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神様とその子供たち
008


トガミはロウに会えた瞬間から尻尾を震わせておおはしゃぎだった。ロウの方もトガミの何度も頭を撫でてにこにこしている。

「なんだロウ様、元気じゃないですかぁ。会えて嬉しいな」

「トガミはまだセンリを追いかけてるのか?」

「だって、全然俺と結婚してくれなくて」

「アイツは頑固だからな。まあ訴えられない程度にがんばれ」

少し話をした後、ロウは僕を連れていきたいと思っていることとその理由をトガミに伝えた。その事をめぐって今イチ様と話し合っているとも言うと、トガミは驚いた顔をしていた。

「いや、イチ様が恋人作ったのもびっくりですけど、そいつのためにロウ様に反抗してんのも信じられないなぁ」

「もう、遅れてきた反抗期でまいっちゃうよ」

「何か嬉しそうですけど」

「そんなことない。カナタを連れていけないのは困るから、トガミの方からイチに頼んでみてくれよ」

「イチ様、俺の言葉なんか聞き入れてくれっかなぁ。でもロウ様の不眠症が治るなら、俺何でもしますよ」

「ありがとうトガミ、お前は本当に優しいな。ほらおいで、撫でてやるから」

「えへへ」

再びロウに撫でられてご満悦のトガミ。この後二人は少し話をして、その間に僕はスイが用意してくれた美味しい料理を食べた。トガミはまた何かあればすぐ来ると言って、笑顔で部屋を出ていった。

僕と二人きりになったロウはさっそく僕を手招きしてベッドに入れようとした。さっきまで眠っていたゼロは今は目が覚めたのか部屋の中を走り回っている。僕の方も眠気はまだなかったので、少しロウと話をすることにした。

「あの、トガミ様はロウ様のお孫さんなんですよね」

「ああ。俺には孫もひ孫もその下もたくさんいるぜ。ロクのところにも行ったことがあんだろ? あそこに何人かいたはずだ」

「ロク様とはお話しさせていただいたことがあります。優しい方でした」

「そうだろ、そうだろ。男兄弟の中で一番温厚な奴だったからな。あいつはもっと長生きすると思ってたが、うまくいかねぇもんだ。寿命をまっとうしたとはいえ、子供が先に死んじまうのはなぁ……」

ロウ様は悲しそうに呟くと目頭をおさえた。泣くのを我慢しているように見える。僕に子供はいないが親兄弟はいる。子供を、家族を亡くすつらさはよくわかっていた。

「ロク様はイチ様に似てましたけど、性格も一緒だったんですか」

「いや。似てないってわけでもねぇけど、そこまで共通点はなかったな。昔は二人で喧嘩したりもしてたぜ」

「えっ、イチ様が?」

「ああ、年が離れてるのによくやるよ、と思ってた。イチは俺の前では兄として振る舞ってたけど、二人になったら大人げない喧嘩もしてたらしい。ロクが俺にすぐチクるから、何でも筒抜けだったんだけどな」

大人げないイチ様を想像して少し笑ってしまう。ロウも昔を思い出している時は優しい目をしていた。彼は他の兄弟のことも話してくれた。

「ナナとハチもよく二人で喧嘩してたな。反対にキュウとトウはみんなから可愛がられてて、末っ子の特権を使って上に甘えてたよ」

「さっき初めてお会いしましたけど、キュウ様は可愛い方でしたね。僕にも気さくに話しかけていただいて、嬉しかったです」

「そうだろ! キュウちゃんはこっちが心配になるくらいずっと可愛いんだよ。どっかの誰かに誘拐されたらと思うと、もっと護衛を増やすべきじゃねえかってずっと言ってるんだけど…」

その後もロウはキュウがいかに可愛いかという話と、ロク様とイチ様の昔話、亡くなってしまった娘達との思い出など子供の話をたくさんしてくれた。イチ様だけを特別溺愛してるのかと思ったら、他の子供に対しても多少の差はあっても同じくらい可愛く思っているらしい。

その日の夜は、結局ロウに抱き締められて寝る事になった。ロウはまだ僕が起きている時から不眠症とは思えないくらい爆睡していた。僕はゼロとロウと一緒に、次の日の昼近くまで眠ることになった。


僕とロウは、スイの呼び掛けによって目が覚めた。ロウは不機嫌だったが、ロウを心配した人狼達が集まっている事を知り、すぐに身仕度を始めた。僕の方も日課のゼロの散歩をしようかと思ったが、この屋敷に人狼がいるならやめた方がいいだろうかと迷っていると、部屋をノックする音が聞こえ扉を開けるとそこにセンリがいた。

「おはようございます、ロウ様、カナタさん」

「おはようございます。あの、ゼロの事なんですけど人狼の方々は庭の方にも行かれますか? もしそうなら、散歩は人気のないところでしようと思うんですが」

「その件で僕も話が。今日から群れの代表が次々集まってきます。その中には人間嫌いの人狼もたくさんいますので、安全のためにカナタさんには僕と一緒にいてもらいます。よろしいですね」

「あ…それはもちろん。お手数お掛けします」

「これはイチ様の命令ですので、拒否はできないんですけどね。では、ゼロを連れて来てください」

「どこへ行くんですか」

「ロウ様がここを自室にしてしまったので、他の部屋に移動してもらいます。いいですよね、ロウ様」

「夜にちゃんと帰ってくるならなー」

寝巻きからスーツに着替えたロウが返事をする。時間が余程ないのかスイが着替えを手伝っていた。

「ハチ様もおそらく今日中に来られるかと」

ハチ、という名前にロウの耳が反応する。ロウの息子の1人だ。

「そうか、あいつが来るならカナタはとりあえず隠しといた方がいいな。センリ、頼むぞ」

「はい」

センリはロウに直々に任されて尻尾が激しく揺れていた。僕はここを出ればもしかすると少しだけでもイチ様に会えるかもしれないと淡い期待をしながらセンリの後をついていった。


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あきゅろす。
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