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しあわせの唄がきこえる
004


「言い訳や謝罪なんて聞くつもりねぇからな。もう遠藤とは関わらないって、お前はただそう言えばいいんだ」

「俺だって、謝る気はありません」

「……なに?」

二人きりになった教室で、先輩と俺は互いに睨みあっていた。先輩の怒りはもっともだが、俺だって怒っていたのだ。

「確かに悪いのは俺ですけど、それで流生を責めてあんな酷いこと言うなんて信じられない。しかも暴力まで」

「アホか、ほんとにやるわけねぇだろ。ただの脅しだ」

「だとしても、流生は怖がってたじゃないですか!」

「脅してんだから当たり前だっつーの」

あくまで流生にしたことを悪いとは認めない先輩に俺の苛立ちは最高潮だった。今にも爆発しそうになるのを深呼吸して抑え込む。

「先輩が流生に謝らないなら、俺は先輩のこと絶対に許しませんから……!」

「暁っ」

先輩に肩を掴まれた俺はずっとそっぽを向いていた。怒っているのはもちろんだが、同じくらいキレているであろう先輩が怖いので顔を見たくないのだ。

「……先輩が、俺の友達のことを悪く言うのは嫌なんです。流生は俺のこと本当に友達としてしか思ってないのに、何であんなこと言うんですか。そりゃ内緒でこそこそ会ってたのは良くないけど、他にどうしようもなかったんです」

流生を責める先輩を見るたび悲しくなる。崎谷先輩は本当はいい人なのに、俺のことで見境がなくなって何も悪くない流生を脅すなんて。これ以上先輩のあんな姿見たくない。

「お前があいつと一緒にいたがるのは、遠藤しか友達いないからだろ」

「なっ……」

「お前がクラスの奴から避けられてる理由、わかってんのかよ」

「え?」

それは……嫌がる崎谷先輩に無理矢理付きまとっていたのがファンの反感をかって、巻き込まれたくないその他大勢は見て見ぬふりを決め込んでいるからなのだが、それをそのまま先輩に伝えるわけにはいかない。

「それは俺の、社交性が、ないから……」

「アホか」

「いてっ」

先輩におでこに軽くチョップされる。さっきまでの荒々しさが嘘みたいな優しいツッコミだ。

「遠藤がお前に誰にも近づけねぇようにしてるからに決まってんだろ」

「え!? 嘘!」

思いもよらぬ言葉に俺は先輩の肩を思いきり掴む。流生がそんなことをしてるなんて、いくら先輩の言葉でも信じられない。

「それほんとなんですか? 何でわかるんですか?」

「そんなの普通に考えればわかるだろーが」

「普通にって……まさか勘!?」

「おう」

「なんすかそれ……」

「例え遠藤にその自覚がなかったとしても、あいつがいることで他の奴らはお前に近づけない。あいつと縁が切れればお前も自由になるだろ」

「……」

駄目だ、まず先輩の流生に対する偏見をどうにかしないと。このままだと先輩に丸め込まれる。

「暁、俺の部屋に行くぞ」

「や、やです」

「……はあ?」

「俺、まだ怒ってるんですから。それに今日はこの後、桃吾の勉強見る約束があるんで」

そもそも桃吾がテスト前でも自主練するというので、それを待つ間流生と一緒に勉強していたのだ。先輩も幼馴染みの桃吾の名前を出されては無理強いはできないらしく、眉間にシワを寄せていた。

「……仕方ねぇな、今日は特別に許してやる。だから機嫌直せ」

「俺は許してません。だから先輩は流生に謝って……わっ、ちょっ」

俺のシャツに手をかけたかと思うとあっという間にボタンを手際良く外していく先輩。慌てて止めようとした俺をそのまま机に押し倒した。

「先輩、こんなとこで何っ……やめて、ください……っ」

首筋に何度も強く吸い付かれ、俺は本気で抵抗した。いつもならここで流されてしまうところだが、今日の俺はいつもとは違う。いくら誰もいないとはいえここは教室だし、何よりとても腹が立っているのだ。

「離せっ、やめろよ…!」

「……暁、俺はお前をいいなりにさせたいわけじゃない。不安なんだ、遠藤にお前をとられるんじゃないかって」

「え?」

「俺はただ、お前が好きなだけなんだよ」

「先輩…」

そっと抱き締められて、先輩の不安が直に伝わってくる。先輩がそんな風に思っていたなんて知らなかった。その聞いたこともない気弱な声に、俺の怒りはしぼんでいった。

「あの……俺はホモじゃないですし、先輩以外の男とどうにかなるわけないじゃないですか。好きなのは、先輩だけです」

「暁……」

重ねられた唇を受け入れ、先輩の首に手を回す。何もかも頭から追い出して、俺は先輩と激しいキスを続けていた。

「んっ、んぅ……あ、先輩っ、先輩…!」

「暁…」

シャツはほとんどひん剥かれていたが俺は気にしなかった。けれど途中で先輩の口づけが止み、何事かと先輩の視線の先を追うと、そこにはこちらを見て立ち尽くす流生の姿があった。

「……る、流生!? なんで…」

「ごめん、俺、やっぱあき君が心配で……」

戻ってきた流生は、絡み合ってる俺達を見て後ずさる。そしてほぼ半裸の俺から目をそらし逃げるように走り去っていった。

「流生、待って!」

「暁っ」

慌てて追いかけようとした俺は先輩に手を掴まれ引き留められる。振り払おうとしても先輩に力で叶うはずもなかった。

「離せっ、流生を追いかけなきゃ……」

今のを見られたんだ。絶対に勘違いされた。いや勘違いでもないが、流生からすれば俺は邪魔物をさっさと帰して先輩といちゃいちゃしてた最低野郎だ。流生には先輩を許さないと言っておきながら、結局はこんな言い訳もできない有り様になっていたのだ。ショックを受けていた流生の顔が忘れられない。早く謝らなければ。

「先輩!!」

「駄目だ、あいつんとこには行くな」

「なんで…!」

「俺のことが本当に好きなら、今はここにいてくれ。……頼む」

「……っ」

ずるい言葉で引き留められ、俺は暴れるのをやめた。本当はすぐにでも流生を追いかけたいが、そんな風に言われたら諦めるしかない。
後ろから強く抱き締められて、後頭部にキスされる。傷ついたであろう流生のことを思うと、その後先輩に何を言われても頭にまともには入ってこなかった。


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