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神様とその子供たち
013


僕らはセンリと違いそれほど急がず歩いて向かった。途中ナナが弟のハチの話を僕らにしてくれた。

「ハチはな、昔はかわいいところもあったんだけどな。何か知らんうちに俺よりゴツくなっちまって……男にはもちろん女にも強くなれって強要するもんだからモテないモテない。ありゃ余程の物好きでもいねぇと結婚できねぇな。そうだハレ、お前どうだ」

「将来的にはお嫁さんをもらう予定なので……」

「女にモテたいなら強くならねぇと。ハチと一緒にいたら嫌でも鍛えられるぞ〜」

絶対に逆らえない上司からのとんでもない見合いの申し出に震えるハレ。僕は彼に申し訳なく思いながらも傍観していた。

「悪いやつじゃないんだよ。ただちょっと押し付けがましくて、人間嫌いなだけで。まーだ一人だけ戦争気分だからな。いつどこから攻撃されるかわからないから年がら年中鍛えてんだぜ。八貴としての事務仕事は副官にほぼ丸投げで困ったもんだよ……あ、それは俺もか。七群は俺がいなくても平気だし」

「ナナ様にも、副官のスナ様から戻るよう要請がきてるとセンリ様からききましたが…」

「違うって! それはスナが親父に会いに来たいから自分と代われってことなんだよ。…おっと、ハチの声廊下まで響いてんな」

ゼロの部屋の前まで到着すると、中から大声が聞こえた。ナナがそっと扉を開けると、ベッドでマッサージを受けてリラックスするロウの前に跪くハチの姿が見えた。

「父様、正気とは思えません! なぜ人間なんかをお側においておくんですか? 奴らは全員下等で下劣で救いようのない愚図ばかりなんですよ!?」

「あ〜〜理由はぁ、ナナから聞いてないのか〜〜? あ〜〜そこ効くわぁ」

マッサージ中のロウはハチの話を聞いているのか聞いてないのか。ハチだけが必死に叫んでいた。

「聞いておりますが! だからといって父様が人間に心を許しては周りに示しがつきません。人間は悪! 管理すべき劣等種族! それを徹底せねばこの国は滅びます。それはロウ様が一番わかっていらっしゃるでしょう?」

「ん〜〜あ〜〜生き返る〜〜……」

「父様!」

ロウはマッサージ師に施術をやめるように言い上半身を起こして胡座をかく。ハチは正座をして父を見上げた。

「……確かに、お前の言うことはもっともだ。人間なんか近寄るもんじゃねぇよ」

「でしたら…!」

「ただ、俺がいま一番求めてるのは安眠と健康だ。カナタは俺にそれを与えてくれる」

「だからって人間を許すんですか?!」

「許すわけねぇだろ。あいつらは全員、一生自由にはしない。一生この国で腐らせてやる」

ロウの許さないという言葉に、昔人間と何かあったのだろうと察する。あれだけ人間を嫌っているのだから予想はしていたが、その恨みは僕には考えが及ばないほど根深いのかもしれない。

「だかカナタをここで諦めて、俺はこれからどうなる。いつまで浅い睡眠で誤魔化せると思う。薬も殆ど効果がない。それとも、カナタの代わりにお前ができることがあるのか?」

「それは……」

「何もできやしないのに感情のまま反対だけして、お前はいつからそんな無能な男になったんだ。俺は少しハチを買い被りすぎていたのかなぁ。お前にはがっかりだよ」

「うあああ! 父様、も、申し訳ありません…!」

大男が泣きじゃくる姿を見るのは居たたまれないものがある。僕の隣にいたハレは顔が真っ青で、ナナの方は何故か笑いを圧し殺しているようだった。

「お、俺が浅はかでした。父様より自分の感情を優先してわめき散らすなど、なんて、なんて愚かな…!」

ロウがベッドから立ち上がり、土下座するハチの頭を上げさせる。ここからはハチの顔は見えないが泣いているようだった。ロウは息子の顔を両手で挟むとにっこり笑った。

「嘘だよ!」

「え」

「俺がお前にガッカリなんかするわけないだろ〜。はっちゃんがあんまりわからず屋だから意地悪なこと言っちゃっただけ。ごめんな〜、怒ったりして」

「と、父様ぁ」

「よしよーし」

ハチの額にキスをして抱き締めるロウ。マッサージ師とスイとセンリが黙ってその姿を見ていた。

「ちょうどここに来てるから紹介してやるよ。おいお前たち、入ってこーい」

盗み見は完全にバレていた。入りたくなかったが仕方なくナナの背後に隠れながら控えめに入室した僕を、ロウは引きずり出して抱えた。

「これがカナタだ、無害そうな間抜け面してるだろ。うっかり殺さないよう顔覚えとけよ?」

先程まで泣きべそをかいていたハチはぼかんとした顔で僕を見ていた。そんな紹介の仕方をしたことで逆に殺されやしないだろうか。

「今ね、こいつをいっちゃんと取り合ってんだよ。いっちゃん、カナタのこと好きになってパパにあげたくないんだって。困った奴だよなほんと〜」

「に、兄様がこの人間を…!? 嘘だろ!?」

スイの方を見て叫ぶハチ。スイは声に出さずに憂鬱そうな顔で「ほんと」と口にした。それを聞いたハレも驚愕の表情をしていた。すべてバレてしまった、と僕はゼロを撫でながら天井を仰いで現実逃避していた。


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あきゅろす。
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