神様とその子供たち
011
「ナナ様は人間にどうしてそんなに優しいんですか」
「人間にっていうか、カナタに特別優しいんだぜ」
「一群以外の人狼は、みんな人間に冷たいものなんだと思ってました」
「スルー?」
僕だけに優しいなんてのは嘘だっていうのはわかる。彼はきっと人間に優しいから僕にも優しくしてくれているんだろう。
「人狼は人間のこと進化できなかった劣等種族って思ってるけど、人間と俺らにたいした違いなんてないからな。他の奴に聞かれたら頭おかしくなったと思われるから言わねぇけど」
「そこまでわかってくださってるのに、どうしてナナ様は人間への差別をやめてイチ様の味方になってくださらないんですか」
以前真崎に、ナナは人間と人狼との身分格差が広がることを望む推進派だと言う話を聞いていた。緩和派のイチ様とは対極の考え方だ。
「それはもちろん、親父がそれを望んでるからだ。俺は自分の意見より親父の意志が大事なんだよ」
「そういうものなんですか」
「親父に歯向かえるのは兄貴だけだって〜。まあそれも、親父が自由にさせてやってるからだけど。てか、そんなことより!」
せっかくいい距離をとれていたのにナナがまた間合いを詰める。前回ピンチだった時助けてくれたゼロは今はすやすやと眠っている。本気で嫌がればやめてくれると思うのだが、そんな大事にして騒ぎたくはない。
「あ、あの! まだナナ様にお聞きしたいことが…」
「もうその手にはのらねぇぞ」
「わわ、やめてくださ……」
「お待たせいたしましたー」
戻ってきたハレが扉を開けて入ってくる。やっと帰ってきてくれた!と僕は大喜びで助けを求めた。
「ハレ! 遅いよ!」
「ちっ」
ハレが戻ってきて渋々僕から離れてくれるナナ。配膳のためのワゴンを動かすことに集中していたハレは僕のピンチにはまったく気づかないままだった。
「くそ、ちょっとは気をきかせろよな」
「申し訳ありませんナナ様、これでも急いだのですが」
「そんな話してねぇ!」
「……?」
「ありがとうハレ、美味しそうだなぁ」
サンドイッチとコーヒーのセットを机に運び「いただきます!」と食べ始める僕。食べ物の匂いにつられたのかゼロも目を開け飛ぶように僕の足元までやってくる。ハレがゼロのご飯をいつもの場所に置いてくれた。
「ハレとカナタって仲良いの? ため口だけどさ」
「はい。友達です」
笑顔で即答するハレに感動する。友達と呼べる相手は彼ぐらいしかいない。元の時代にも、付き合うクラスメートはいても心の支えになるような友はいなかった。だからハレが僕にとっては初めての友達なのだろうか。ナナはその返事を聞いてつまらなさそうにソファーに転がった。
「ふーーん、仲が良くて結構なことで。あ、そうだハレ。ついでにちょっとお前の未来を見てやろうか」
「えっ、いいんですか? やったー!」
いそいそと手を出しナナに握ってもらうハレ。どうやら得意の予知をしてあげるらしい。
「んんー、んーーー」
「ど、どうでしょうか」
「何も見えない……ということはつまり、しばらくはお前には何も起こらないってことだ」
「そんな、ナナ様に見ていただけるチャンスなんて滅多にないのに! 些細な事でもいいので何かわかりませんか?」
「うーーん」
ナナが困った様子でハレの手を握ったりこすったり頑張っている。僕がサンドイッチを完食する頃に、ようやくナナが閃いたように叫んだ。
「近々、ラリアットされる未来が見える!」
「えっ、いつ!? 誰に!?」
「いや正確にいつとかはわかんない〜。んーと相手はぁ〜…」
ハレの手を握りナナがさらに顔をしかめていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「失礼いたします」
声の主はセンリだ。僕の守護神が帰ってきた! と目を輝かせていると、センリの後ろに男が立っているのが見えた。男は左目に大きな傷、鋭い眼光、本物の獣のような出で立ちでこちらを見下ろしていた。
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