神様とその子供たち
003
「お話し中すみません、ヒト様にお話が……!」
突然、一人の人狼が血相を変えて部屋に飛び込んできた。名前を呼ばれたヒトが涙を拭って手を上げる。僕はこっそりロウの手からのがれ椅子に座って再び縮こまった。
「どうした?」
「五群で行われた円陣格闘で負傷者が。頭蓋骨骨折とのことで、ヒト様のお力が必要です」
「ええ〜こんなに時に〜〜?」
思わず本音が出てしまい、ばつが悪そうに咳払いをした。
「患者の命が最優先ですので、大事な会議中ではありますが失礼させていただきます。ロウ様、イチ様、申し訳ありません」
ヒトはがっかりした様子でロウ様に頭を下げ、一人退室する非礼を詫びた。ロウに頭を撫でられると尻尾をちぎれそうなくらいぶんぶん振り回して嬉しそうにしていた。ヒトが出ていくと、フウビが笑顔で腕を組みながら口を開いた。
「お医者さんは大変だな。マドカ、お前もここに長居するのはまずいんじゃないのか?」
「俺を追い出してもロウ様をひとりじめになんかできないぞ、フウビ。そうですよね、スイ様」
マドカから話をふられ、スイはやつれた様子で頷いた。
「今しがた、ナナ様とハツキ様から連絡が……一群に向かってるそうです」
「ああ? もうここにいるってバレたのかよ。だいたいナナ様はともかく何でハツキが来るんだ?」
「四貴がロウ様にご執心なのは今に始まったことじゃないだろう」
「あの変態野郎。俺達のロウ様にベタベタ触りやがって。何度寝所に忍び込もうとしたところを取り押さえたと思ってんだ。逮捕しろ逮捕!」
「ロウ様が被害届を出していないから無理だ」
「ロウ様! ご命令くだされば、この私が、二度とあの男が近づけないようにさせていただきます!!」
フウビの厚に圧倒されたロウは、僕を指差して言った。
「じゃあカナタがハツキに殺されないよう見張っててくれよ。あいつカナタを狙ってんだ」
「ま、まさか俺に人間を守れとおっしゃるのですか…!?」
「お前の困惑はもっともだが、カナタは俺の物だぞ。俺の財産を守るのもお前らの仕事だろ」
「……!」
あまりのことに衝撃を受け動揺するフウビ。するとイチ様がロウのところまでやってきて口を開いた。
「父上」
「ん? 何?」
「大事な話があります。二人で」
「二人で?? いいよいいよ、どーしたの?」
数ヵ月ぶりに子供に口をきいてもらえた父親のようキャピキャピはしゃぐロウ。フウビが嫉妬に燃える視線をイチ様に向けていた。
「俺はイチと話があるから、悪いけど全員退室してくんない?」
「しかしまだ何も解決していませんよ」
「フウビ、後はイチ様とロウ様の決定に従えばいい。ロウ様、またご報告下さいね」
不服そうなフウビを連れてマドカが退室する。僕も出ていった方がいいかと思い立ち上がったが、イチ様に止められるた。結局センリとスイもその場に残った。
「せっかく人払いしたのに……3人も残ってるけどいいのか?」
「はい。彼らにも聞いてもらいたいので」
イチ様は僕の手を取るとロウの前まで連れてくる。きょとんとした顔をする父親の前で、イチ様ははっきりと宣言した。
「私は彼が……カナタが好きです。私の気持ちをカナタも受け入れてくれました。ですから父上にも、どうか私達の交際を認めていただきたい」
「……」
その時のロウの顔は二度と忘れられない。ロウだけでなくセンリとスイも仰天していたし、なんなら僕も呆然としていた。まさかイチ様がロウに言うとは思っていなかったし、そもそも僕達は付き合うことになっていたのか?
「私はカナタが好きです」
「それはもう聞いた」
「認めていただけますか?」
「認めるわけねぇだろうがこのバカ息子が!!」
ロウが机を叩き椅子を蹴り飛ばす。怒声と椅子が吹っ飛ぶ音に驚いた僕は硬直して動けなくなる。ロウはイチ様相手に怒ることなんて絶対にないと思っていた。睨みあう両者に、その場にいた全員が呆然と立ち尽くしていた。
[*前へ][次へ#]
無料HPエムペ!