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神様とその子供たち
004


手を離すタイミングがなく密着したまま歩く僕とイチ様。無言のままだと意識しすぎて恥ずかしいので僕はイチ様に話しかけた。

「いま到着されたキュウ様って、イチ様の弟さんですか」

「ああ」

「どんな方なんですか」

ロウの息子達は皆名前が覚えやすくてキュウという名の人狼が誰なのかすぐにわかった。以前会ったロク様はイチ様に似ていたが、キュウはどうだろう。顔写真を見る機会はいくらでもあったが、イチ様以外はあまり覚えていない。

「どんな……」

「可愛らしい方ですよ」

イチ様が考え込んでいるうちにセンリの方が答えてくれる。可愛らしい、という表現があまり人狼には馴染みがなくて想像ができない。イチ様も頷いているので可愛いという表現に間違いはないのだろう。

「男の方ですよね?」

「ええ、人間の事は見下していますが特に嫌っているわけではないので、カナタさんにも会ってくださると思いますよ」

見下されてはいるのだと聞くと会いにくいがそれが人狼にとっては普通なのだろう。皆ロウに会いに来ているだけなのに、家族に恋人としてご挨拶をする流れになっているのはなぜなのか。

「こちらの客間で待っていただいております」

センリが案内してくれた部屋の扉の前には体格の良い見慣れない人狼が立っていて、僕たちが近づくとさっと脇に寄る。九貴の護衛だろうか。センリが扉をノックすると、返ってきた声がやけに高かった。

「失礼いたします。キュウ様、お待たせして申し訳ございません」

扉を開けたセンリが深く頭を下げるので僕もそれにならう。無表情のイチ様の横でナナは笑顔で手を振っていた。

「茶の一つも出んとは、ここの人狼たちは儂への敬意が足りとらん」

口調はお爺さんのようなのに声が若い。とても若い。姿を見たくてちらりと顔を上げると、そこにはソファーに座った少年がいた。

「キュウちゃん久しぶりー!」

「……暑苦しいから離れてくれんかナナ」

ナナが抱き締めている少年はどうみても僕より年下だ。中学生くらい…いや、小学生だったとしてもおかしくない。そしてそんな幼い顔つきの彼から耳がはえているのだ。そんなの可愛いに決まっている。

「すみません、キュウ様。今ロウ様の件で各地から客人の対応に追われておりまして」

「忙しいのは承知の上じゃ。それでも茶と茶菓子くらい出さんかと言うておるのだ」

「すぐ持ってこさせます」

「センリが淹れてくれた茶がいい。じゃないと飲まんぞ」

「ご用意させていただきます」

センリが出ていってしまい、僕も一緒になって出ていきたかったがイチ様に肩を抱かれているので動けない。ナナから離れたキュウがこちらへ歩み寄ってくる。

「兄上殿、急に押し掛けて申し訳ない。父上の御加減はいかがか」

「……」

「兄上、センリがいない時は自分でしゃべらんといかんぞ」

「……あっ」

素で答えるのを忘れていたらしい。僕とは二人きりでいることも多いので忘れがちだが、基本この方はセンリがいると彼におしゃべりを任せてしまう。

「……父上は今ハツキといる」

「ハツキ! あの忌々しい若造め! まったく父上はあの男に甘すぎる。よかろう、儂がこの手で握りつぶしてくれる。早く父上のところに案内せい」

「俺とコイツがたった今親父に追い出されたとこだよ。何か話あるみてえだったし、邪魔しねぇ方がいいんじゃねぇの」

コイツ、とナナに言われキュウと目が合う。真ん丸の瞳が僕をきょとんと見上げていて、あと少しで僕可愛いねと話しかけるところだった。

「お主が兄上殿のところで働いてる人間か。たしかに、チビが懐いておるな」

「は、はじめまして、阿東彼方と申します」

「そんなにビクビクせんでも、別に取って食ったりせん。ナナから15と聞いておったが、意外と大きいのう」

キュウは見た目は可愛らしい少年だが、話し方はお爺さんのようだった。ゆったりとした仙人のような服を着て、大きな杖までついている。実年齢を考えるとまっとうな姿なのかもしれないが、ただただ可愛いという感想しかない。

「それにしても、父上に言われてナナは大人しく出てきたというのか。まったく頼りにならん…。やはり父上は儂が守らねば。兄上、二人はどこじゃ」

「ゼロの部屋にいる」

「ゼロ? ああ、兄上殿の息子か。なぜそんなところに」

キュウは僕がだっこしていたゼロに触ろうとそろそろと手を伸ばしてくる。当然ゼロは嫌がって頭を背けてしまったので、キュウはすぐに手を引っ込め残念そうな顔をした。

「相変わらず怖がりな奴じゃのう」

「キュウちゃんなんかまだマシな方だって。アガタが来たときなんか姿見ただけで震えまくってるからな、こいつ」

「アガタ? はて、誰だったかな」

「最近兄貴にボコボコにされた奴だよ。一群円闘連続優勝記録保持者の!」

「ああ、そんなのがいたような」

しばらくゼロに慣れてもらおうと頑張っていたキュウだが、そのうちセンリがお茶を持って戻ってきた。

「お待たせいたしました。キュウ様」

再び椅子に座って嬉しそうに口をつける。センリは僕たちの分も用意してくれていたのでありがたくいただいた。

「うむ、やはりセンリが淹れてくれた茶はうまい。どうじゃセンリ、給料は倍出す。九群で働かんか」

「大変魅力的なお誘いですが、申し訳ありません。ここでやらなければならない仕事がありますので」

「どうしてもか?」

「はい」

「もー! しゃべらん兄上の通訳なんぞやってて何が楽しいんじゃー!」

センリに断られてじたばたしている姿がとても可愛い。センリもそう思っているのかその様子をにこにこ見守っている。

「もう良い! 父上のところに行くぞ」

お茶も茶菓子も残さずお腹に入れたキュウは大きな杖を持って意気揚々と歩き出す。てっきり杖をつくのかと思ったらただ持って歩いているだけだ。足が悪くないのなら、どうして杖を持っているのだろう。

「何をぼさっとしておる! はよう案内せんか!」

「勝手に行けばいいじゃん」

「阿呆! ナナの阿呆! 場所がわからんのじゃ。ワンコの部屋なんぞいちいち覚えとらん」

「犬ではないが」

イチ様がセンリが戻ってきているのに自分の口で話した。ゼロをワンコ扱いするのは許せなかったらしい。僕たちはそのまま5人でゼロの部屋にまた戻ることになった。



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