神様とその子供たち
014
「では、俺はそろそろ失礼いたします。長居してしまってすみません」
「いやいや、引き止めたのは俺だから。ありがとな〜楽になったわ」
マッサージ師の男が帰り支度を始めるとロウが礼を言う。センリが彼の前で深々と頭を下げた。
「申し訳ありません、こんな風に大勢で押し掛けてしまって」
「センリが気にする必要は……」
「でも、せっかくのロウ様との時間を邪魔してしまって……ああ、そうだ。カナタさんを紹介しますね」
センリに肩を抱かれ男の前に連れてこられる。そこでようやく彼の顔を見た。見覚えがある気がした。
「トツカ様、こちらが先程話していたカナタさんです。カナタさん、この方は十貴のトツカ・トウ様。トガミ様の双子の兄です」
「あっ」
てっきりマッサージ師かと思ったら偉い方だった。見覚えがあるのはトガミと瓜二つだからだ。
「はじめまして阿東彼方です。よろしくお願いします」
「カナタさん、緊張しなくても大丈夫ですよ。トツカ様はお優しいですから」
「よろしく頼む」
センリの言う通り僕に挨拶をしてくれた彼は優しい声をしていた。トガミと顔はそっくりだが声質がまったく違う。
「センリ、いつも弟が迷惑をかけて申し訳ない。お詫びによければいつでも施術しよう」
「本当ですか? ありがとうございます。ですが生憎時間が……。また別の機会にお願いできますでしょうか」
「わかった、いつでも言ってくれ」
トツカは全員に向かって丁寧に頭を下げ、部屋を出る。しばらくの後、ナナがセンリに詰め寄った。
「お前〜〜トツカのマッサージなんか普通は3ヶ月待ちなのに勿体ないことすんなぁ」
「他人に身体触られるの嫌いなんです」
「そういうところが駄目なんだぞ! トツカの気持ちにお前が気づいてないはずがないのに、よくもまああんなにスルーできるもんだ」
「むしろ僕の能力がないとわからないくらい些細なアピールしかしてこられないのに、何でナナ様が気づいてるんですか」
「あいつが自分からマッサージを申し出るのはセンリと親父だけだから! もうさっきのは告白みたいなもんなんだよ〜」
「そんなことよりロウ様、次は六貴のレキ様の番です。こちらに通してもよろしいでしょうか」
話題をさらりと変えたセンリがロウに訊ねる。マッサージしてもらったおかげかロウの表情が心なしかはつらつとしていた。
「いいよ、連れてきてやってくれ。ハチ、お前はしばらく部屋で大人しくしてなさい。夕食は家族みんなで一緒に食べようね」
「やったー!」
ロウを止めてくれるのではないかと期待していたハチはすっかり丸め込まれ、最初の勢いなど忘れて自分の部屋へとあっさり帰ってしまった。センリはやるべき事が多すぎて結局僕の側に四六時中ついていることは出来なかったので、ハレがその代わりを務めることとなった。ナナはというと七群からの客人が到着したという知らせを受け出迎えに行ってしまった。
「さて、俺達はナナ様の部屋にいったん戻ろう」
「うん」
ゼロを抱っこしながらハレと歩いていると、うとうとしていたはずのゼロが突然耳をたててそわそわし始めた。何事かと不思議に思っていると、突然背後から腕をつかまれた。
「カナタ」
「イチ様!」
まさかの相手に僕は大きな声で彼の名前を呼んでしまう。昨日も会っているのに姿を見ることができただけで嬉しくなった。
「カナタ、今いいか。少し話がしたい」
「良かった! 僕もお話したかったんです」
そう言ってイチ様に近づくとそのまま抱き締められる。ゼロもイチ様に会えて嬉しそうだった。二人きりになれるチャンスはなかなかないので気分が盛り上がってしまう。
「あ、あああ、あの……」
ハレの声が聞こえて我に返りイチ様からすぐさま離れる。全然二人きりじゃないのを忘れていた。
「ハレ、これは……」
「すみませんイチ様、俺はすぐここから消えますので!」
「ハレ?」
「ごゆっくり!」
こちらが言い訳する前に走り去ってしまうハレ。すぐに口止めしないとここの人狼に僕とイチ様の関係を知られてしまうのも時間の問題だ。
「すまない、カナタ」
「いえ、いいんです。さっきハレにはロウ様の口から、僕とイチ様の事は知られていたので。一応口止めに行きますか?」
隠さなければならない悪いことをしているつもりはないが、人間と付き合っているなんていくらここの優しい人狼達でも許せないのではないだろうか。ハレはあまり気にしていない素振りだったが、全員がそうとはいかないだろう。けれどイチ様は僕の手からゼロを抱き上げると首を振った。
「いい。何があってもカナタのことは私が守る。だから不安に思わないでくれ」
「……!」
イチ様が僕の気持ちを察して言葉をかけてくれる。彼の優しさが嬉しくて僕は思わずイチ様を抱き締めてしまった。
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