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神様とその子供たち
004

父親に怒られてもイチ様はいたって冷静だった。何事もなかったかのように話を続ける。

「なぜですか」

「なぜ?! お前それ本気で言ってんのか」

「ロウ様、物にあたるのはやめてください」

ロウが蹴り飛ばした椅子を元に戻し、ご立腹のスイ。これ以上何かしないように見張るためなのかロウのすぐ横に立った。

「人間との交際も結婚も、法律で認められてない。誰もそんなことしようとすらしてねぇだろうが。それをよりにもよってお前が……」

「法律で禁止されているのは男女の結婚です。交際という名前をとっていないだけで、ナナも人間の男を何人も家に住まわせています」

「あいつは人間を飼ってるだけで、お前とは違う。人間と俺たちは対等じゃない。人間は下劣で野蛮で頭の足りない劣等生物だ。そんなもんとどうやって付き合ってくんだよ」

「それは違います、父上」

「違わねぇ。お前が甘すぎるだけだ」

「カナタのこともそんな風に思っているんですか? ならば連れていかせる事は絶対にできません」

「……」

そう言われてしまっては反論もできず口をつむぐロウ。スイがすかさずロウの援護を始める。

「イチ様、馬鹿なことをおっしゃらないで下さい。人間などと付き合ってどうなさる気ですか。結婚だってできません。子供も作れないんですよ」

「ゼロがいますから、子供はもういりません」

「イチ様…!」

イチ様がこんなに長く大きな声で話している姿は珍しい。僕のために慣れないことをさせてしまって嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが半々だ。

「カナタが受け入れたとか言ったって、本気かどうかなんてわかんねぇだろ。お前相手に15そこらの人間が逆らえるわけねぇんだから」

ロウの辛辣な言葉に思わず立ち上がる僕。全員の注目が僕に集まる。

「ぼ、僕、嘘なんてついてません…! ちゃんと、イチ様のことが……あの……す、す、好きなんです」

どもりすぎて信憑性がいまいちになってしまったが、その時のロウの顔が先ほどイチ様の告白を聞いた時とまったく同じだった。まさか僕がイチ様のことを好きだとは思っていなかった顔だ。困ったロウの矛先は何故かセンリに向いた。

「センリ! 今の本当か?」

「えっ、あ、はい。嘘ではありません」

「嘘だろ……なんでこんなことになる前に止められないんだよ。お前なら気づけただろー…!」

理不尽に責められるセンリだったが、「申し訳ありません」とその場で頭を下げていた。センリは前にイチ様は恋愛ができないと言っていたから、今回の事はあまりに予想外だったのだろう。

「お二方ともお互い好意があるのはわかってましたが、まさか恋愛感情だとは……」

イチ様を見てあり得ない、という顔をいまだにしている。よほど僕とのことが信じられないらしい。

「しかし、イチ様が誰かとお付き合いするのは良いことだと思います。例え相手が人間でも、誰も好きになれないよりずっといいです」

突然聞かされた話なのに、すぐ賛成してくれたセンリに僕は感動していた。ロウはといえば何やら考えたあと僕とイチ様を見比べ、不機嫌な顔をして口を尖らせた。

「イチが人間と付き合うのを俺が大っぴらに認めるなんて、できるわけねぇだろうが」

「……ロウ様、それはつまり」

「“公然”には認められねぇって言ってんだ」

ロウの言葉にセンリが顔を輝かせる。つまりそれは公には認められないが、見て見ぬふりをしてくれるということだろうか。

「しかし、父上の許可がなければ……」

「イチ様! 世間には暗黙の了解という言葉があるんですよーー!」

真面目なイチ様がさらに許可を得ようとするのをセンリが止める。あんなに怒ったのにわりとすんなり認めてくれたと思っていたら、それには裏があった。

「俺はお前達を無理やり別れさせたりしない。その代わり、カナタは俺が連れていく。これが条件だ」



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