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しあわせの唄がきこえる
002



「暁、俺の言いたいことわかってんだろ。まさか俺に言わせる気か?」

「……」

「誰にやられたのか言え。お前はそれだけでいい」

あとはすべて俺に任せておけばいい。そんな簡単なことなのに暁は俺を見ようともしなかった。

「……出てってくれ」

「は?」

暁の声は小さくともしっかり聞き取れたが、意味がわからず苛つきながら聞き返す。暁は俺と目をあわせることなく今にも泣き出しそうな顔で叫んだ。

「だから、出てけっつってんだよ! 忍に話すことなんかない。俺のことは放っておいてくれ!」

「……っ」

反抗的な暁の態度に一瞬で頭に血が上る。なんだこいつ、本当にあの暁か。

「俺はお前のために言ってやってんのに、何だその態度」

「誰がいつお前に助けなんか求めたんだよ! 俺の事勝手に詮索すんな! あっち行け!」

「……お前、誰に向かってそんな口の聞き方してんだ。犯人庇う気か、またヤられてもいいってのかよ!!」

「忍!」

暁の胸ぐらを掴み上げる俺の腕を藤貴が掴んだ。そして俺を無理矢理暁から引き離す。

「お前ちょっと落ち着け。とりあえず暁から離れろ」

「はあ? お前に関係ねえし」

「あるよ。忍が暁を任せるって言ったんだから。暁を傷つけるなら、たとえお前でも許せない」

「別に傷つけようとなんか…っ」

「忍にそんなつもりはなくても、結果的にそうなってんだよ。とりあえず、いったん出てけ」

藤貴を思いきり睨み付けるも俺は奴に部屋から放り出された。しかも中から鍵をかけられたのでもう入ることができず、外から怒鳴りたくなるのを必死でこらえた。
こんなに強く藤貴に責められたのは初めてだ。奴はなんだかんだ言っても俺のやることを強く否定したりはしなかったのに。

暁から離れたものの、どうしてもイライラがおさまらずリビングを歩き回っていた。あんな情緒不安定な暁見たことない。まるで別人みたいだ。



しばらくして、藤貴が俺の部屋から出てきた。むすっとした俺を見て、憔悴した様子の藤貴は深いため息をついた。

「暁から話聞いた。あいつ、その時のこと思い出すのが今でも怖いんだよ。とにかく、お前はしばらく暁から離れとけ」

「……それで俺が素直に言うこときくと思ってんのか?」

「無理だろーな。でも、暁は忍だけには知られたくなかった。もう忍に会いたくないってそこまで言うんだぜ。あいつの気持ちちょっとは察してやれよ」

「……」

先程の暁の取り乱した様子を思い出し、唇を噛み締める。出ていけだの会いたくないだの、いくらなんでも弟に言う言葉じゃない。

「暁の奴、俺に向かってあんな酷いこと言いやがって。信じらんねぇ」

「はいはいそーだな。いつも可愛がってもらってたのに、いきなり冷たくされたら傷つくよなー」

「てめぇ馬鹿にしてんのか」

その言い方じゃまるで俺が暁に甘えてるみたいに聞こえるぞ。すっかり暁の肩を持つようになった藤貴に怒っていると、奴は俺を探るような目で見てきた。

「だいたいお前、ずっと暁のこと嫌ってたくせに何なんだ。いきなり兄弟愛に目覚めたのか?」

「んなわけあるか! 今でもあいつは嫌いだ。でも……」

あそこまで酷い目にあえばいいなんて思ったことは一度もない。気にくわないが俺達は兄弟、それも双子なのだ。身内を虚仮にされて大人しく引き下がれるものか。

「誰が……誰が暁にあんな事……」

「怒ってるとこ悪いけど、お前も似たようなことされてんじゃん」

「俺とあいつじゃ、全然ちげーだろ」

暁は純粋で、綺麗で真っ直ぐで、その汚れていないところが嫌いでもあった。どんなに冷たくしても、俺にまとわりついてくる暁が鬱陶しかった。でも、そんなあいつを自分勝手に汚した野郎がいて、そいつは何の罰も受けずに今ものうのうとあの学校に通っている。

「藤貴だって、あいつをこのままあの学校に帰すなんて言わないよな」

「……」

俺がやろうとしてることは余計なことなんかじゃない。暁ができないというなら、俺が代わりにそいつを罰してやるだけのことだ。


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