか言葉にできないでいる。その代わりにおそるおそる僕からイチ様によりかかると、そのままベッドの上に優しく押し倒された。

「それなのに私は……私が父に反抗できたら…。カナタを連れて、ここから逃げられたらいいのに」

「それはそれで困ったことになりそうですが……あの、この体勢はいったい?」

「すまない、眠い」

「え」

「一緒に寝てくれ……」

無駄に僕の心臓を高鳴らせておいてイチ様は目を閉じた途端夢の中へ。相当限界だったらしい。

「……結局、話せなかったな」

これから僕たちはどうするのか。交際を認めてもらって離れ離れで生活するか、それともロウと最後まで戦うのか。二人の意思を統一させなければと思っていたが、今のイチ様の言葉でほぼ決まってしまった。イチ様は父親には逆らえない。一緒にいたいという気持ちがお互いにあっても、それはきっと叶わないのだろう。
ならばせめて今だけは。イチ様と一緒にいられる喜びを噛み締めておこう。イチ様は眠ってしまったが、僕はその間ずっと起きていて彼の温もりに触れていた。



その後夕食の時間になりセンリに呼ばれるまでイチ様は目覚めなかった。センリが言うにはいつも三時間程しか眠れていないらしい。もちろん不眠症のロウとは違い多忙のためだ。それでもロウの家族で食事をしようという誘いは断れないらしく、部屋を出ていってしまった。
僕はいつも通りゼロと二人でハレが持ってきてくれた夕食を食べた。いつまでもイチ様の部屋にいるわけにもいかないので、ハレについてきてもらいロウが自分の部屋にしてしまっているゼロの部屋へと向かった。そこには誰もいなかったが、勝手知ったる場所なので僕はゼロとくつろいでいた。
部屋の掃除をしようかとも思ったがロウの部屋になっているためすでに掃除は完璧だった。いつの間にか誰かがしていてくれたらしい。あきらめてゼロのブラッシングをしていると扉が開く音と同時に賑やかな声が聞こえてきた。

「あれ、カナタ戻ってたのか」

陽気な声をかけてきたのはロウで彼の横にはぴったり引っ付いた二人の美女がいた。若い女性の人狼を見る機会があまりないので緊張のあまりその場で固まってしまった。

「ロウ様、もしかしてこの子が例の人間なんですの?」

「ああそうだよ」

「普通の子に見えるけど…。ロウ様と一緒に過ごせるなんて羨ましいですわぁ」

品の良さそうな美女二人を目の前にして、ベッドの上でお辞儀することしかできない僕。まさか彼はここにも女性を呼んだのだろうか。そんな僕の思考を読んでか、ロウの後ろから歩いてきたセンリが刺々しく言った。

「ナナ様が自分の群れの女性を呼び寄せたんですよ。まったく、ロウ様は休暇だって言ってるのに」

「俺が呼んでくれって言ったんだ。この件でナナを責めるな」

「でも部屋が足りないんですよ。お嬢様方をナナ様と同室にするわけにはいきませんし……」

「この部屋、部屋が二つに別れててどっちにもベッドがあるんだから好都合じゃねえか」

「おチビさんの部屋ですよ!? それに。今はカナタさんの部屋でもあります」

「カナタとチビ助ならここにいてもいいけど」

「駄目に決まってるでしょう!」

怒るセンリに同意するようにとりあえず頷く僕。それはつまりロウが女性と夜中いちゃいちゃする部屋に一緒にいろということだろう。そんなところでは絶対に眠れない。

「仕方ない。カナタさんはイチ様の部屋で寝てもらうことにします」

「えっ」

またイチ様に会えるかもしれないと思うと、やったーと思わず口にしてしまいそうになる。しかしロウがすぐに異論を唱えた。

「えー! カナタばっかりいっちゃんと一緒にいてずるくない?」

「ずるくないです。元はといえばロウ様のせいでしょう。それにイチ様は先程仮眠をとられていたので、今夜は自室に戻らず徹夜で働かれるかもしれません」

一緒にいられるわけじゃないのかと少しがっかりする。センリとロウは少しもめていたが、今夜は女性と過ごす以上僕と眠るのは諦めてもらうしかない。結局ロウも嫌々ながらも納得してくれて僕はセンリとイチ様の部屋へ再び戻ることになった。


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あきゅろす。
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