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神様とその子供たち
番外編1
もしもイチより先にロウがカナタに会っていたらif(本編とは無関係です)



未来の日本には、人間を支配する人狼という存在がいた。突然未来に飛ばされてしまった僕は運良く人狼の一人、ロウという男に拾われ保護してもらっていた。衣食住を提供してもらい、今はなに不自由ない生活を送ることができている。

世間では身分証明ができない人間は迫害されているらしく、安全のために外出を禁止されている。この時代のことはロウから少しずつおしえてもらっているが、彼は多忙で家を空けることが多くまだわかっていないことばかりだ。ロウはかなり偉い立場の人狼らしく、僕を養うお金は有り余るほどあり生活費は気にするなと言われているが、それでも、初対面の彼がここまでしてくれる理由がわからず戸惑う毎日だった。

僕は今、広い広い屋敷の中に住まわせてもらっているがこのロウの部屋からは殆ど出たことがなく、他の人狼や人間とも殆ど接触することがない。軽く軟禁のようになっているので最初は疑問だったが、理由はすぐにわかった。僕はここにいる他の人狼達には歓迎されていない。というより、疎まれている。自分の主が得体の知れない人間を保護しているのが気にくわない、ということらしい。当然と言えば当然の感情だ。



「ロウ様は、いつまであの人間を飼うつもりなんだ?」

「さあな。普段のロウ様では考えられないことだ」

僕が窓を開けて外を眺めていると、下からここで働く使用人の声が聞こえてきた。掃除中らしい彼らは僕が聞いていることには気づいていないようだ。

「まさかロウ様、あの人間を食うつもりなんじゃ…」

「あのロウ様がぁ? ああ、でも人間なんか、それぐらいしか使い道がないもんなぁ」

食う、という言葉が聞こえて動揺する。もっと話をちゃんと聞きたかったが、彼らは別の場所へ移動してしまったのでもう聞き取ることができなかった。

まさか人狼は人間を食べるのだろうか。そんな恐ろしいことあり得ない、と思ったがあんな耳があって大きな牙があって、人狼は人間とはまるで違う生き物だ。元の時代だってライオンや鮫は人を食べていた。ロウは僕に優しく施しを与えてくれるが、いつか食べるための食材を育てていると考えれば納得がいく。

僕は食べられる前に逃げるべきなのだろうか。でも、ここを出たところで安全な場所はない。一歩外に出れば無惨に食い殺されるかもしれない。ならば、それよりも……。



その日の夜、ロウが久しぶりに部屋に戻ってきた。仕事で外泊することが多い彼だが、帰ってきた時はなぜか僕を抱き締めて就寝する。僕と眠ると安眠できると喜ぶのでされるがままになっていたが、昼間の話を思い出すとおちおち横で眠れやしない。

「カナタ、今日何かあったか?」

ロウは僕に腕枕をしながら優しい口調で訊ねてくる。彼は僕の心の動きにとても敏感だ。初めてここで働く人狼に面と向かって罵倒された時は、その時いなかったにも関わらずすぐその人狼を近づけさせないようにしてくれた。まるで人の心でも読めるみたいにすぐに感づくので、僕が怖がっていることなどすぐにバレてしまうだろう。

「あの、僕、ロウ様に助けていただいてとても感謝しています。でもずっとここで何もせず過ごすのは、なんだか申し訳ない気がして」

「何だそんなことか。気にするなって言ったろ? カナタはいてくれるだけで俺の役にたってるんだから」

タダより高いものはない、という言葉が頭をよぎる。その寛容すぎる言葉に食用としか見られていないのではないかという風にしか思えなくなってきた。

「でも、ロウ様のお役にたちたいです。何か僕でもできることはありませんか?」

役に立つ人間だと思ってもらえれば、食べるのをやめてくれるかもしれない。僕はロウの服を掴んで必死に食い下がった。

「できることがあれば何でもしますから」

「……」

ロウは僕を見下ろしたまましばらく停止してしまう。何を考えているのだろうと不安でそわそわしていると、彼は無表情のまま僕の肩を両手で掴みそのままベッドに押し倒した。

「何でも……何でもしていいのか」

「え、あ、はい。まあ……」

やるのはロウではなく僕なのだが。正しく意味が伝わっていないのかロウはうわ言のように呟いていた。

「本当はずっと……ずっと一緒にいたい。一秒も離れることのないよう、全部手に入れて俺の一部にしたい」

「えっと、それは…」

食べるということか!? とビクビクしていると、ぺろりと首筋を舐められる。ざらっとしたロウの舌の感触に「ひっ」と声をあげてしまう。ロウの尖った牙がやんわり肌に食い込み、死を覚悟した僕は震える声で訊ねた。

「あの、まさか、ロウ様、僕のこと食べちゃうんですか…?」

役に立ちたいというのは断じてどうぞ今すぐ食べてくださいという意味ではない。不安が現実になりそうで震えていると、ロウがあっけらかんとした表情で笑った。

「ははっ、そうか、そうだよ。誰かに駄目って言われてるわけでもねぇのに、何で俺は……」

ロウは生気のみなぎった目で僕を見下ろしている。それは捕食者の獣の目だった。

「食っちまうのも、悪くねぇかもな」

「えっ」

ロウがなぜか服を脱ぎ始めたと思ったら僕もあれよあれよという間に服を脱がされてしまう。その後は、僕の人生においてまったく経験したことのない快楽の波に溺れさせられ、精魂尽き果てるまでロウの相手をさせられた。彼の言った“食う”という意味が僕の想像とまるで違っていたことを、嫌という程思い知らされたのだった。


その後、ロウは僕をできるだけ側に置き、どこにでも連れていくようになった。周りからどんなに奇異の目で見られても、僕と毎晩ベッドを共にしていた。そこで時々僕を抱いてしまうロウに対して、嫌だとか酷いとか言うべきだったのかもしれないが、何も言えなかった。ほんとは、嫌でも酷いとも思っていなかったのかもしれない。ここに来てからの僕にとってはロウがすべてで、彼には何をされても良いのかもしれないと思っていた。

「カナタ」

ロウに名前を呼ばれて抱き締められる。ここに来てから寂しくて泣いてばかりで、幸せだなんて思ったことはなかったのに、ロウに抱き締められると泣きたくなるくらい嬉しかった。

「明日は一群に行くからな。俺の息子の1人に紹介するよ」

「一群ということは、10人のお子さんのうちの一番上の方ですね」

「ああ。かわいくていい奴だよ。人間にも優しいし」

「楽しみにしています」

ロウ以外に僕に優しい人狼には会ったことがないが、ロウの子供なら友好的に接してくれるだろうか。好かれることはなくても、せめて嫌われなければいいのだが。

「ロウ様」

好きです、なんて馬鹿げたことは言えない。いつも通り「ありがとうございます」と言ってロウに寄り添う。ロウが今どんなつもりで僕を抱き締めているかはわからないが、彼が僕の前ではいつも笑ってくれるのでこの幸せが少しでも長く続けば良いと思った。


おしまい

2019/12/25
Merry Christmas!


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あきゅろす。
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