神様とその子供たち
003
「やっと二人きりになれたな、カナタ」
「ゼロもいますよ」
抱えていたゼロを持ち上げて見せるとナナがつまらなさそうな顔をする。ゼロはくーんと鼻をならしながら大人しくしていた。彼も成長して強くなったのか、昔よりは人狼を怖がらなくなっている気がする。
「はいはい兄貴以外眼中にないってわけね」
「別にそういう意味では…」
「兄貴はさ、ずーっと恋人いなかったんだよな。だから多分童貞だと思うんだけど」
ナナの言葉が衝撃的で思わず思考が止まる。童貞という言葉とイチ様がそぐわなさすぎる。
「兄貴とまだ寝てないよな? な?」
即座に首がちぎれそうなくらい縦に振る。ナナはにこにこしたまま僕の肩を強く握っていた。
「付き合うんなら勿論いずれはやるじゃん。でもカナタも童貞で処女じゃん? そんな二人でうまくいくかなぁ。人狼と人間じゃ体力も違いすぎて、下手すりゃ死ぬぜお前」
「え!?」
「慣れてない同士でうまくいくわけねぇだろ。どんだけ俺達とお前らじゃ体の作りが違うと思ってんの」
そこまで深く現実的に考えたことがなかった僕はナナの言葉に真っ青になる。イチ様が相手ならそんなことにはならないとは思うが、未知すぎて怖い。というか、好きだとは言ってくれたがイチ様は本当に男の僕とそこまでしたいと思っているのだろうか。
「なんなら失敗しないように、俺が指導してやるよ」
そう言って僕の体を抱き寄せてくる。手慣れすぎている早業に驚きつつ、とりあえず腕の中のゼロを庇っていると突然ナナの体が後ろに倒れた。
「うわっ、って兄貴!?」
ナナの肩を掴んで僕から引き離してくれたのは、まさかのイチ様だった。背後には白い目をしたセンリが立っている。
「人の家の廊下で何をなさってるんですか? ナナ様」
「センリ…またいいところで邪魔を……あーごめんごめん! 何もしてねぇから手離して!」
どうやらイチ様の手がかなり肩にめり込んでいたらしく、ナナが痛みに顔を歪ませながら謝罪した。手を離してもらった彼は涙目で兄を睨み付ける。
「そんな怒んなくたっていいじゃんか。まだ何もしてねぇのに怒られ損だっつうの」
「何かしてたらこんなもんじゃすみませんけどね。ナナ様、なぜカナタさんとこんな所に? ロウ様はどうされたんですか」
「ハツキの野郎が来たから親父に追い出された」
「え!? ハツキ様が!? まだ通すなって言ってあったのに……申し訳ありませんイチ様、偉い方達が次々に来すぎて対応が追い付いていません」
「他にも来てんの? 誰?」
「キュウ様です。何で皆様こんなに情報が早いのか……」
「あっ、キュウちゃんには俺がしゃべっちゃった」
「何故!?」
「一応親父のことだし弟達には報告しといた方がいいかなぁと思って。だからハチにも言ったんだけどあいつからは連絡まだないなぁ……」
余計なことを、という顔をして項垂れるセンリ。僕はといえばイチ様が気になりすぎてずっと彼を見ていたが、彼はいつもの無表情で目を伏せていた。
「カナタさんを保護しようと思ってたのでちょうど良かったです。今からキュウ様を出迎えに行きますから、ナナ様もご一緒に」
「いや俺はいいよ。カナタのことはちゃんと守っとくから、二人で行ってきな」
「カナタさんと二人きりにはさせませんけど」
「えーなんでそんな信用ないんだよ。さすがの俺でも兄貴の恋人寝取ったりしねぇのに」
「あっ、それロウ様から聞いたんですね。知ってるならもっとカナタさんから離れてください」
「えーー」
「えーーじゃないですよ。イチ様の心労が重なりすぎて今にも倒れそうなんですから。これ以上の負担はかけないでください」
センリは僕の腕を引くと、そのままイチ様の手を持ち上げ僕の肩に誘導する。
「イチ様も、そんなに気になるなら自分で掴んでおかないと」
センリによってイチ様の大きな手に肩を抱かれる僕。突然のことにお互い顔を見合わせて硬直してしまった。僕なんかは顔が真っ赤になっている。
「なんなのこいつら、中学生?」
「ナナ様! 茶化さないでください! 二人はいま大事な時期なんです」
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