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神様とその子供たち
007


キュウは連絡をもらってすぐ仕事を全部放り出し駆けつけたため明日までに帰らなければならないらしく、ロウとの別れを惜しんでいた。途中やっぱりまだ帰りたくないとぐずるので、護衛の二人が一生懸命ロウから引き剥がしていた。


「ナナ様はお帰りにならなくてもよろしいんですか」

「え!? センリって俺にそんなに帰って欲しいの?」

部屋を出てキュウの見送りのため出口に向かっている途中、センリの辛辣な言葉にナナが驚いた。

「いえ、そうではなく。ここに滞在したいと連絡してきた人狼の方があまりにも多いので、このままでは人手と部屋が足りなくなりそうなんです。誰かさんがロウ様の居所をしゃべってくださったおかげで、皆様情報が本当にお早いですから」

「なんだよ、俺はキュウとハチにしか言ってねぇし。家族なんだから泊まるのくらい良いだろ。俺の部屋は連れてきた使用人と同じで良いからさ」

「わかりました。ではそのように」

メモをとりながら歩いていたセンリの足が突然止まる。何事かと思って前を見ると、一人の人狼が歩いてこちらに向かっていた。あの制服には見覚えがある。

「おやっ、これは皆様お揃いで」

美形の青年は笑顔で敬礼して立ち止まる。見たことのある顔だと思ったら、以前アガタの事件で僕に話を訊きに来た警察の人狼だ。

「おお、久しぶりじゃなトガミ。お前も父上の見舞いか」

「おじさんこそ、九群から出てきたとこ久しぶりに見たなぁ。どれ、俺がだっこしてやろう」

「よせ! 儂を年寄り扱いするな」

オジサンと呼ばれたキュウはトガミに抱き上げられて不満そうに足をバタつかせる。妙に仲が良い二人を何故だろうと見ているとセンリがまたいつものように説明してくれた。

「トガミ様の母親のトウ様は、キュウ様の双子の妹なんです。子育てのお手伝いもされていたようなので、家族も同然なんでしょう」

僕が疑問に思った事を察して、たずねなくてもおしえてくれるのはありがたい。キュウを下ろしたトガミは満面の笑みでセンリに近づいてきた。

「センリ、どうして電話に出てくれないんだ?」

「申し訳ありません。先日端末が故障してしまいまして」

「だったら俺が買ってやるぞ」

「結構です」

確か彼はセンリが好きでずっと求婚しているんだった。人目もはばからずセンリの手を取ると壁際に追い詰めた。

「センリ、いい加減俺を受け入れてくれねぇかなぁ。本気でお前と結婚したいとずっと言ってんのに」

「それはとっくにお断りしたはずですが」

「俺が本気を出して手に入らなかったものはない!」

「そうでしょうか」

「でも無理強いはしたくないから、センリには絶対俺を好きになって、必ず俺を選んでもらうぞ」

積極的なトガミに笑顔を崩さず対応するセンリ。すると後ろからキュウがトガミを杖で軽く叩いた。

「これ、センリが困っとるじゃろうが。その辺にせんか」

「おいおい、叔父さんは俺を応援してくれないわけ?」

「トガミと結婚したってセンリが九群に来てくれるわけでなし、儂にメリットがないわい」

「じゃあトツカのことも応援しないでくれよな。アイツまだ結婚してないんだろ確か」

「お前よりはトツカの方がマシじゃと思うがな。それよりセンリ、九群にもいい男がおるぞ。前回九群の円闘大会で準優勝した奴なんじゃが、センリのファンらしくてなぁ。一度会うだけ会ってみんか」

「すみません。良いお話ですが、僕は誰とも結婚する気はありませんので」

「いや今はそんなこと言ってるけど、センリは結婚するぞ」

突然のナナの言葉に皆がぎょっとする。見るとナナはセンリの手を握っていた。

「ナナ様!? それはこの先100年後とかそういうレベルの話ですか!?」

「はあー? そんな先の未来なんかわかるかよ」

ぎょっとした後動揺のあまり震えながらナナに詰め寄るセンリ。僕もセンリは結婚なんかしないと思っていたので驚いた。

「相手は女性ですよね!?」

「センリ〜お前女子には死ぬほどモテない自覚ねぇのか?」

「当然相手は俺だろう。ですよね、ナナ様」

「それは内緒」

自信たっぷりに笑顔で訊ねてくるトガミにとびきりの笑顔で答えるナナ。センリはショックのあまり放心状態だ。

「僕が男と結婚なんて……そんなのあり得ない…」

「センリ、ナナの予知は変えられるぞ。そこまで悲観せんでもよい。トガミ、お前はさっさと見舞いに行け。そのために来たんじゃろう」

「そうそう、一群に住んでる孫としては一番に見舞いに来ねぇとと思ってなぁ。あ、後でセンリの部屋に寄ってもいい?」

「ストーカーで訴えますよ」

珍しく辛辣に言い捨てて歩き去ってしまうセンリ。ナナに言われたことが余程ショックだったのだろう。僕は慌てて後を追いかけようとしたが、その前に遠くから呼び止められた。

「カナタ!」

「えっ、あ、はい」

僕に声をかけたのは先程用事を言いつけられ出ていったスイだった。彼は僕の首根っこを掴むと引きずるように反対方向へと引っ張っていく。

「あなたはすぐにロウ様のところへ戻りなさい」

「えっ、でも……」

「ロウ様がそろそろ限界なので。あなたのご飯も用意しますから」

「ありがとうございます」

僕としてはもっとイチ様の側にいたかったが、お腹がすいていた僕はご飯と聞いてあっさりお礼を言ってしまう。それを了承ととらえられスイに引きずられていく。

「スイ様、俺もついていっていい?」

「短時間ならどうぞ」

ナナに笑顔で手を振られた僕は、イチ様と引き離されスイとトガミと共に再びロウのところへ。そもそもあそこはゼロの部屋だから、僕が戻るべき一番の場所なのだが。そのゼロは騒ぎのせいで一瞬目が覚めたが、すぐにまた眠ってしまっていた。


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