神様とその子供たち
006
僕がゼロと共に部屋に戻ったときロウはまだ起きていた。ベッドの上で暇そうに足を組んでいる。はみ出た尻尾がかすかに揺れていた。
「おせーんだけど」
「すみません」
スイはドアの前で見張りをしてくれるために部屋から出ていく。ロウと二人きりにされまたしても僕は彼に抱き込まれて二人で眠るはめになった。
「ロウ様、あの、もうすぐナナ様とハツキ様が来られるとのことですが……」
「らしーな。あいつらそんなに暇なのかな」
「この状況、見られるとまずいのでは…?!」
「だからスイに見張ってもらってんだろ」
「それはそうなんですけども」
スイにハツキが止められるのか疑問だ。失礼を承知で言わせてもらえば若々しいハツキと比べるとスイは高齢だ。とても勝てるとは思えない。
「お前ってさぁ、ほんとにイチが好きなの? 人間の分際で?」
「え? そ、そうです……」
「そりゃあイチは俺の自慢の息子で、どこに出しても恥ずかしくない優秀な男だぜ。でもあいつの良さが人間なんかにわかるのかね。お前なんかイチの顔とか権力とか、なんかよくわかんねぇけどすげーってだけで惹かれてるだけじゃねーの」
「違いますー! 僕だってイチ様の良いところいっぱい知ってます。人間にも偏見なく接してくださる所とか、人間相手だけじゃなく誰にでも優しい所とか、普段は無口なのに大事な時にはちゃんと気持ちを伝えてくれるとことか、どんなに忙しくてもゼロの事いつも気にかけてる所とか、ロウ様の事もここの皆の事もとても大切にされている所とかー」
「わかったわかった。うるせーから捲し立てるな」
ロウが邪魔臭そうに僕の口を塞ぐ。ロウの手が大きすぎて僕の顔が完全に潰れてしまう。
「お前さぁ、何で俺についてくるのが嫌なわけ」
ストレートにきかれてしまった。というか嫌がっているのはバレていたのか。何と答えればいいのか迷っていると、ロウが僕の口元から手を離しながらぼそぼそとぼやいた。
「まさかとは思うが、俺のことが嫌いとかじゃないよな」
「え?」
嫌いというわけではないが、なぜそんなに自信たっぷりなのか。そこまで堂々と言われると頷くしかない。
「嫌いではないですけど…」
「けど?」
「特別大好き! というわけでもないというか……」
「えぇえ?!」
びっくりしすぎて声が裏返るロウ。だからその自信はいったいどこからくるのか。
「俺のこと好きじゃない奴とかいるんだ」
僕の発言に思いの外ショックを受けている。やはり周りから愛され過ぎて麻痺しているのか。人間には常日頃から命を狙われてるのに、人間はノーカウントというか虫けらレベルにしか思っていないから憎まれても平気なのだろうか。
「僕はただ、イチ様とゼロと離れたくなくないだけです」
「チビ太郎は連れてきたらいいだろ。俺だっていっちゃんに会えないのは我慢してるんだからさぁ。俺絶対お前以上にいっちゃんの事好きだからね」
子供みたいに駄々をこねるロウを見ながら、以前イチ様が言っていた事を思い出していた。
「ロウ様は、イチ様のお母さんの事をとても愛していらっしゃったんですよね」
「んん? 何それ誰からきいたの」
「イチ様からです」
「あー…」
今はたくさんの女の子と遊び暮らしているロウだが、たった一人だけ特別な女性がいた。その人の事を思い出してくれれば、好きな人と離れたくない気持ちもわかるのではないだろうか。
「まあ、そうだな。立夏ほど俺の事を理解してくれる奴はいなかったからな」
「でしたら、僕の気持ちもわかってくださいますよね」
「でしたらとか言われても、俺は別に立夏と毎日会わなくても平気だったけど」
「……!」
「俺達は普通の夫婦とは違ってたからな。参考にはならねぇよ」
笑いながらも遠い目をするロウが優しい表情をしていたので、いい家族だったことがよくわかる。しかし確か4番目と5番目の子供はイチ様とは母親が違っていたはずだ。その後ロク様が産まれたとすると、ロウは妻がいながら他の女性とも子供を作っていたことになる。その辺りの詳しい事情は知らないが、一度離婚でもしていたのか、ロウに限り一夫多妻制だったのか。
「あの、ちなみに僕がロウ様と一緒に行かない場合、一体どうなるんでしょうか」
「お前とイチを別れさせる。どんな方法を使っても」
「え!?」
「それでお前を連れていく。どのみち一緒だな」
ロウは軽い口調で言っていたが、間違いなく本気だった。どのみち僕はイチ様と一緒にはいられない。ロウの不眠症を何とかしなければ、僕はもうここにはいられなくなってしまう。
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