神様とその子供たち
012
「ハチ!」
ナナの言葉に相手の正体を知る。ハチといえばイチ様の弟でロウの息子で人間嫌いの男だったはずだ。しかし美形揃いの人狼一族の中、ハチは驚くほど強面だった。人狼というより狼男だ。逆立つ銀髪も立派な髭と繋がってライオンのように立派なたてがみになっており、バキバキに割れた腹筋に嫌でも目がいってしまう。……上半身はなぜ裸?
「ナナ! 我が家の恥さらしめぇ!」
吠えるようにナナに近づき唸り声をあげて威嚇してくる。ナナは慣れているのか顔色ひとつ変えていなかったが、僕とハレは今にも気絶しそうだった。僕はすぐさまゼロを抱えて保護した。
「あらー、お前来るの遅かったなぁ。せっかく俺がおしえてやったのに、今からじゃ親父に会うの順番待ちだぜ」
「そうなのか?!」
「だから俺の部屋に連れてこられちゃってんだろ。センリ、もしかしてこいつの部屋ないの?」
ナナの質問に「まさか」とセンリがすぐさま否定した。
「もちろん特別室を用意させていただきました。なのに外に出て他の方ともめていたんです。ですからここでナナ様に見張っ……一緒に待っていただこうかと思いまして。今、ロウ様は十貴のトツカ様と会われていますので、ハチ様、ここでしばらくお待ちを」
「何で俺がトツカの後なんだよ!」
「それはもっともですが、十群からわざわざ来ていただいたいて、ハチ様のためにすぐ面会を終わらせるというのも酷な話ですので」
「それもそうだな」
素直に納得してセンリに詰め寄るのをやめるハチ。そこでようやくゼロを庇いながらうずくまる僕と、その僕を庇うハレの存在に気がついたようだった。
「何で女がここにいるんだ?」
「ハチ様、女ではありません。ここの使用人のハレとカナタです。二人とも男ですよ」
「男!? そんな軟弱ななりして男を名乗るんじゃねぇえ!!」
突如ハチがこちらに突進してきて、僕を庇うようにして立っていたハレがラリアットをくらう。彼が思いっきり吹っ飛ばされた事とナナの予言がさっそく当たってしまった事に僕は驚いていた。
「なんてことするんですか! この子はまだ成人したばかりなのに!!」
「えっ、そりゃ悪いことしたな」
恐ろしい男だが素直だ。ハチは申し訳なさそうな顔をしてハレに手を差し出した。
「おい、大丈夫か。お前もっと鍛えないと駄目だぞ」
「は、はい」
あんなに派手に飛ばされたのにすぐに起き上がるハレに、さすが人狼だと感心する。僕ならきっと死んでいた。
「センリはこんな細身でも、俺の最初の一撃はすぐにかわすからな。ちゃんと見習えよ」
「毎回会うたび攻撃されたら嫌でも避けられるようになりますよ」
センリが疲労を滲ませた声で呟く。僕はなるべく壁のシミになっていたはずなのにハチが次に見つけた標的は僕だった。
「こっちの男はまだ子供か? まるで女じゃねえか。しかも耳もないなんて…これじゃあもう殆ど人間だぞ!」
「カナタさんは人間です」
「え!?」
それ今バラす必要ある? とセンリを問い詰めたくなる。案の定、ハチは怒りに震え吠えるようにして叫んだ。
「何で人間がここにいる!!」
「おい落ち着けって、事情は説明しただろ。覚えてないのか?」
ナナがすぐに間に入ってくれて、ハレは僕を庇ってハチにラリアットされないように守ってくれた。そのおかげで女の子みたいな悲鳴をあげて逃げ出すという醜態を晒さずに済んだ。
「あんな話信じられるか。あの父様が人間なんかと馴れ合ったりするわけないだろ!」
「俺嘘はつかないぞ。そんなに信じられないなら親父に直接きいてこいよ」
「そうする!」
「ハチ様!?」
止める間もなく部屋を飛び出し、あっという間に姿を消してしまう。それに慌てたのはセンリだ。
「もー! まだ行くなって言ってんのに! 追いかけて連れ戻してきます」
センリまでもいなくなってしまい、取り残される僕達。怖い人がいなくなって良かったな、と口にはしないまでもほっとしているとナナが笑顔で意気揚々と立ち上がった。
「俺達も行こうぜ!」
「え!?」
二度と会いたくないなと思っていた矢先にナナにそんな提案をされ動揺する。尻込みする僕達を見て明るく鼓舞してくれた。
「おいおいカナタ、ハチが親父をうまく説得してくれるかもしれないんだぜ。気にならねぇのか?」
「それはなります」
「だろ? ほら、さっさと行くぞ〜」
何故か嬉しそうなナナに促され再びロウのいるゼロの部屋へと向かうことに。ご飯を食べ終わってご満悦のゼロを抱え、通常業務に戻りたがっていたハレに頼み込んで半ば強制的についてきてもらった。
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