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神様とその子供たち
わがまま


僕はあの後死にそうな顔をしたロウに拉致され、ゼロの部屋のベッドで抱き締められて眠った。もちろん僕は眠れるわけもなくただ呆然としたまま抱き枕になっていたが、ロウは10秒とたたずに夢の中だった。しばらくそのまま横になっていたが、慌ただしくセンリが入ってきたかと思うとロウと僕を見て叫んだ。

「何やってるんですか!?」

「助けてください」

「カナタさん!?」

しっかりロウにホールドされていた僕はセンリの手を借りてなんとか抜け出すことができた。センリが声をかけても爆睡してしまったロウが起きる気配がなかったので、彼をそのまま残してゼロと共に部屋をこっそり抜け出した。

センリの話によると、ロウが一群に来たことは他の誰も知らなかったらしい。イチ様はもちろんのこと、いつもロウの側にいるスイにも何も言わず一群に一人で飛び込んできたそうだ。おかげで一貴邸はもちろんのことロウの周りでも大混乱。こちらでは突然現れた侵入者に大騒ぎになり、それがロウだとわかり皆騒然となったらしい。

僕が通された会議室のような部屋にはイチ様とスイとその他数人の見知らぬ人狼がいた。スイは突然いなくなってしまったロウを密かに捜索しようとしていたところに、一群から連絡をもらいすぐに飛んできたそうだ。

「ロウ様はどこにおられるのか」

「ベッドでおやすみになられています。ご案内しますか」

「いや、それは後程。眠っておられるなら起こしたくはありません」

スイの言葉を受け入れセンリがあいていた椅子に座り、全員が着席する形になる。僕は立っていて良かったのだが、センリに促されゼロと共に彼の隣に座った。

「ロウ様が我々の目を盗んでここに来たのは、本当にその人間に会うためなのですか」

あり得ないほど立派な体格をした厳格な顔つきの人狼に問いかけられる。物々しい雰囲気に僕は押し潰されそうだった。

「一群に来て早々、イチ様にも会わずカナタさんを連れて眠っていたんですよ。確かめるまでもなく明白です」

「カナタさん?」

「彼の名前です」

「センリ、お前人間なんかに敬称をつけているのか? 丁寧なのも度が過ぎるぞ」

男の言葉に何人かが笑う。センリも表情筋を一ミリも動かさず微笑んだままだったが、こういう時のセンリはだいたい苛ついている。

「笑っている場合ですか? ロウ様の疲弊した様子、あなた方の怠慢といわれても仕方ありません。イチ様は大変心配されています。何があったのか聞かせていただきましょう」

センリの言葉に全員の顔が曇る。誰もが答えられないようだった。

「ああそうだ、カナタさんに彼らを紹介しておきましょう。目の前の恰幅のいいお方がロウ様を守る人狼軍司令官フウビ様で、その横の堅物そうな彼がロウ様専属御殿医代表のヒト様。そしてその隣の男が一貴代理補佐官のマドカです」

「はじめまして、阿東彼方と申します」

僕が挨拶しても会釈してくれたのは補佐官のマドカだけだった。補佐官といえばセンリだけだとばかり思っていたので、彼の存在は知らなかった。どこかで見たことがある顔だが、思い出せない。

「マドカは位としては僕と同等ですが、イチ様の代理でもあります。イチ様が職務執行不可能な事態に陥った場合、彼が一時的に一群の代表になります」

それはつまり相当偉い立場の方という事じゃないだろうか。年齢はイチ様と変わらないぐらいに見えるが、髪の色は明るい茶髪だ。銀色が普通の人狼の中では珍しい。染めているのだろうか。

「挨拶が遅れたな、阿東彼方。俺はイチ様とは別行動が基本だから、会う機会がなかったんだ。これからもここには滅多に来ないだろうが、よろしく頼む」

気さくに微笑みかけられ反射的に頭を下げる僕。イチ様の代理、というだけあって人間にも丁寧な対応だ。
アメリカの大統領と副大統領は事件や事故が起きた場合に備えて同じ飛行機には乗らないと聞いたことがある。イチ様と常に別行動をしているというのもそういう理由からだろうか。

「ロウ様の顔色が悪いと聞き、今朝方私が問診しました。何でもこの三日まったく眠っておられないとのこと。そこの人間がいなくなってからだとスイ様からおしえられ、対処する方法を考えようとしていた矢先ロウ様がいなくなってしまったのです」

医者のヒトという男がつらそうに目を伏せる。こちらはイチ様より年上の中年男性だったが、スタイルも容貌もよく医者というよりは俳優のような容姿だった。

「七群に滞在中だったため、現在ナナ様から十分に一回のペースで連絡がきます。それからどこから聞き付けたのかハツキ様からもずっと。この二人がここを嗅ぎ付け押し掛けて来るのは時間の問題ですよ」

ロウの警護をしているという軍人フウビが光りっぱなしの携帯端末をちらつかせながら唸る。スイが「私の方にも着信が絶え間なくきています」と言った。

「ロウ様になんとか七群に戻っていただくのが一番ですが、それが無理な場合は……」

「ロウ様は体調不良のため一群で療養するという事にしてはどうでしょう」

「そんなこと公表したら人狼も人間も大騒ぎですよ。慢性的な寝不足はあったとはいえ、風邪を引いたことすらない方だったんですから」

「しかしロウ様に休養が必要なのは確かです。七群に戻すのが正しいとは……」

全員ああでもないこうでもないと議論を交わす。イチ様は何も言わず黙って話を聞いていた。

「戻してもまた抜け出すかもしれません。今まで一度も職務放棄したことのないロウ様が、初めてこちらに何の断りもなく阿東彼方のところに行ったんですから」

一貴補佐のマドカが僕を見ながら言った言葉に全員の視線が集中する。話の中心に突然据えられて僕は頭が真っ白になっていた。


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