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神様とその子供たち
005

「え!?」

「お前たちは四六時中一緒にいないと付き合えねぇのか? そんなことないだろーが」

「あ……」

確かに世の中には遠距離恋愛というものがあるし、仮に結婚したとしても事情があって離れ離れで暮らす夫婦もいるだろう。しかし、それを条件にするなんてあんまりなのではないだろうか。

「チビはどうするつもりですか」

「それはお前たちに任せる。俺がカナタごと連れていってもいいし、他に人間を雇ってもいいだろ」

「ロウ様に任せたとして、カナタさんはどれくらいの頻度で帰ってこられるんですか?」

「俺がここに戻る時だよ。月に1、2回ってところか。なるべくスケジュール調整して帰るようにするけど」

「……」

質問攻めにしたセンリはしばらく考え込んだあと、イチ様の顔色を窺ってから答えた。

「その提案を今すぐ受け入れる事はできません。少し時間をいただけませんか」

「別にいいけど。俺も眠いし。つーかもう寝てきていい? 後はお前らで決めといてよ」

そう言って大きなあくびをするロウ。僕の手を取って部屋を出ていこうとするのをセンリが止めた。

「カナタさんの意見もききたいので、連れていくのは少し待っていただけませんか!?」

「えーー」

「お願いします!」

「……わかったよ。おいカナタ、話が終わったらちゃんと戻ってこいよ!」

眠そうに目を擦りながら出口へと向かうロウ。部屋を出ていったと思ったら、すぐに戻ってきてイチ様に向かって叫んだ。

「それからいっちゃん、パパまだ怒ってるからな! 許してほしかったら後でちゃんと謝りにきなさい!」

ぷんぷんという擬音がぴったりな様子で再び部屋から出ていく。残された僕達にスイが厳しい視線を向けた。

「ロウ様に対する無礼はこの際見逃すとして、イチ様、そこの人間の子供と付き合うだなんてご自身がどれだけ馬鹿なことを仰っているかわかっているのですか」

スイの言葉にイチ様は何も答えない。代わりにセンリが間に入る。

「スイ様は反対ですか」

「当然でしょう。センリ、あなたが賛成していることすら信じられない」

「僕も人間と付き合うなんて反対に決まってます。でもカナタさんなら…」

「その子供は特別? なぜ?」

「ロウ様がカナタさんに心を許しているからです」

「……」

センリの言葉にスイは口ごもる。なんでこんな人間が、という表情を隠しもせず僕を睨み付けていた。

「カナタさんが気に入らないならそれでも構いません。でもイチ様とチビには必要な存在なんです。ロウ様にカナタさんの事は諦めるようスイ様から説得していただけませんか?」

「それは致しかねます。私の仕事はロウ様のため、ロウ様の幸せを一番に考えることですので」

スイに一蹴されて思わず頭を抱えるセンリ。センリは当事者でもないのに僕やイチ様以上に悩み苦しんでいるように見えた。僕のぼーっとしたのんきな顔に苛ついたのか、彼の綺麗な目が僕を睨み付ける。

「いったいいつから、カナタさんはイチ様とそういう関係だったんですか!」 

「え、い、いつから…?」

いつから、ときかれるとよくわからないがイチ様が好きだと言ってくれた時からだろうか。その前からずっと両思いだったのかもしれないが。

「二人の関係に気づかないなんて、一生の不覚です」

「いやあの、僕に付き合ってる自覚はあまりなくて、最近まで片想いだと思ってたので……」

自分が片思いとかいう言葉を使ってるのがむず痒い。この年まで恋愛なんかしてこなかったのに、初めての相手が大物過ぎないか?

「イチ様はどうお考えなのですか。交際を認めてもらうためなら、彼をロウ様にわたしてもいいと思っておられるのですか」

「……」

センリがイチ様に訊ねても返事がない。考え込んでいるのかと思ったが、センリが目の前で手を振っても反応もなかった。

「イチ様、どうかされたんですか」

「これは……おそらくロウ様に逆らってしまったショックで放心されてるのかと。普段はまったく父親に反抗というものをなさらない方なので」

いつまでたってもイチ様は焦点の定まらない空虚な目をして椅子に座り込んでしまったままだ。父親に恩義があると言っていた彼にとって、あのレベルの反抗は許せないことだったのだろう。

「とにかく、今すぐに答えは出せません。とりあえずロウ様にはしばらくここにとどまっていただいて話し合いましょう」

「しかし、同じところにいれば他の人狼達が黙ってないかと」

「長期休養をとる、と宣言します。病気でも怪我でもないリフレッシュ休暇だと周りには訊かれる前に触れ回ってください。今までずっと日本中を飛び回っていたんですから、それくらいの休暇はあってしかるべきです」

「…わかりました。今はそのように」

ほぼスイとセンリの話し合いで決まってしまった。いや、保留にしただけで今後僕がどうなるのかはわからない。僕が一緒に行きたくないですとロウにちゃんと言うべきなのだろうか。そんなこと言って聞き入れてもらえるとも思えないが。

「とにかく、ナナ様とハツキ様の来訪に備えます。カナタさん!」

「は、はい」

「あなたはとにかくロウ様のところへ。スイ様、付き添いをお願いできますか? ロウ様のところにハツキ様が来ても入れないで下さい」

「わかりました」

「こちらもなるべく、ナナ様が来られるまではハツキ様は通さないようにします。よろしくお願いします」

そう言ってセンリは腑抜けてしまったイチ様を連れて慌ただしく部屋を出ていく。僕はスイに連れられてロウ様が待っているであろうゼロの部屋へと向かった。


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あきゅろす。
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