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神様とその子供たち
009


ゼロと一緒にセンリと歩いていると、前方からナナが歩いてきた。僕たちを見つけると笑顔で手を振ってくれる。

「おっはよー、2人とも」

「おはようございます。どこからでも現れますねナナ様は」

「ただの偶然なのにそんな面倒臭そうな顔するなよセンリ。お前らもう飯食った?」

「カナタさんはまだです」

「じゃあ俺の部屋で食おうぜ」

「どうしてナナ様の部屋で?」

「俺の部屋が一番気楽だろ。他の人狼は軽々しく入ってこれねえし」

「……確かに、それはそうですね」

「じゃあ決まりな。いいだろカナタ」

ナナに笑顔で訊ねられて自然と頷いていた。最初こそ彼を警戒していた僕だが、今では一緒にいると少し安心するくらいだ。

「使用人と一緒の部屋でいいと仰っていましたが、まさか人間は連れ込んでいませんよね」

「当たり前だろ。いつも通り俺一人で来てるし、今はまだ誰もいねーよ。呼び寄せた所だから今日か明日中にはうちの人狼が来ると思うけど。その時は俺が出迎えるから、お気遣いなく」

「かしこまりました」

三人でナナの部屋に向かっていると、背後から物凄いスピードで誰かが走ってきた。誰かと思ったらやけに危機迫った形相のハレだった。

「センリ様、大変です!」

「ハレ? どうしました」

「別館迎賓棟でお客様同士の小競り合いが……俺達では止められません。窓が割れて怪我人も出ています」

「なんですって?!」

センリがハレの報告に憤る。尻尾がピンと上に向かって立っているのは怒っている証拠だ。

「イチ様のお屋敷でなんという事を…! とっちめてきます。何階ですか」

「俺が見たときは三階廊下に」

「ハレ、あなたは僕の代わりにカナタさんと一緒にいてください。いいですね」

「えっ、それは一体……」

「頼みましたよ」

それだけ言って矢のように廊下を駆け抜けあっという間に消えてしまうセンリ。ハレは唖然としていたがナナの存在に気付き頭を下げた。

「ナナ様! すみませんご挨拶もせず」

「いーっていーって。あっ、じゃあハレも俺の部屋行こっか。お菓子もあるから〜」

「いやでもまだ仕事が……」

「センリにカナタを頼むって言われたんだろ。じゃあコイツにくっついてるのが仕事じゃん」

「そうなんですか?」

ナナに丸め込まれてハレも一緒に来てくれる事になった。仕事の邪魔をしてしまって悪いが僕は久しぶりにハレと話せるので嬉しかった。

「カナタ、お前のことでイチ様とロウ様、まだもめてるのか」

「!? そ、それは一体どういう意味で?」

「人間のお前がここで働くことまだ納得してもらえてねぇんだろ」

まだ僕とイチ様が付き合おうとしていることは知られてないのだろうか。何と返すべきか迷っていると、ナナが立ち止まった。

「ついたぜー、二人とも気楽にくつろいでくれ」

ナナは気さくにそういってくれたが僕とハレは遠慮がちにお邪魔させてもらった。ゼロの部屋と比べても遜色ない広さで、客室としてはかなりランクの高い部屋だろう。ゼロは僕の腕の中でうとうとしていたので、大きなソファーの上に寝かせてもらった。

「さて、カナタはまだ何も食べてねぇんだろ。ハレは?」

「俺はそろそろ昼食の時間ですけれど」

「ここで食ってけよ。持ってこさせるから」

「でしたら、俺が運んできます。ナナ様は何を召し上がられますか」

「俺はもう食ったからいらねぇよ」

「かしこまりました」

「ハレ、僕も行くよ」

ナナはいい人だがなるべく二人きりにはならない方がいい。そう思ってハレについていこうと思っていたがナナは首を振った。

「カナタはここにいろよ。人間嫌いの人狼がその辺うろうろしてるからな」

その通りだとハレは納得して一人でさっさと出ていってしまう。焦る僕にナナは笑っていた。

「ハレのやつ、なんでセンリがカナタについとけって言ったのかわかってねぇな」

「……あの、僕ちょっとトイレに」

「トイレはこの部屋にあるぜ」

手を掴まれて思わず悲鳴をあげそうになったが思いとどまる。ナナは怖い人ではないが、危険な男ではある。

「連れてってやるよ」

「いいですいいです。やっぱり行きたくないです」

ハレに早く帰ってきてくれと出ていったばかりなのに願ってしまう。ロウそっくりの笑顔で抱き締められたかと思ったら止める間もなく唇を塞がれてしまった。


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