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しあわせの唄がきこえる
005


その後、俺は桃吾からメールが入るまで先輩に言い訳という名の説明をしていた。
もちろん流生が俺の代わりに殴られたというのは言ってない。いつも世話になっているので休んでいた流生にノートを見せていたということだけだ。
流生とは友達でいたいと正直に先輩に話したが、二人きりでいるのは絶対に駄目だと釘を刺されてしまった。
そして結局そのまま決着はつかず、またテストが終わった後に話し合うことになった。






「俺、何でこうなったんだろ…」

その後、事情を大まかに把握している幼馴染みに俺は耐えきれなくなって相談していた。桃吾は明らかに勉強したがっていたが、俺の方が勉強どころではなかった。

「んー…待って、これ解いたら」

「ちゃんと聞いてんのかよ、俺いま大変なことになってんだって」

「うん、聞いてる聞いてる。なあ、ここって何で−2じゃねえの?」

「聞いてねーじゃん」

テスト前で必死とはいえ俺の話はまるでスルーだ。スポーツ特待生なら普通の事とはいえテスト休み中にバスケしてたのだから自業自得だろうに。

「いーじゃんもう、今更やったって変わんないよ」

「お前他人事だと思って……」

「桃吾だって他人事だと思ってるだろー! 俺と先輩のこと!」

「テスト前に恋愛でもめんなよ。メンタルやられると勉強に集中できないぜ」

「……いや俺は別にテストで悩んでるんじゃないから」

「なら今は俺の勉強をみてくれ」

「……」

いつもは相談にのってくれる頼りになる奴なのに、テストのせいで余裕がなくなっている。助けてやりたいところだが今は俺の方が助けて欲しいのだ。こうなったら一方的に話し続けてやる。

「……先輩が怒るのも、わかるんだ。嘘ついて流生と会ってたんだから。でも正直に言ったら絶対許してくれねーじゃん。だったら内緒で会うしかないってなるだろ。先輩は流生を誤解してる。あいつのことちゃんとわかってくれたら、会うのだって許してくれる」

流生は確かに性格的に問題はあるのかもしれないが、自分から他人を不幸にしたりする奴じゃない。結果的に誰かの恋人をとることになっていたりして誤解されるのも仕方ない。でも俺の気持ちが先輩から流生へ動くことはないと言い切れる。

「うーん、どうだろ。俺はそう思わんけどね」

「何で!? 流生には酷い噂があんのかもしれねーけど、あいつ自身は悪くないんだよ」

何だかんだで返事をしてくれる桃吾は優しいが、どうして流生のことをわかってくれないのか。話だけの流生を知らないのだから仕方ないが、友達が嫌われるのは悲しい。

「いや、そういうことじゃなくてさ。崎谷先輩は遠藤に言いすぎかもしれねぇけど、それもお前を心配してるからだろ。先輩が間違ってるとは思わねーよ」

「でも俺と流生はただの友達なのに、少し二人きりになっただけでキレるのは変じゃん」

「そりゃ先輩が女だったらな。お前自分が男と付き合ってるってのをまず自覚しろよ。そんな常識通用しねーよ。もしかして暁、その辺あんまりわかってねえの?」

「……で、でも、桃吾と会うのは許してるのに」

「そりゃ俺がノーマルだからだろ。でもほんとは、俺と二人きりにだってさせたくないだろうよ。そこまで束縛するのは暁が可哀想そうだから、我慢してんだろ。……知らねーけど」

「……」

そう言われて始めて、俺は先輩の気持ちがわかった気がした。確かに桃吾の言う通りなのかもしれない。男同士だから意識してなかったが、もし俺が女だとしたら男と二人きりになんて絶対に許せないのはわかる。友達だといくら言われても内緒で会われたら怒るだろう。わかっているつもりでも、俺は何にもわかってなかったのかもしれない。

「お前と遠藤がいくら友達だと思ってても、先輩と付き合う以上さよならするしかないだろ。それが嫌なら別れるしかない」

「……」

「ってことで、ここ。どうやって解くのか教えてくれ」

桃吾はすでにテストに向かってまっしぐらだったが、俺はしばらく桃吾の言葉が頭から離れなかった。どれだけ考えても、解決策なんてない。結局俺は恋人か友達、崎谷先輩か流生のどちらかを選ばなければならないのだと、桃吾の厳しい言葉でようやく自覚することができた。








次の日、俺は朝からずっと流生と話をする機会をうかがっていた。昨日の夜から電話してもメールしても返事はなく、今朝もいつもの挨拶もなかった。しかも取り巻きが始終べったり囲んでいるので、声をかけるチャンスすらない。

やはり流生は昨日の事を怒っているのだろうか、と考えれば考えるほど不安になる。もしかすると俺に気を使って距離を置こうとしてるのかもしれない。その方が流生らしい気がする。だとすると、このままもう何も言わず離れた方がいいのだろうか。
いや、俺は昨日あいつを酷く傷つけたのだ。それを無視して謝りもせずに離れるなんてどうしても嫌だった。結果的に流生とは一緒にいられなくなったとしても、きちんと話し合ってわかってもらいたい。
このまま待っていても拉致があかないので、俺は勇気を出して流生に近づいた。

「る、流生、あのさ……!」

周りの視線は俺に集まったが、流生はこっちを向いてはくれない。くじけそうになる心を奮い立たせて、俺は話を続けた。

「ちょっと二人だけで話せないかな」

「……」

流生はしばらくの間、黙ったまま俯いていた。取り巻きの冷たい視線がとても痛い。

「…………いいよ」

小さな声だったが、ようやく返事をしてくれた。良かった、流生の声は怒ってない。

「今日の放課後、この教室でいい?」

「うん、ありがと流生」

ほんとは今すぐにでも話したかったが、しっかり時間をとるなら放課後がいい。とりあえず俺の説明を受ける気になってくれた流生に、心の底から安堵していた。


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